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学園テンセイ劇場  作者: シュナじろう
>急章 そうして私は本当の壁を素通りすることにした
47/52

第45話 西園寺瑞樹が知らなかったこと

2018.10.30:前話を改稿しました。

内容は今話につながる部分の追記です。最新話のリンクから来た方は一度『前の話へ』から第44話に戻り、改めてお読みいただくことを推奨いたします。



 そのあとは一つ二つ話をして、それでお開きとなった。

 優衣ちゃんの家族構成がちょっと把握しきれないほど複雑そうだとか、優衣ちゃんが藤崎さんと出くわして言葉を交わしたとか、気楽なお茶会なのにかなり疲れたような気がするが、とりま、父さんに伝えないといけない情報もあった。

 優衣ちゃんの父さんが仕事を辞めたことについては、父さんにもきっちり伝えておかないといけないだろう。

 父さんにとってもわかり切っていたことなのだろうけど、懸念材料が一つ減ったことは伝えて損をすることはないはず。

 優衣ちゃんを玄関先まで見送って、門脇さんに送迎を頼むと、その足で私は父さんの部屋へ足を運んだ。

 父さんは基本、土日は休み、平日思いっきり投資家やその他の仕事を頑張るというスタンスをとっている。まぁ、しばしばパーティーに呼ばれたり海外へ行ったりと、そのスケジューリングが崩れることもあるけど。

 かくいう今日は、一日フリー。やることもないので自室にこもっているらしい。

 ……ゲームでもやっているのだろうか。


 ――私はゲームは苦手です……。なんで遊びなのにあんな複雑な思考ができるのですか……。


 私が思っていることが()に伝わったのか、()から思いもよらない言葉が投げかけられた。

 そっかぁ、私があれこれ悩んでいるときに、()もゲーマーデビューしたんだね。

 なんか、滅茶苦茶似合わないってすぐにわかるよ。


 ――しょうがないでしょう。あ……あんなの、真似してくださいと言われてもできるわけがありません。


 いや、一体どんな状況見せられたのさ。

 逆に見たくなってくるよそれ。私が見た限りでは、父さんもそれほどゲームが上手というわけでもなく、あくまでも嗜む程度だと私は思っている。

 だから、()が言っているそれは単純に()がコンピュータゲームに不向きなのか、その時やっていたゲームのジャンルが不向きなのか……はたまた、その時の父さんのリアルラックがあり得ないくらい良かったのか。そのどれかだと思う。

 珍しくも()と他愛もない話ができていることに私自身、驚きながらも移動し、父さんの部屋へとやってきた。


 軽く三回、ノックして中にいるだろう父さんへ呼びかける。


「お父様、私です、瑞樹です。入ってもよろしいでしょうか?」

『あぁ、瑞樹か。構わない、入ってきなさい』


 促され、部屋の中へ入れば、父さんは案の定、ゲームに熱中していた様子。

 プレイしていたのは――レーシングゲームだろか。自然豊かな公道らしきステージが映し出されており、画面の隅にはスピードメーターやらなにやらが映し出されている。


「朝比奈さんとこのはもう帰ったのかね」

「はい。門脇に送らせました」

「そうか……。しかし、なんでまた、いきなり俺のところに……? まぁ、悪いとは言わないが……」


 言いながらさりげなくゲームのコントローラーを私の方に差し出し、ゲームを勧めて来るが、あいにくと私はレーシングゲームは苦手だ。やったところでいいスコアは出せないだろう。

 手でやんわりと断りながら、隣に座ってもいいかどうか断わりを入れてから座り込んだ。

 父さんは少し残念そうな顔をしてポーズ画面にしていたゲームを再開し、プレイしていたステージをクリアしてから私に用件を聞いてくる。


「それで、用件はなんだ? 優衣さんと仲たがいでもしたのか?」

「いえ、少なくとも仲たがいはしてないですね」

「そうか。なら……ここ最近、もう一人の瑞樹と頻繁に入れ替わっているようだし、そのことに関する話題でもあったか? それでどう答えたらいいものか迷ったので今後の相談に来たとか?」

「それも違います。心配こそされましたけど、誤魔化すほど言及されたわけではないですし」


 とても鋭い予想を述べられた挙句、自問自答でそんなわけないと自己解決してしまったのでその必要がなくなった、ともいえるけど。

 ただ、優衣ちゃんは優衣ちゃんで持っているモノは持っているんだなぁ、と妙な関心を持ってしまったのは確かなことだけれど。

 私と話しながらすでに次のステージの選定に入った父さん。わりと真剣なまなざしで、どのステージがいいかを選定している。これは邪魔にならないうちに話を切り上げたほうがよさそうだと判断して、私は先ほどの優衣ちゃんとのやり取りを大まかにだが説明した。

 すると父さんは再びポーズ画面に切り替え(早くも次のステージを選択したようだ)、驚愕の色を隠すなんてできないというような顔で私に向き直った。


「大学生の、しかも卒業間近の兄がいただと……!? もしかしてと思ってはいたが、やはり朝比奈氏は再婚なのか……?」

「いやなんでそっちなんですか!」

「うむ。言いたいことはわかる。瑞樹が一番気にしていることについてだが、二学期に音楽会があっただろう。あの時偶然となりに朝比奈氏が座っていてな。一応連絡先を交換していたのだが……ついこの間、いい転職先がないだろうかと相談されたんだよ」


 知ってたのかよ!

 というか当事者格の一人だったのか!


「いや、すまんすまん。いろいろ心配しているみたいだったし、瑞樹にも知らせておいた方がいいんじゃないかとは思ったんだが……なんだかんだで言いそびれてしまって…………」

「その割にはテレビゲームに熱中していたようですが……」

「ほ、本当に済まないっ! 悪気はなかったんだ……許してくれ…………」

「……はぁ。まぁ、構いませんけど。いずれにせよ、心配が杞憂に終わったのはいいことですし……」


 でも何だろうこの状況。

 どうにかしたくて、でも私じゃどうすることもできなくて一人でもやもやしていたのに、あずかり知らないところで何事もなかったかのように事態が終息していたなんて……これじゃ、私が一人で騒いでいたみたいじゃん。というかまんまその通りじゃん。

 なんだか……いろいろ考えていたのが、馬鹿らしくなっちゃったよ、もう……。


「まったく……。これからはそういうの、なしにしてくださいね? 本当にもう、どうなるかと思って夜もなかなか寝付けないくらい心配だったんですから!」

「ああ。本当に気を付けるよ……」


 平身低頭謝られては、許さないわけにもいかない。

 私としても、同じことをいつまでも引きずり続けるのは本意ではないし。考えてみれば、優衣ちゃんの一件については父さんがその解決の一助となっていたことに違いはない。

 なら、優衣ちゃんの友達として、言わなければならないことがあるのは確かなこと。

 だから、放置されたことにどれほど思うことがあったとしても、ことの顛末がこのような終わり方だったと知った以上、私が言うべきことは一つしかないだろう。


「お父様。この度は本当にありがとうございました。これで、心置きなく、私も今度のパーティーに参加することができそうです」

「あー、まぁ、なんだ……。俺としても、朝比奈氏から転職の話がなければ、適当な理由をこじつけてスカウトするつもりではいたけど……その場合は断られたら終わり、だったしなぁ」

「……お父様も、お父様なりに考えてはいたのですね…………」

「そりゃぁ、まぁ……可愛い愛娘のためだしな……少しでも憂うことがあるなら、それをどうにかするのが親の務めだと思うし……俺自身、朝比奈氏とはここ最近、懇意にさせてもらっているしな」

「なるほど……。お父様にとっても、どうにかしたいことではあったということですか……」

「まぁ、な……」


 本当に丸く収まりそうでよかったよ、と心底安心しきった父さんを見て、私も同じことを思う。

 重ね重ねになるが、一時はどうなることかと思ってたから本当に、良かった。


「……お父様」

「なんだ?」

「スプリングパーティー……今度は、なにを言われても、私を貫いてみせます。だから……見守っていてくださいね?」

「あぁ。出鼻は挫かれたが、お前はもう決意を固めたんだよな?」

「はい。先月、伝えた通り……私は、私の在り方を変えるつもりはありません。私は……」


 そこで、私は言葉を切って、心の中で続きをつぶやく。

 ――そう。だって、私は西園寺瑞樹であるけど『西園寺瑞樹』じゃない。****なのだから。



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