落花流水
人間に興味を持つ、妖の少年・昴が、逃亡中の人間の少女・ダルテに恋をした!
真っ直ぐに想いを伝える昴に、なかなか素直になれないダルテ。
うーむ、この恋どうなる?
遮る物のない、ひび割れた大地を、人間との共存を夢見る妖の少年・昴が夢を抱いて荒野を渡る!
異世界が舞台に繰り広げられる、ラブロマンス
「ほら昴ってば…早く起きてちょうだい!」
掛け布団が、勢いよく剥ぎ取られる。
ベッドの中心で、丸まっている昴を揺り起こすダルテ。
「うぅ…まだ眠てぇよぉ」
「もう、朝食の用意ができていてよ?いい加減に起きてっ」
丸まる昴の背中を叩くと、ダルテは急々と部屋を出て行ってしまった。
ドアの閉まる音を聞きとどけてから、昴は、ぱか…と目を開けた。
「もー少し、優しく起こしてくれたって…いいのになぁ」
それでも、ダルテと暮らしていると思うだけで、堪らなく嬉しくなる昴である。
いくら人間に興味があるとはいえ、それは、初めて昴の中に生まれた感情。
昴とダルテは、出逢って間もないながらに、激しく惹かれ合うようになっていた。
種族が違う、と蔑まれても、生きられる時間が短くたっていい。
これを運命というならば、そうなんだろう。
こんなにも、ダルテが愛おしい。
居間、兼台所に下りると、そこには、既にダルテの姿はなく、木製のテーブルの上に、布巾の掛かった‐‐―‐レーズンとクルミの入った、ダルテ手作りのパンと、リンゴその物が1個が入ったバスケット‐‐―‐朝食が用意されていた。
外から、上機嫌なのか、ダルテの鼻歌が聞こえてくる。
なにをしているか気になった昴は、パンを片手に、窓辺に近づいた。
ダルテは、洗濯物を干しながら、絶え間なく、楽しそうに微笑んでいた。
(それにしても嬉しそうだな、行ってみるか)
用意してあった食事を平らげると、昴は外に出て行った。
「ありゃ…いねぇ!?」
昴が外に出た時、そこにいたはずの、ダルテが消えていた…。
きょろきょろと辺りを探していたが、やがて、昴は少しもとり乱すことなく、まっすぐ森の奥に向けて歩き始めた。
別に、確信があるわけではない。
けれど『そこ』に、ダルテがいるような気がしてならないのだ。
つまるところの、カンである。
森は、奥に入って行くにつれて、緑豊かになっている。
森の外郭を被う大木が、柔らかな緑を、囲むようにして守っているからだ。
しばらく歩いていくと、丈の短い花の群れの中。
案の定、ダルテは座りこんで花を摘んでいた。
夢中になっているらしく、まったく昴に気づいた様子がない。
『惚れた弱み』とでも言うのだろうか…。昴は、ややしばらくダルテに見とれていた。
「…ダルテ」
ダルテの傍に、昴は座りこんだ。
「あら、やっと起きたわね…見て、これキレイでしょ?」
「まあ…な」
照れ隠しに、ふいと顔をそむける昴。
そんな昴を気にしたふうもなく、にこにこと、ダルテは笑いながら花摘みを再開させた。
(かわいい…かわい過ぎるっ!)
鼻の下がだらしなく伸び、顔がゆるみ。
どこまでも、のろける昴。
のろけ過ぎて、顔のデッサンが崩れている。(誰か、この男を止めろ!)
その間も、ダルテは花を摘み続けた。
その隣で昴が、ろくでもない妄想を膨らませているとも知らず。
「っきゃ」
吹きつけた大風に、ダルテの髪と花びらが、嬲られて舞う。
「もうっ、いやな風ね!折角きれいに咲いてるのに、台無しだわっ」
乱れた髪を撫でつけながら、頬を膨らすダルテに、昴はぷっと吹き出してしまった。
「散ってしまうから、別に悪い訳じゃねぇぜ?風に乗って水に舞い。いつか遠い地で、また花を咲かせる。落花流水っていうんだ」
「え?」
ダルテは、ぽかんと昴を見つめた。
「ま、ホントは別の意味だけどな」
どういう事、と言いかけたダルテは、花の中に沈んだ。
色とりどりの、花びらが散る。
「な、なんなの?昴」
「落花流水にはな、別の意味がある…知りたいか?」
意味深に言う昴に、ダルテは可愛らしく、小首を傾げた。
「…なん、なの?」
ダルテは、どんどん頬が熱くなるのを感じた。
おそらく…いや絶対。今の、この体勢のせいだろう。
昴に、押し倒されているのだ。
それからすぐに、唇に柔らかな衝撃。
キス、だった。
それも、息のつく間も与えない、荒々しいもの。
貪るように…深く、深く。
なにかが、ごっそりと攫われていくような感じがして、ダルテはぎゅっと目を閉じた。
「んんっ…ふっ、ふあっ?」
突然の終わりを告げられ、ダルテはひどく噎せる。
しかし、不思議と嫌なものは浮かばず。
むしろ、その真逆の気持ちさえ生まれた。
(あたし…この人のこと、愛してる)
「…こういう事だ。俺とお前が愛し合うように、男と女が、自然に惹かれ合うこと」
「さらりと言うのね…愛し合う、だなんて」
ダルテは、恥ずかしさのあまり、まっすぐに昴が見られなかった。
「だーって、そのとおりだろ?」
ゴロゴロと、喉を鳴らして甘えてくる昴を、ダルテはフタ押ししてやり過ごす。
「先に帰るっ!」
「って、なに怒ってんだよ…待てってば、ダルテ!」
「いやっ、絶っ対にいやっ!」
ずんずんと、先を行くダルテに、昴は小走りについて行く。
実は、なかなか素直になれないダルテは、気持ちの急激な変化に、困っているのだった。
その末に結局…。
ダルテは、クローゼットの中におこもり。
昴は、所在なげにうろつくばかりだった。
「ダルテ!謝るから、とりあえず出てきてくれよぉ」
「い・や・よ!もうっ、昴のバカッ、エッチ、色魔っ」
「そっ、そこまで言わなくたって…仕方ねぇだろ、それが男のサガ…って違う!とにかく謝らせてくれ〜っ」(泣)
「も〜っ…いやったら、いやっ!」
「あうぅ〜」
そうして、いつの間にか…夜は更けていくのだった。
ども、維月です。ううむ…ダルテ、書いてて楽しいですね、意地っ張りで、強気な女の子。(これって、どうなんだろう?)
恋愛模様を書くのは、難しいですが、結構楽しんでます。
こんな私でもよろしければ、ぜひ次回もご期待くださいませ。それでは。