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学園テンセイ劇場  作者: シュナじろう
>破章之前 こうして私のお嬢様生活は進んでいく
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第8話 西園寺瑞樹の自宅学習


 季節は進み、初夏となった。私がこの世界に転生してから起算すれば、半年近くといったところだろうか。


 私のお嬢様生活において、特に特殊化したのは学業だ。

 無論、子供だし、義務教育期間だから学校には通っている。公立とはいえ、宿題もやはり出される。

 しかし、同年代向けに出される課題は私の抱えている特異な事情からあるだけ無駄と判断され、今は家庭教師の人に来てもらって、私専用のメニューを組んでもらっている状態だ。

 最初に学力を推し量るためのテストを用意されたが、それで私が(最低でも)高卒程度の学力を持っていることに驚かれた時の母さんの話術は見事なものだった、の一言に尽きる。


 それで、今は地方公務員試験対策問題集をもとに各分野をまんべんなく学んでいるところである。

 やはりというかなんというか、前世で学校を卒業して、十年近く時間が経ってしまっていたために忘れてしまっていた部分もあったりして、それくらいがちょうどいいという感じだ。


 ここ最近は習い事もいい感じに趣味として馴染んでき始めてきてしまい、いよいよお嬢様らしくなってしまったなぁ、などと感慨にふけりながら、今日も食後の自由時間を読書で過ごしていると、例のごとくというべきか、皐月が部屋にやってきた。


「お姉様、今はお時間よろしいでしょうか?」

「ええ、大丈夫よ皐月。どうかしたかしら」


 皐月はやはり、どこか心配そうに私を見ている。

 どうしてこの子は、ここ最近こんな顔をするようになったのだろうか。


「お姉様が、どこか、遠くに行ってしまいそうな気がしてしまいまして……」

「なんですか急に」

「……だって、半年くらい前からお姉様、人が変わってしまったみたいにどんどん、雰囲気が移り変わってしまって……」

「あぁ、それは、その……」

「お姉様。お姉様は……本当に、お姉様、ですよね…………?」

「…………っ」


 突然そんなことを言われて、思わず言葉を失ってしまう。

 本当に、皐月は聡い子だ、と。それが何による変化なのかはわからなくとも、どのような変化なのかとても鋭敏に、捉えてしまう。――そう、この、私が『私』なのかどうか、という問いかけのように。

 そう思われてしまうのも、わからないでもない、かもしれない。むしろ、そう思われないほうが、おかしいだろう。

 この子にとってしてみれば、一時期私の雰囲気が激変して、それでも双子の姉として受け入れようと思っていたところへお嬢様教育を受け始めたことによる再度の立ち振る舞いの変化。不安がるのは仕方ないことだ。


「おかしなことを聞くのですね。私は私ですよ」

「そうですか……? そう、ですよね……」

「そうに決まってるじゃないですか……。まったく、本当になんなんですか……」


 でも、その事情を言うことはできない。言ったところで信じてもらえないだろうからだ。

 だからこうしてはぐらかすことしかできない。

 皐月は複雑そうな顔をしてそのまま退室していったが――あの顔は、どうにも納得いっていない顔のように思える。ようはごまかしきれてはいないということ。

 これからどうするべきか、どう付き合っていくべきか……新しく考えないといけないことが増えたかもしれない、と内心頭を抱えながら、テーブルの上に置いた本を再び手に取った。




 気を取り直して、私は読んでいた本に視線を戻す。

 読んでいるのは、前世でも存在していたローファンタジー小説。とある少年のもとへ突如魔法学校から届いた入学許可書。それにより、少年はその魔法学校に通うことになり、やがて過去との因縁と戦うことになる――という、海外発の小説だ。勘のいい人はもう、あれのことだとわかったことだろうが……それがこちらの世界にも存在していたのを、インターネットで発見したのだ。

 即座にそれがほしいと菅野さんに頼んだところ、翌日にはハードカバーのそれが、部屋に揃えられた。そう、これまでに発刊された巻全てが。


 菅野さんもこの小説のファンらしく、母さんに事後報告をしたところ(菅野さんに)あきれ果てて物も言えない様子だった。

 まぁ、特に反対もされなかったので普通に読めているのは幸いだ。


 どれくらい読み続けていただろうか、目の休憩のために少し遠くを見ながらボーっとしていると、再びドアノックの音。誰何を訪ねると、またしても皐月だった。

 今度はなんだろうかと思いながら入室を促すと、皐月はなんらかの本を持って部屋に入ってきた。

 サイズや厚みからして小説などではないだろうと思いながらそれがなんであるかを見てみると、それは勉強道具だった。

 皐月の通っている学校の校章がそのすべてに付されていることから、皐月の通っている学園の支給品なのだとわかる。


「その、お勉強を、見てもらえませんか、お姉様」

「……まぁ。私に、お勉強を? 私は最寄りの公立小学校だし、むしろ見てもらうのは私の方……ごめんなさい、謝るからそんな顔しないで」


 なぜだろう。事実を述べただけなのに、なぜそんな悲しそうな顔をする。

 本当に、同年代でいうなら皐月の方が学力は上なのだと私は思っている。

 まぁ、私はちょっと特殊な事情があるから? 前世の記憶があるから? だから、名門私立に通っていて、すでにそれなりに進んだところまで学んできているだろう皐月の勉強を見れないこともなくはない。

 でも、体面的にどうなんだろう。


「家庭教師の先生、言ってましたよ。お姉様についてる家庭教師の方から、とんでもない才知だと聞いたって。才知って、辞書で調べてみたんです。そしたら、才能と知恵ってありました。だから……」

「……もしかしたら、皐月よりも私の方が勉強ができるのではないか。そう思ったのですね」


 はい、と頷く皐月。どうやら私を才能の塊みたいなものとして見ている節があるようだ。

 でも、私としてはそれだけの情報と直感で導いた結論を信じ切って、しかもそれが当たらずとも遠からずであるというところに才女としての因子を見た気がした。つまりわたしより皐月の方が天才なんじゃないかということである。

 実際、私のこれは積み重ねた知識だ。前世から引き継いだ知識。一度経験したものを復習しているようなものであり、才能とはちょっと違うんじゃないか、と思っている。

 周りから見れば、それこそ天才と呼べるようなものなんだろうけど。

 私は読んでいた本を自室の書庫(書棚ではなく書庫である!)に戻すよう菅野さんに申し伝えると、その代わりに差し出された白紙の紙と鉛筆をテーブルにおいて、皐月と対面した。


「はぁ……。それで……どこが分からないのかしら?」

「えっと……ここ、なのですけれど」


 そう言って示されたのは……なるほど。やはり、公立の小学校ではまだ習っていない部分だ。でも、予習でできる範囲内ではあるかな。あくまでも、わたし以外の同年代の子から見たら、の話だけど。

 ある程度勉強を教えたところで、その日はお開きとなる。もともと食後ということでそれなりに遅い時間帯だ。あまり夜更かしすると体の成長に差し支えるということで、夜更かしも許されていない。夜九時にはベッドに入ること、と厳命されているから、あまり勉強をする時間がないのだ。

 皐月は算数が潰滅的に苦手分野みたいだ、とだけ言っておこう。



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