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短編集

空を飛ぶ、うす緑の透明

作者: ジェルミサ

以前某所に投稿していた作品です。


ちょこっとだけ内容変えました。

「飛行機って何?」


「空を飛ぶものよ」


「鳥みたいに?」


「ううん。空を移動するだけ」






 おかしな夢をみた。青い空みたいな色の服を着た子供が二人、必死に何か作っている。子供は殆ど同じ大きさだったけど、少し早く生まれた方とそうでないのの違いが何となく分かった。

 少し年少の方が年長の方に飛行機について尋ねていた。夢を覚えている事が珍しかったのと、会話の内容が気になって、その日はそれを考える事にした。

 そういえば、私って、飛行機の歴史について、何も知らない。確か、ライト兄弟が作ったはずだけど、それがフランス人かドイツ人か分からない。アメリカ人だっけ?興味のない事って嫌ねぇ。知らないんだから。

 確かに飛行機は空を移ままな動する乗り物だ。間違いない。間違いないけれど、確か飛行機ってもっとロマンチックな事もあったような。何だっけ。




「とみさん」

「なぁに?」

「さっきから宿題をする手が止まったままなんですけど」

「…あぁ」

 そうだった。宿題をしに来ていたんだっけ。すっかり忘れてた。

「なぁに?どこか分からないの?」

 私の質問に目の前で数学とにらめっこしていたアキラは力なく笑った。





 ヒトミは頭がいい。それも半端じゃなく。辞書を片手にドイツ、イタリア、ロシア語の原文の古典をよく読んでいる。

 が、それを僕以外の誰にも見せる事がない。世界中で僕だけが知っているというのは特別で嬉しいけど、もっと世の中の為に働くような方向に向けたほうがいいんじゃないだろうか。

 ヒトミの今の学校でのあだ名は「不思議ちゃん」らしい。まぁ、「ヒトミ」って名前を「とみって呼んでくれない?古風で素敵だから」とかいう女子高生は確かに不思議ではある。馬鹿と天才は紙一重っていうしね。

 まぁ、不思議と馬鹿は違うけど。僕はせっかくだからもっと古風に「さん」まで付けて呼ぶひねくれ者だ。


 説明してくれた相変わらずヒトミの説明は明瞭で、僕はここ何日か一人で格闘していた数式をやっと理解した。

「分からないなら、何でさっさと聞かないのよ」

「自分で理解したかったんだよ。でも、やっぱり聞いたほうが早くて確実。やんなっちゃうな」

「そうよ。アキラは数学苦手なんだもの。最近成績は上がってるみたいだけど」

「おかげさまで。とみさんよりも賢いと言われてる学校で、それなりにいい成績をとってますよ」

「ふふ」

 …何が楽しいのか分からない。その態度、世界を馬鹿にしているように思えるんだけど。ヒトミが真剣に全国模試を受けたら何位になるんだろ。

 平気で1位を取りそうで、試してもらう事も出来やしない。

「あら、何よ、これってば3年生のじゃない。何で今からやるわけ?」

 僕の教科書を閉じたヒトミはその表紙を見て首をかしげた。

「進学校は高校の課程を2年で修了して、3年は受験対策に時間を使ったりもするって事」

「ふぅん。…えぇ?!そんな、つまらない…問題集を解くだけになったら、さぼるのが面倒じゃないの!やっぱり一緒の学校に行かなくて正解だったわ」

「皆はとみさんみたいに、授業時間をいかに快適に過ごすかのためだけに人生使っていたりしないからねぇ」

 僕の話を聞いているのかいないのか。ヒトミは僕の数学の教科書を持って、なにやら考え始めた。…ちょっとこの顔のヒトミはやばいんだけどな。何考えてるのか怖くて聞く気にならない。頼むからあまりでかいことは思いつかないでくれ。今日は平日だ!


「エンジンってこの公式?」

 ヒトミは自分の国語のノートにナゾの数式を書き始めた。

「は?!」

 自動車会社のエンジニアじゃあるまいし、そんな事知るもんか。って、エンジニアがエンジンを数式にするのかどうかすら分からない。エンジニアっていうのが何をしてる職業なのかもよく分からない。

「いや、違うな。むしろこれで…」

 ヒトミは僕の話なんか無視で、今度はルーズリーフになにやら数字を書き始めた。延々続くそれが正しいのか間違ってるのかはもちろん全く分からない。ルーズリーフを4枚埋める事、その時間15分。

「出来た!」

と、満足そうにヒトミは笑った。その笑顔に思わずつられて笑ってしまう僕は相当やられてる。

「何が出来たの?」

「飛行機よ!」

 …はい?!

「これで飛んだわ。すごい、かっこいい!!ねぇ、機体の色は何色がいい?アキラに決めさせてあげる」

「模型の飛行機?」

「馬鹿ね。飛行機は移動する為のものでしょ。ね、色を決めてよ。プレゼントなんだから」

と、ヒトミが興奮して言った。僕へのプレゼント?ではなさそうだな。飛行機貰っても困るけど。大富豪じゃあるまいし、一介の高校生にはとても管理できない。しかし、誰へプレゼントする気なのさ。ちょっと面白くないな。

「じゃ、あの色で」

 僕は目に入ったペットボトルのお茶を指差した。

 どうだ、ちょっと困っただろ。いつもおかしな事言われている周りの気持ちも知ればいいんだ。

 が、さすが不思議ちゃん。驚きはしたが困りはしなかった。

「この色?うす緑の透明?」

 その色の表現は合っているのか?合ってそうだけど。僕なら単にお茶の色って言っちゃいそうだ。

「…好きそうね。いいわ。この色にする。ありがと、アキラ」

 お礼なのか、嬉しかったのか、ヒトミは僕にぎゅっと抱きついてきた。一瞬で離れたけど。真っ赤になった顔を見られたくない僕は、後ろを向いて数学の教科書とノートを鞄にいれながら、ヒトミに言った。

「とみさん、宿題は?僕終わっちゃったけど」

 案の定ヒトミは眉間にしわを寄せた。

「ひどーい!まだ私終わっていなかったのに」

「僕はとみさんのようにぼけっとしたりして時間を無駄にはしていなかったですから」

「あら、私だって無駄にしている時間なんて1ミリもないわ」

 ヒトミ、単位間違ってる。時間はミリではなく、秒や分です。言い返すと後が怖いから言わないけど。

 僕が机からノート類を片付けたのが悔しかったのか、負けじとヒトミもノートを鞄につっこんだ。教科書は…重いから学校に置いている。持ち運ばない為に全部暗記してるんだ。

 どうだよ、こいつの才能の無駄遣いってさ。

「宿題終わってないんじゃなかったの?」

「いいのよ。どうせうちの高校、宿題を全部真面目にやっていく子なんていないもの。もし先生からあてられたらその時考えればいいし」

 さいですか。その後、ヒトミは先ほどのルーズリーフをつかみ、僕のベッドにもぐりこんだ。えぇ?!

「私、今から寝るから。朝まで寝てたらごめん。その時はうちに連絡してね。じゃ!」

「って、おい、ヒトミ!」

 ヒトミは掛け布団の陰からじっと僕を睨んだ。

「寝る場所がないなら、私の家に行って私の布団で寝てればいいでしょ!」

 無茶を言うな。って、問題はそこなんかい!

「あ!」

 何、考え直してくれた?

「私、制服着たままじゃない。しわになるわ。ちょっとアキラ、何でもいいから服貸してよ。そうか、寝るんだからパジャマ。ちょっと、早く!」




「あら、アキラ、ヒトミちゃん、じゃなかった、トミちゃんは?」

「…寝るんだって」

「はぁ?…眠くなっちゃったの?寝不足だった?」

「夢で見かけた子供に飛行機をあげるから、寝なくちゃいけないんだって。多分その子供に会えるまで寝ると思うよ。」

「…あんたも変わった子好きになっちゃったねぇ。お母さんも、ヒトミちゃん大好きだけどさぁ。これから先の人生、あの子と一緒、あんたも大変だねぇ。アッハッハ」

 母上、笑うとこですか?とりあえずすぐに起きるかもしれないから、21時まで、ヒトミの家、坂本家に電話をするのは止めておこう。っていうか早くその飛行機の夢を見てくれるといいけど。

 今日が金曜の夜なら良かったのにな。二日も寝てれば夢も沢山見るだろうし、途中で飽きて別なこと考えてくれるかもしれないし。僕のボキャブラリーではヒトミが一旦決めたことを覆せたためしがない。僕はため息をついた。


 僕の部屋の壁にヒトミのセーラー服がかかっているって事自体がかなり落ち着かない。ヒトミが着ている時より単にハンガーで吊るされてる時の方が気になるってどういうことなんだろ。



 結局、すぐに見たい夢が見られたらしいヒトミを送っていく事になった。星空の下、ヒトミはご機嫌だった。ヒトミが嬉しいと僕も嬉しい。

僕が星を「ロマンチックだね」と、言うと、ヒトミが目を輝かせた。

「そうよね!」

「え?」

 今度は何だよ。また何かまずいこと言っちゃった?

「飛行機でロマンチックって行ったら、新婚旅行での移動じゃない?何だ、そうか。それだったのね。ね、アキラはどこ行きたい?!」

 何だか分からないけど、逆プロポーズですか、ヒトミさん。

「そ、そうだな。やっぱりヨーロッパ?!」

 うろたえてどもる僕。かっこ悪い。

「そっか」

 楽しそうにハミングを始めたヒトミに僕は尋ねた。

「とみさんはどこに行きたいの?」

「さー?アキラと一緒ならどこでもいいから。

 …何でそんな真っ赤になってるの。私がアキラを好きなのって昔からじゃないの。何でいつまでも照れるかなぁ」


 不思議ちゃんの中には照れるって言葉はないんだろうか。いや、この夏アサガオと目があった、と言って真っ赤になったのを見たぞ、僕は。アサガオ相手で何をそんなに照れることがある。それよりアサガオの目ってどこだ。










「これは飛行機ですね」


「そうですね」


「飛行機は気がついたら出てくるもの?」


「いいえ。これは作られたもの」


「乗ってもいいですか?」


「いいでしょう。そして、移動しましょう」


「はい」






エンジンの公式、恐らく現実に存在するのでしょうが、作者にも全く理解できないと思います。

アキラは今後どんだけヒトミに振り回される人生を送るんだろう…

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