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学園テンセイ劇場  作者: シュナじろう
>破章之前 こうして私のお嬢様生活は進んでいく
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第9話 西園寺瑞樹の初サマーライフ


 夏休みに入った。

 学校の友達はみんな長い休みになるからと浮かれているようだった。

 ただ、やはりというべきか、宿題も相当量出されることについてはちょっとだけ辟易としているようだったが。

 私にとっては懐かしいというか、こんなのあったっけ、というような宿題ばかり。絵日記とか、その最たるものだ。

 絵日記といった時点で、習い事として絵画を嗜んでいる皐月が、


「日記に絵を入れるのですか? でしたらそのようなものではなく絵の具を用意したほうが……」


 などと言ってきたが普通に断った。というか、絵日記に絵の具とか、初めて聞いた気がする。どうやって絵日記に絵の具を塗りたくるんだ。別に紙を用意して、それに絵を描くとしても相当手間がかかる。はっきりいって絵日記に描く絵の範疇を超越してしまっているだろう。いや、中にはそういうのもあるかもしれないけど。


 皐月は皐月で、いろいろ宿題を出されたようだ。

 というか、夏休み用の問題集として小冊子が科目ごとに出されていた。どれだけきついんだって。

 そう思っていたら、後半は答えが乗っているらしい。なんというか、厳しいのかそうでないのかよくわからない。


 あとは、ラジオ体操に参加することになった。ラジオ体操の案内が来て、それを見せたらなんか乗り気になった。いわく、護衛を連れて行けば問題はないし、健康面でも効果が高いからあながち無視できないらしい。

 家の敷地内でやればいいだろう、といわれるかと思ったが、学校のコミュニティで行われるそれに乗り気になったのは、上流階級ということもあって疎かになりがちな、他の保護者達とのコミュニケーションを取るきっかけにもなるかもしれない、という親なりの事情もあったのかもしれない。住む世界が違うといってもやはりPTAなどの関わり合いはあるし、西園寺の家の評判を守るためにも、学校に子供が通う以上それからは避けては通れない道、と母さんが苦笑気味に言っていたのが印象的だったから。

 意外だったのが、皐月も参加意思を表明してきたことだ。

 生粋のお嬢様学校に通っているのでそういうのとは無縁みたいだったのだが、逆にそれが妹の好奇心に火を点けたらしい。

 私が知る限り西園寺皐月、初めての地団駄、というより、ハンガーストライキを見た気がした。お母様が認めるまで部屋から出ません! とか、言葉遣いが上品なだけにとてつもない迫力があった。『皐月様』の気配を何となく感じた私はきっと間違っていない。

 さすがに一日まるまる呑まず食わず、というのには母さんも負けたらしく、最終的には『仕方がありませんね。許可します』といかにも苦渋の選択をしたような顔で皐月のラジオ体操への参加を許した。


 そんな騒動があった翌日。

 とりあえずまずはどんなものなのかを見学してもらってから、朝食を済ませた後自室で読書をしていると、ドアがノックされた。

 時計を見てみれば、朝十時ごろ。母さんは朝食を済ませると身支度を整えて父さんと二人、仕事で出ていったはずだからその線はないし、習い事や家庭教師は今日はいずれも午後からの予定だ。……となると、皐月あたりだろうか。


「はい、誰でしょうか」

「私です、皐月ですお姉様」

「皐月? どうしたのかしら」

「その……実は、少々お願い事がございまして……」


 なんだろう。普段は遠慮深く、頼み事なんてめったにしない皐月が私に頼み事なんて珍しいこともあったものだ。

 とりあえずドアを開けて部屋に招く。と同時に、鈴を鳴らして使用人を呼び、お茶を入れるようにお願いする。


「それで、お願いっていうのは?」

「えっと……私と、ダンスを踊っていただけませんか?」

「はい……?」


 私は数回、目を瞬いた。




「そうそう、今の感じです。皐月様、今日はいい感じですね。やっぱり瑞樹様と一緒だからかしら」

「そ、そんなことありませんわ……もぅ、柴崎様の意地悪……」

「………………」


 なんだろうかこの茶番は。

 いや、茶番ではないのはわかっているんだけどさぁ。なんというか、一言モノ申したくなってくるんだよね。

 ダンスを一緒に踊っていただけませんか、ってようは一緒にダンスの練習に付き合ってくれないかっていうことだったんか。

 まぁ、理由はわからなくもない。私も、柴崎さんではなくて別の人があてがわれているけど、社交ダンスというのは慣れていなければ体格があっていないと踊るのは難しいみたいだし。まぁ、実際には男女一組で踊るのが基本だから、そうもいっていられないんだろうけど。それにしたって、体格差がありすぎる。


「お母様に掛け合ってみましょうか……。私も、やっぱり皐月と踊ったほうが動きを合わせやすいといいますか……」

「そうでしょう、お姉様もそう思いますわよね」

「うーん、そうですわね……私としましても、やはり最初は似た体格の人と踊って慣れていくのが一番だとは思っていましたしねぇ……」


 十分ほどの小休止。使用人たちが淹れてくれる紅茶を飲みながら、私と皐月、そして皐月を担当しているダンスの講師柴崎さんはゆったりと話し合う。

 とはいえ、母さんは今日は夕方までいないだろうし。この話はまた明日以降ということになり、お流れとなった。


 その後、ダンスの練習はそつなく終わり、柴崎先生を送り出す時間になる。

 と、先生を玄関まで案内していると、皐月が急にこんなことを聞いてきた。


「そういえば、お姉様。明日のラジオ体操、昨日と同じ時間でいいのですよね?」

「えぇ、そうですね。基本的にそこは変わりません。6時半から開始、というのも学校側から掲示されているものですから変えようがありませんし」

「……ラジオ体操ですか」


 そこへ食いついてきたのは、他でもない柴崎先生。

 どうやら、柴崎先生もそういう学校行事……というほどでもないが、取り組みとは無縁だったのだろう。興味津々といった顔で聞いてきた。


「そういえば、公立の小学校では夏休みにそういったものも実施しているところがあるということを聞いた話がありますね。瑞樹様は公立の学校に通われていると聞きましたし、もしかしたらと思いましたが……本当に、あるのですね」

「聞いたことはあるのですね」

「実際に今の話を聞くまでは半信半疑でしたけどね。でも、そういうのはよいことだと私は思いますよ」


 ただでさえ、夏休みというのは運動不足になりがちな季節ですから、といわれれば反論はできない。皐月もそうなのか、気まずそうな顔をして目をそらしている。

 まあ、休みの日くらい、ゆっくりしていたいと思うのは普通のことだ。それが長い期間続くというのであれば、なおの事ゆったりと過ごしたいと思うのも、おかしいことではない、と思うし。ただ、まったく動かないでいるというのはそれはそれで問題だ、という話だろう。


「まぁ、ダンスの練習の直前にもラジオ体操や柔軟運動はしますから二度手間みたいにはなりますけど、朝起きて、活動を始める前に運動をするというのは、たとえそれが軽いものであってもしないのと比べて違うものです。皐月様たちのご両親がお許しになったのもその辺の事情があったからでしょう」


 いや、それはどうだろう。

 さすがに頭ごなしにその推測を否定することはできないけど、母さんが言うには学校の保護者会での体面を守るため、という事情があるからといっていたし、皐月の場合はハンストに負けたという経緯もあるから。



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