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傍にいるよ

青国・玄椿宮に連れ戻されてしまったダルテ。

ダルテは、傍仕えの月代が、昴の父親だと知り、昴を交えて脱走を企てる。

母になったダルテは、果たして無事に脱走を果たせるのか!?

異世界を舞台に、繰り広げられるラブロマンス

ダルテは、かつてない幸せの中にいた。

抱き締める昴の腕の中で、身じろぐ度に、ベッドが軋む。

ふわふわ、ふわふわ漂って。

どこにいるのか、分からない。

「ど、こ?昴」

伸ばした手を、優しく握りかえしてくれる、昴の大きな手。

「ここにいる…分かるだろ?」

軽やかに降ってくるキス。

もう何度目だろう?

くすぐったい。

もっと、傍にいたい。

「ねぇ?昴」

「…なに?」

気だるげに顔を上げた昴に、ダルテは、ふわりと微笑んだ。

「もし…あたしが死んじゃっても、あたしを忘れない?」

「ダルテ!」

素っ頓狂な声を出す昴を、ダルテは思いつめた瞳で見る。

「当たり前だろうが…どうした?」

「ううん、ごめんなさい…。ねぇ、あたしを離さないでいて?」

「お、おう」


青国皇帝・玻渓は、術者の鏡を使った方術で、王妃・ダルテと昴の情事を盗み見ていた。

玻渓は、ダルテを愛してはいなかった。

人狩りの際に見つけた、愛玩動物ほどにしか、思っていない。

しかし、いざ自分以外の者が触れるのを見ると、どうしようもなく腹が立つ。

我慢できないほどに。

「あの妖、狩ってしまう事はできるか?お前、答えよ」

玉座の上から、伏礼する数名の術者のうちの一人に、玻渓は尋ねた。

「あの妖は、言ってしまえば単なる猛獣にございます。射殺してしまえば、簡単に片がつくかと」

長い金髪を、無造作に束ねた男が、伏せていた顔を上げて応えた。

台輔(たいほ)、夏官に伝えて射士を集めよ」

「御意に」

台輔とは、宰相さいしょうのことである。

この男の名を、刹霞せつかという。

刹霞が席から立った瞬間、正寝の扉が、勢いよく開いた。

「そんな事、させないわよ!」

部屋中に響いた怒声に、術者たちは勿論、刹霞や、皇帝の玻渓までもが怯んだ。

ダルテだ。

かつかつと、ヒールの音が玻渓に向かうのを、術者たちは、茫然と見送った。

「アンタに、あたしや昴を罰する資格はない!覚えておいて、立場を利用しようだなんて、思わない事ね」

「きっ、貴様…無礼にも程があるぞっ!おい刹霞、夏官を」

指先を突きつけられた玻渓は、顔を真っ赤に紅潮させて、ダルテに怒鳴る。

呼べ、と続けようとした玻渓は、万力で腕を締めあげられて、ヒッと喉の奥を鳴らした。

「おっと…動くなよ?命が惜しけりゃ、動かんことだ。足首、いや首かも知れねぇな、パックリいくぜ?」

月代は、ニカッと笑うと、締めあげる腕に力を込めた。

「なっ…なっ、お前は!ダルテの従者っ」

じたばたと、身じろぐ玻渓に、月代は溜息をついた。

「だーから、動くなって…今な、こいつら腹減ってんだよ。姫さんの前での殺傷は避けたい…眷属共に食われたくねぇなら、追うのは止しな」

月代が、つま先で床をつつくと、無数の低い唸り声がした。

「いいな、覚えとけ…俺の息子と、娘に手ぇ出すなら、その時は貴様の命の終焉だと思え」

昴は、ダルテを抱えると、ふわりと窓から数メートル下の、地面に飛び降りた。

月代は、底冷えのする瞳で周囲を威圧すると、床下に潜む眷属たちに、ここを頼む、と一言告げて、昴の後を追った。


 昴は、ダルテに衝撃を与えないように、大切にしながら、白圭まで戻った。

「動いたわ…今」

昴の腕の中で、ダルテはぽつりと呟く。

「ん、どうかしたか?」

昴のすみかに戻ったダルテは、ソファに、昴と二人で寄り添っていた。

「お腹の子…いま動いたのよ、すごく蹴ってる」

「ここにいるって、言ってるみてぇだな」

ダルテの、少し膨らみ始めた腹を、昴は、愛おしそうにそっと撫でた。

「ええ」

「お〜い…俺もいるぞー?お忘れなく」

キスしそうになった新婚夫婦を、月代は、ひらひらと手を振って阻止した。

見かけは若いのに、なにやらジジむさい。

「月代って、あたしより少し年上っぽい外見だけど、実は若作り?」

ぐさっと刺さる、言葉の直撃。

月代は、かなり怯んだ。

「さっ、刺すなよ…これが地なんだっ」

「若年寄?」

「いや、ただのジジイだぜ?」

そこに、いつの間にか昴も参戦。

「やめんかっ、刺すなってんだろうが!」

汗だくで、必死に弁解する月代に、どっと笑いが起こる。

ダルテは、今が一番幸せだ、とばかりに、孟極になった昴を抱きあげた。

(みんな、いてくれる…昴も、月代も、お腹の子も。あたし、もう一人じゃないんだ)

「ダルテ、泣いてるのか?」

銀の豹が、目を細めて、ダルテの頬を伝った涙をめ取る。

「いいの…今、すごく幸せなの、あたし」

だから少し、もう少しだけ…このままで。

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