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学園テンセイ劇場  作者: シュナじろう
>序章 こうして私のお嬢様生活は始まった
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第2話 お嬢様の小学校入学


 そんなこんなであっという間に時が過ぎ、とうとう小学校入学を考える時期になった。

 そう、小学校である。今生の登竜門とも言うべき、最初の学校生活の幕開けとなる、その前準備。

 私は心の中でも、ここ最近は極力一人称を『私』にするよう心掛けている。じゃないと、いつまでたっても『俺』という人物が定着したままになってしまうから。捨てたいわけではないけど、さすがに執着するのはどうかと思う。

 それに、性別自体違うし。

 思ったのだ。前世でやり足りなかったこと、やっておきたかったこと。そういったことを考えながら、あるいは前世持ちというある程度成熟した知識と精神を活かしながら生きていく。それは別に悪いことではないと思う。でも、今の『私』は女だ。男じゃない。

 それに良家のお嬢様としての立場も加味する必要はあるだろう。そこに、前世の男としての粗暴さが出てきてはまずい。

 だから考えたのだ。今からそうした部分を廃するように努力しないと、いつかとんでもない失態を招いてしまうのではないか、と。

 心の中での一人称を『私』に変えたのも、それが理由である。


 さて、私は今、母さんの部屋に招かれて、一緒にその小学校入学のことに関して考えさせられている。

 ちなみに母さんの部屋とは言ったが、一口に部屋といっても、ダイニングキッチンがあって洋間と和室があって、しかも浴室とトイレが分かれている。アパートの一室といって差し支えない。というか、アパートの一室そのものなのだが。


 ちなみに西園寺家の敷地は広大だ。なにせ爵位もちなくらいなのだから。

 そして広大な敷地の中に、いくつかの建物がある。将来的には私達双子、母さん、父さんで三つの区画に生活区画を分ける方針だという。

 まぁ、それぞれの区画にメイドさんやそのほかのお手伝いさんがいるので不自由はないだろうけど。


 こういう家だから、英才教育ができる環境もきっちり整っていて、習い事はやはり多くやらされている。

 はっきり言って、フラストレーションは半端じゃない。だてに成熟した精神を持っているわけではない。だから自分の精神状態が分かってしまう。爆発寸前だ。

 この上学校も上流階級御用達の学園とかに通わされたら、いろいろなしがらみで一気に怒髪冠を衝くだろう。

 いくら自宅が豪邸すら飛び越えるナニカだったとしても、小学校くらいは自由に通わせてほしいものだ。そして私には到底、上流階級御用達の学園とか無理だ。絶対に合わせられそうにない。今の時点で、すでに爆発寸前なんだ。この上自分を押し殺さないといけないような学園生活に放り込まれたら、どうなるか分かったものではない。

 最悪、私の方が悪役令嬢と化してしまうかもしれない。

 だから、なんとしてもここは公立の学校に通わせてもらいたい。


「ほら、瑞樹ちゃん。駄々こねないで、一緒にパンフレットみましょう?」

「いやだよ。私は、近所の子たちと、地元の学校に通いたいの!」

「もう、まだそんなことばかり言って。瑞樹ちゃんのお家はね。代々いい学校に通うことになってるの。瑞樹ちゃんもそうなのよ」

「それでも私は地元の学校がいい! 絶対にほかの学校になんて行かないからね!」

「あ、瑞樹ちゃ――」


 我ながら子供過ぎると思うが、今の私はそれが許される年代に逆戻りしているからな。子供の特権、使わせてもらう。

 地団太踏んで、極め付きにそのまま部屋から飛び出る。後方からなにか大声で呼びかけられるが、知ったこっちゃない。

 そのままエレベーターに乗って、自室に戻る。

 そうして、しばらく自室で本を読んでいると、やがて諦めた顔で母さんが部屋にやってきた。


「瑛斗さんと話してきました。特別に、公立の小学校へ通うことを許可する、とのことです」

「本当に!?」

「えぇ、本当よ。だから機嫌を直してちょうだい」

「うん!」


 よかった。本当に良かった。

 子供の特権、とかいったものの、西園寺の家ではそんなの関係ないに等しい。どれだけ我儘言ったとしても、最終的には親が用意したレールを走らなければならない。

 興奮してあれこれわけわからないこと考えてしまったものの、結局はそのことに思い至って、半ばやけくそになりかけていた心を落ち着けるために本を読んでいたのだが、正直要求を呑んでくれたのは意外だった。


「まったく……誰に似たのかしらね……。少なくともお父さんもお母さんも有名な学園の出身だというのに……」


 いや、それは私一個人の特殊な事情のせいだと思うけど。

 理由はわからないものの前世の記憶と意識を受け継いでいるために、精神的には一般庶民のそれになっているからだ。

 実際問題、皐月はよくわかっていないようだがきちんと母さんが用意したレール――レン劇の舞台とは違う学園だけど、そちらに通うことになっているみたいだし。ここまで我を通さなけば、そして運がよくなければ、きっと私の猛反発を押し切って私も皐月と同じ学園に入れられていたはずだ。

 それでも、結局私に対して母さんが根負けして、私は地域の学区に沿った公立小学校へ通うことを許されたのだった。

 ただ、条件として中学校は必ず私立を受験してもらう、と確約させられたけど。


 ちなみに入学したのは、西宮小学校だ。

 この地域の小学生の大半はこの西宮小学校か、東谷小学校に通うことになる。

 夕食の場では家族全員に呆れられたけど、私としては万々歳である。




 そんな経緯で無事、小学校に入学した私は、無事に級友達になじむことができ、それなりの人数と友達になることができた。

 友人達から私の身の上がばれてしまったものの、一応今のところはまだ『わけわかんねーけどスゲーやつなんだな』程度で済んでいると思う。だから、ある程度の時期が立って形成されつつある、児童同士でのグループでもあぶれ組にならずに済んでいる。


「瑞樹ちゃん、一緒に遊ぼう?」

「いいよ、なにして遊ぼっか」

「えっとね、じゃあね――」


 なんやかんやと何をして休み時間を過ごすか

 今日も今日とてお昼休みに私の周りに友達が集まってきてあれでもないこれでもない、と話し合う。

 結局この日は外でだるまさんが転んだに決まった。


 そうして昼休みを友人たちと過ごして、放課後になればみんなは歩きでそれぞれの家に。私は西園寺家に雇われている運転手さんがお迎えに来ているのでそれに乗って移動する。ここだけ疎外感を感じてしまうのは仕方がないことだ。

 良家のお嬢様らしく、いろいろと習い事があるしね。公立の小学校に通う代わりの条件にそれが含まれているから仕方がないことだ。

 まぁ、英才教育といえどやることは芸術方面のそれが多いのだが。あとは、西園寺家のお嬢様として恥をかかないように徹底したマナーをたたき込まれることにもなっている。


 芸術方面では、私としては前世で嗜んでいたピアノ――厳密にはキーボード――をやりたかったのだが、母親の押しに負けてしぶしぶ、バイオリンをやる羽目になった。

 まあ、いいんだけど。バイオリンも、好きな曲いっぱいあるからさぁ。主にゲーソンしか知らないけど。それも前世の。



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