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学園テンセイ劇場  作者: シュナじろう
>破章之前 こうして私のお嬢様生活は進んでいく
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第19話 西園寺瑞樹の日常は揺るがない


 そして迎えた、優衣ちゃんが私の家に泊まりに来る日。

 優衣ちゃんが西園寺本邸に来るのは、本人の希望もあって、金曜日からということになった。

 例によってその日は優衣ちゃんが完全フリーの日(ただし学校は除く)なのでで、気兼ねなく移動に時間を当てられるからだ。


 さて。

 一週間限定で優衣ちゃんという『家族』が増えた西園寺家だったが、だからといって私の日常に何か影響が出るわけでもない。私には私の日常がある。

 本日は優衣ちゃんが到着した日の三日後にあたる月曜日。優衣ちゃんは今日は八時くらいから撮影が入っているらしいから、もうそろそろ起きているころだろう。


 朝起きて、顔を洗う。時刻は五時半ごろ。

 まだちょっと眠気が取れないが、もはや習慣になっているのでそれほど苦というわけでもない。早寝をしており、九時くらいには床に入ってしまうというのもある。

 起きて屋内の運動区画へと移動すれば、いつもの朝の日課である、母さんとの護身術の鍛錬が始まる。


「――ほら、どうしたの? そんな貧弱な構え方ではだれの相手もできないわ。もっとしっかりと構えなさい!」

「はい!」

「皐月、あなたは少し力み過ぎているわ。一度全身の力を抜きなさい」

「はい、お母様!」

「もう一回よ」

「はい! えいっ! やあっ!」


 ちなみに私が今学ばされているのは薙刀術で、母さんはどこぞの流派の師範代らしい。どうやらこの世界に生まれ変わってから、少女時代に危険な目に遭ったらしい。その時から護身術だけは真剣に取り組もうと必死になって取り組んできたという。そしてその結果、いつの間にか若くして師範代まで上り詰めていたらしい。

 前世では棒術を嗜んでいたらしく、同じ長物としてマッチしたところもあったのだとか。


 閑話休題。護身術の鍛錬をやっているとはいえ、お腹に何も入ってない状態で朝から全力で動くというのはちょっと負担があるし、体にも毒だ。なのでほどほどのメニューとなっている。

 そして薙刀術の鍛錬が終わると、シャワーを浴びて道着から普段着に着替えて食堂へと移動する。

 道中、優衣ちゃんと遭遇すると、一緒に食堂へ向かうことになった。


「おはよぅ、瑞樹ちゃん、皐月ちゃん……」

「おはようございます優衣さん」


 優衣ちゃんはちょっと眠たそうだ。優希さんが言うには、学校の時や九時ごろの仕事の時はもうちょっと眠れていたから、その弊害なんだとか。

 優衣ちゃんはあくびをしながら私に聞いてきた。


「瑞希ちゃん、眠くないの?」

「寝起きというわけでもありませんし……体を動かした後ですからね眠気が残っているということはありませんね」

「そう、なんだ……」


 くわぁ、と再び大きなあくびをしながら歩く優衣ちゃんを、さりげなく皐月が導く。

 これがもっと早い時間からの撮影だったらどうなるんだろうか、と想像に難くなさそうな疑問を抱いたのは秘密である。


「あの……瑞樹ちゃんって、いつも何時ごろに起きてるの……?」

「そうですね……五時とか、五時半とか、それくらいかしら……その日によって揺れはあるけど、大体それくらいの時間ですね」

「早いなぁ……。私が早い時間に撮影に出かける時と似たような時間だよ~。そんなに早く起きて、何やってるの……?」

「体力づくりと護身術ですね。といっても、護身術は薙刀術なのですが」

「うわぁ……護身術とか薙刀術とか、よくわかんないけどすごそう……。よく平気でいられるなぁ……私は毎日続けるなんて無理そうだなぁ~」

「私はもう慣れました。朝早い分、夜は可能な限り早く寝かせていただいていますし」


 実際慣れている。ここ最近は、夜九時ごろになるともう眠くて何も手が付けられないような状態になるし。

 でも、優衣ちゃんは信じられないものを見るような視線を送ってくるばかり。まぁ、これだけ早い時間に起きているとなればわかる話……なんだろうか?

 普通の子供の生活なんて、すっかり忘れてしまったからはっきりと断言することはできないな。この世界に転生してきてからはもう普通の生活じゃなくなっちゃったし。


 返す言葉、かどうかはわからないけど、今度は私から優衣ちゃんに関する話を振ってみることにした。


「そういう優衣さんの場合は……寝る時間と起きる時間が毎日ずれちゃうのは仕方がなさそうですね」

「うん……仕方がないよ。清水さんは私にいろいろ気を遣ってくれてるんだけどね……」


 まぁ、その辺は仕方がないと割り切るしかないんだろう。

 親に言われるがまま踏み込んだ世界とはいえ、そうした弊害はつきもの。受け入れるしかないことだろう。

 優衣ちゃん自身、実は今人気沸騰中の子役女優らしいし。最初はクラスのみんなもどこかで見たことがある、みたいなことを思っていたみたいだけど、さすがに私みたいに娯楽関連の番組を全面禁止されるような家柄じゃなければ、テレビによく出ていることは普通に気付く。結論からして、少したってから話題の人物になったという感じだ。


 あれこれ話をしているうちに、いつの間にか食堂へとたどり着いていた。

 やっぱり話しながらだと、家がどれだけ広くても時間が経つのを早く感じるものだ。

 今日は和食がメインのコース料理だ。

 でてきた料理の豪華さに驚いたり、食事中に会話はしないという西園寺家のルールに困惑気味な表情をしたりしていたけど、食事が終わって食休みに入れば、それらも次第におさまっていったようだ。

 どちらかといえば、『お金持ちの人たちの生活って、こういうものなんだろう』的な感覚で受け入れてるっぽいんだけど……なんか、一週間後には私達の生活に染まり切っていそうな気がしなくもなくて、その辺がちょっと怖かったりする。


 そして朝食を取って身支度を済ませれば、いよいよ出かける時間となる。

 昨日や一昨日と同じく清水さんの運転する車に乗って撮影に出かける優衣ちゃんを見送り、それからしばらくして私もリムジンに乗って学校へと移動した。

 門脇さんや北島さんと他愛もない話をしながらリムジンに揺られること数分。地元の公立小学校に到着するのに、車では十分もかからない。

 他の児童はみんな歩きで通っているのでどこか場違いな感覚にとらわれるが、毎度のことなので気にせずに校舎へと足を進めてゆく。


 そして教室に到着して自分に割り当てられた机に荷物を置くと、隣に座っているクラスメイトに話しかけた。


「ごきげんよう皆様」

「おはよう、瑞樹ちゃん。はぁ~、休み明けの最初の授業が体育っていうのは、きついよなぁ~」


 若干ぐったりとしたその子は、ちょっと鬱屈とした表情でそうぼやいた。まぁ、無理はない。私でもそう思うし。

 そう、今日の授業は朝から体育なのだ。

 一限目からいきなり体育というのは正直、あとに響くからあまりいい思いはしないんだけど、そう組まれてしまったのなら仕方がないだろう。

 ……とはいえ、小一だからまだそれほどきつい運動はしないんだけど。


 それ以外の話題では、今日の四限にある音楽の授業についても話題は上がった。

 普段はそうでもないのだが、ここ最近はちょっと特別な理由があるため、音楽のある日は、大抵音楽の授業が話題に上がる。

 その特別な理由とは学校生活における定番イベントの一つ、音楽会だ。

 運動会? 一学期にあったなぁ、そういえば。前世では地方だったし、運動会・体育祭の時期も秋だったからなんか新鮮だった。

 それに今年の春と言えばちょうどお嬢様教育始めたばっかりだったし、そっちの方に気を割いてたからあまり覚えてなかったりする。

 音楽会の話は本日の授業が進み、音楽の授業が終わった後も続いた。

 いや、実際には体育の授業でいったんその話題は収まったが、音楽の授業で再び火がついた、と言った感じだが。


「音楽会、上手に歌えるといいなぁ」

「頑張ろうね瑞樹ちゃん!」

「えぇ、そうですね。学年一位を目指したいですね」


 無論、私達のグループ内でも話題は音楽会一色である。

 そして、


「大丈夫だよ。俺達には瑞樹ちゃんに優衣ちゃんもいるんだから。ね、瑞樹ちゃん」

「まぁ。そう言われては張り切らなくてはなりませんね」

「二人とも、歌うの上手だからなぁ……私も上手になりたい」


 実のところその話題になると共通して私と優衣ちゃんのことが槍玉にあげられることになる。

 まぁ、優衣ちゃんが歌唱能力高いのはわかる気がする。というか、女優さんだし、発声練習とかはしていそうだ。

 私の場合は嗜み程度に歌唱レッスンをすることがある程度。まぁ、一週間に一回程度だろうか。

 だからそれほど期待できるようなものでもないと思うのだけど。

 ともあれ、今はただひたすら練習あるのみ。課題曲の楽譜をもらっているから、あとは個人でもある程度はどうにかできるだろうが、本格的な練習は学校に来てからじゃないと無理だろう。音楽の授業ではみんな音楽祭への意気込みがうかがえるくらい熱心に歌っている。

 今日の音楽の授業でも、担任の先生からそれなりの評価をもらえたのでみんなのテンションはちょっと高めだ。


 楽しみだ、とか、早く当日にならないか、とかそういった話をしていると、会話の輪に入ってくる子が一人。


「あれ? 何の話~?」

「あ、優衣ちゃん。こんにちは」

「優衣ちゃんだぁ。学校、来られたんだねぇ」

「お疲れ様です、優衣さん」


 話題に上がっていた、優衣ちゃん本人である。


「来週の週末に音楽会があるでしょう? そのお話をしていたのですよ」

「あ、うん。私もその日は来れる……っていうか、学校に行きなさいって言われてる」

「そうなのですか」

「うん。少しでも学校を優先しなさいって」


 なるほど。学業を優先させてくれているのか。いい事務所だなぁ。

 ただ単純に、義務教育期間であることを考えて、かもしれないけど。でも、参加できるなら参加するに越したことはない。


「来週は仕事もレッスンもいれないっていってくれたから、音楽会に集中できるよ! 頑張ろうね!」

「えぇ」


 まぁ、誰かの家に集まって練習、などということはできないだろうから、個々に練習、ということになるだろうけど。そもそも私は来週も習い事や家庭教師で予定がぎっしりだから練習できるかどうかも危ういし。

 でも、やるとなれば手抜きは一切しない、というのには変わりないけど。


 そのあとも夜まで特に何事もなく、いつも通りの日常が今日も終わった。

 ジュニアアイドルが泊まりに来るといえば、普通なら大騒ぎするくらいにはすごいことなのだろうけど……やはり、そこは西園寺クオリティ。その程度では、日常生活がなびくことすらないのだ。



※感想など常時受け付け中です。なお、感想への返信については誤字・脱字報告などを除いて基本的に本編の区切りがついた際にあとがき的な部分を設けてそこで語っていきたいと思います。

※感想による評価に傾注するため、ポイント評価をあえてOFF設定にしてあります。


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