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学園テンセイ劇場  作者: シュナじろう
>破章之前 こうして私のお嬢様生活は進んでいく
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第16話 西園寺瑞樹と百貨店


 ダンスレッスンを終えた私達は、一度汗を流すために風呂場へ行ってシャワーを浴び、新しい服に着替えてからそれぞれの自室に戻った。

 意外なことに、自室にはまだ優衣ちゃんが残っていた。なんでも、今日は優衣ちゃんたちのお母さん達は仕事で家にいないらしく、帰ってもつまらないから残っていたとのこと。

 ダンスのレッスン自体は一時間くらいで終わったし、シャワーを浴びたといっても汗を流す程度。移動する時間を含めても三十分もたっていない。なので、まだ軽く茶話会をする程度の時間はあるだろう。

 ちなみに待っている間何をしていたかと言えば、母さんに勉強を見てもらっていたそうだ 離れた場所に、ソファーでくつろぎながらそれを見ている清水さんもいる。

 優衣ちゃんはともかく、清水さんは事務所関連の仕事は大丈夫なのか、と気にしながら経緯を聞いてみた。

 返ってきた答えはなんとも予想しやすいものだったけど。いわく、清水さんに優衣ちゃんについて何か不安に思っていることはないかと聞いてみたところ、学校の勉強について、やはり問題というか、懸念していることがあると深刻な顔になっていた、とのこと。

 特にここ最近、子役上がりの人が、大人に近づくにつれて勉強不足に悩まされ、引退後の活動で大きく悩まされているという実情が浮き彫りになってきているとか何とか。優衣ちゃんもそうならないかどうか、親身になってあれこれ考えているようである。


 そこで、とりあえず当面の対策として、時間が許すようであれば講習をウチで請け負う、という話が持ち上がったそうだ。

 そして早速と言わんばかりに、その場で一回目の講習が始まったというわけだ。


 事情を離れた場所にあるソファーで清水さんに並んでくつろぎながら話を聞いて、やっぱりか、と思った私はたぶん、悪くない。何となく、勉強がおろそかになっていそうだなあ、とは思っていたのだ。


「ただ、いつもあなたのお母様――麗奈様にお世話になるわけにもいかないでしょうし。何か考えがあるようでしたけど、ご迷惑にならないかどうか、今度はそこが心配です」


 なるほど。確かにそこは心配だ。

 うちの母さんも、普段は父さんの付き添いで出かける以外に、有名企業の重役たちが集うパーティーや、政治資金パーティーなどに参加したりなど、社交界でも結構忙しく動いている。

 場合によってはナイトパーティなど帰りが遅いときもあるし、清水さんの懸念ももっともな内容である。


 結局、この日の勉強会は私の部屋に家庭教師が来る時間が近づいたと使用人が伝えに来るまで続いたが、次回以降どうするか、母さんが何を考えているのか。その具体的な話は、同日中に聞かされることはなかった。




 それからまた時間が経ち、季節はいよいよ秋が深まる時期――衣替えの時期になった。

 衣替えをする中で、夏前に着ていた服の一部にほつれが生じていたりして着れなくなった服があったりしたので、数日後に百貨店へ行って買い足すことになったことをクラス内の友達に伝えると、そうなんだ、一緒に行きたいなぁ、と同調してくれる。

 まぁ、その理由は様々なんだろう。特に根拠もなく羨ましがる子。服などの買い物ではなく、その合間に訪れるかもしれない普段とは違う昼食の時間を思い浮かべる子。純粋に新しい服の購入を羨ましがる子。ゲームセンターなどの娯楽スペースを思い浮かべる子。普通に列挙すればこんな感じだろうけど。

 私が所属しているグループでいえば……。


「百貨店かぁ。俺、そういえば新しい靴がほしいんだよなぁ。この前姉ちゃんが新しい靴買ってたんだ」


 綾斗くんは靴がほしいと羨ましがり。


「ワタガシ……ポップコーン……」


 倉田佳香ちゃんというボーイッシュな子はゲームセンターなどに夢中な一面を見せて。


「あ~、今は別にほしいものとかないしなぁ……」


 渡辺美奈穂ちゃんという、ちょっと個性的な子はいつものマイペースさをこの時も捨てていなかった。


 あと、今学期からの新しい友達である優衣ちゃんは、どうやら撮影がない限り日曜日はレッスンもないオールフリーの日となっているらしく、ちょうど同じ日に買い物に行くことになっているという。今日この場にはいないが、昨日の帰り、駐車場に向かっている最中に似たような話が本人の口から出たのだ。

 もしかしたら会うかもしれない、という話をしていたところで、昼休みの予鈴が鳴ってしまったので流れてしまったが、もし当日会えたとして……果たして、どうなるんだろうか。

 適当に差し支えない話をして、終わりそうな気がしなくもない。

 そしてそんな話が合った日からすぐに時間は経ち、あっという間に百貨店へ向かう日が来た。

 家族全員でということもあって、家族仲良く、一つのリムジンに乗ってお出かけだ。

 実のところ、西園寺家は普段日常生活を送る上では小売店はもちろん、百貨店に行くこともそうそうない。大抵のものは使用人が揃えてくれるし、それで不足があっても百貨店に電話して、外商部の人に来てもらうことがほとんどだからだ。

 私も夏シーズンが始まる前に一回行ったっきりで、あとは一回たりとも店という店に行かせてもらえていない。無論皐月もである。

 皐月は久々に家族そろっての外出ということもあって、とてもウキウキ、実に楽しそうで、うれしそうである。

 持ってきた紅茶を飲んだり、窓の外を眺めたりと思い思いのひと時を過ごすこと数十分。某有名百貨店へと到着した。

 位置的には私が通っている公立学校と同じ学区に住んでいる人たちであれば、百貨店といえばまずここを選択することになる。優衣ちゃんではないけど、学校の友達とばったり会う可能性は十分ありうるということ。また、この百貨店は私の家がある高級住宅街からも気軽に来れる位置にあるので、皐月ももしかしたら私達と同じ目的で来店している友達の家族と出くわす可能性があるだろう。


 百貨店の駐車スペースに車が停まる。そして、いざ建物に入るべく入り口の一つにたどり着いたところで、成立したフラグを回収するかのように友達と遭遇した。――私が、ではなく皐月が、だが。


「あら……皐月様ではありませんか。ごきげんよう皐月様」

「あ……涼花様。ごきげんよう」


 涼花さん――藤崎涼花さんは、日本メディアワークスコンツェルンという企業を支配下に置く資産家一族のご令嬢で、西園寺家とも割と仲の良い家の子供だ。彼女の一族が配下においている企業の筆頭でもある、件の日本メディアワークスコンツェルンという会社は、傘下にテレビ局や雑誌、新聞などの出版社など、マスコミュニケーション系の企業を傘下に収め、さらにマスメディア系の企業も傘下に収める、日本の『情報』を事実上司っているといってもいい会社である。

 西園寺家の知り合いにはこうした資産家の面々が多くおり、また財閥やホールディングスなどの経営者も多数知り合いがいる。が、藤崎家はその中でも別格と言える相手だ(ただし私の家こと西園寺家自身を除くが)。

 父さんも、藤崎家の人たちには一目置いている節がある。

 そんな、西園寺家には劣るもののあなどれない一族が目の前にいる――その事実に、私はちょっと緊張を抑えきれずにいた。


「それから、瑞樹様も。ごきげんよう、お久しゅうございます。お加減いかがでしょうか」

「ごきげんよう涼花様。えぇ、夏休みに会って以来になりますね。私自身は季節の変わり目ではありますが、家族をはじめ家にいる人たちにとても気遣っていただいているので、とても良好ですよ。涼花様はどうでしょうか」

「私もですよ」


 私達は三人で微笑み合う。

 傍らで、親たちも挨拶を終えて和やかなムードに包まれつつあった。

 このままここで話していても、ということになり、申し合わせたかのような歩調で私達は百貨店の中へと入っていく。

 二重扉をくぐって入店すれば、真っ先に見えるのは入り口から最も近い位置に構えている、百貨店内に店を構えるブランド店やチェーン店の売り場だろう。普通の人なら。

 しかし、西園寺家(わたしたち)の場合は違う。そして一緒に入店した藤崎家の人たちもまた然り。

 私達の場合は、その前に必ず目に付く『人』達がいた。


 ビシッとしたスーツ姿の男性達。

 纏っている雰囲気はやり手のセールスマン、と言ったところか。自信に満ちたその表情が、この百貨店においてそれなりの地位にある人物だというイメージを漂わせる。

 お得意様をもてなしつつ、目的に見合った商品が置かれた売り場へ案内したり、おすすめの商品が置いてある区画へ(いざな)ったり。また、電話などで受注した物品を取り置きしたり、取り寄せたりと百貨店内の商品を都合したりなどをする人たち。

 彼らは『外商部』と呼ばれる部署で働く人たちだ。


「本日はご来店いただきありがとうございます」

「あぁ。いつもお世話になっております。今日はこれからの季節に向けて娘たちの服を何着か見繕おうと思っていてな。いつもの店で買おうと思っているが、自由に見たいと思っているので今日は案内は遠慮させてもらうよ」

「左様でございますか。それでは、失礼いたします」


 父さんは慣れた口調でそう言うと、藤崎家の人たちと外商部の人たちの対話が終わるのを待ち始めた。とはいえ、彼らもほどなくして終わったが。

 外商部の人たちも、私達と藤崎家がそろって入店するとは思っていなかったようで驚いたようだったが、さすがはプロというべきか、すぐに営業スマイルに戻って順番に対処し始めたのだから大したものである。

 藤崎家とは引き続き一緒に買い物をすることになり、皐月は予定外ながら一緒に買い物ができる仲間が増えたことで、笑いをこらえていてもうれしいオーラがとてつもない勢いで噴出していたのは言うまでもなかった。

 この日の皐月は、このこともあって終始ご満悦だったのは言うまでもない。


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