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学園テンセイ劇場  作者: シュナじろう
>破章之前 こうして私のお嬢様生活は進んでいく
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第15話 西園寺瑞樹と西園寺の答え


 今日は午前中に家庭教師が来て、午後からは皐月と一緒にダンスのレッスンが入っている。

 昼食を済ませて、皐月と一緒に私の自室で軽く食後休憩を取っていると、母さんと父さんが部屋に入ってきた。

 後ろには優衣ちゃんと、清水さんがいる。卓上の時計を見れば、時刻は二時を指していた。

 一緒に昼食を取っていたにしても、話し合うにはそれなりにいい時間が経過しているし、そろそろ決着がついたのかもしれないな。

 手元の鈴を鳴らして、新しいお茶を淹れてもらいながら三人に椅子を勧める。母さんは手慣れた様子、優衣ちゃんも大分ほだされたような感じで椅子に座ったが、清水さんは結構緊張しているみたいだ。

 淹れてもらったお茶を一口飲んだのを確認してから話を切り出した。


「清水様。いかがでしたでしょうか」

「えぇ……完敗です……。この邸宅の規模からしても、西園寺家という一族が私の想像を絶するほどのお家だと気づかされました。聞けば瑞樹ちゃんは――いえ、瑞樹様はこの、西園寺家の次期当主候補だという話じゃないですか。あなたのご両親に宣戦布告するつもりか、とまで言われてしまいました」

「そ、そうなのですか……? お母様、お父様。やりすぎですわ」

「ごめんなさい皐月ちゃん。でも、これくらい言わないと、すぐ別の人が瑞樹ちゃんを誘いに来るかもしれないでしょう?」

「そう、ですね……。恥ずかしながら、瑞樹様のことは事務所の方にすでに触れ回ってしまったので、これくらい言われないと社長も納得しない可能性があるでしょうね」


 触れ回っているって、盗撮とか!? ちょ、マジでそれは勘弁してほしいんだけど!

 父さんも似たようなことを思ったようで、清水さんに詰め寄っている。


「ちょっと待て。まさか、隠し撮りとかしてはいませんよな」

「し、してませんよそんなことは! ただ、うちの事務所には『清楚』『お嬢様』という属性の芸能人がちょっと少ないんです。そういうのにぴったりな人を見つけた、と言っただけです」


 しかし、返ってきた返事は否だった。

 ただ、とても切実そうな顔をしているので、相当切羽詰まっているんだろうな、という印象は受けた。それで私がなびくかと言えばなびかないが答えなんだけど。


「ならいいのだが」

「安心していただけて何よりです」


 心の底からといった感じでそう言う清水さんは、なんかもう魂が抜けてどこかへ行ってしまいそうな感じさえしていた。

 とりあえず、紅茶をどうぞ、と勧めてみる。これで少しでもリラックスできたら、と思ってのことだ。

 三口ほど飲んでで、ほぅっ吐息を漏らすと、少し落ち着きを取り戻したようだ。


「それにしても。優衣ちゃん、今日の撮影は本当に大成功だったけど、こんなにすごい生活見せられたからあんな真に迫るような演技ができたのね」

「うん……。昨日、瑞樹ちゃんに誘われなかったら多分、今日も失敗してばっかりだったと思う」

「そうなのですか? 踏み込むつもりはありませんけど、どんな子の役を演じているのですか?」


 母さんの問いには、私が答えた。

 いわく、お金持ちの家の子供役で、主人公との関係でいえば、主人公の子供の友達に位置するのだとか。……どんなジャンルのドラマだ。

 そういった『娯楽』は禁止されているだけに、どんなドラマなのか全くわからないのがちょっと悲しかったりする。

 けど、それをいいことに他言無用を条件としていろいろとそのドラマのことを聞いてみたら、それはもう嬉しそうにあらすじから登場人物のキャラクター性、舞台までいろいろ教えてくれた。

 さすがに台本を見てみるかと言われたときには止めたが。清水さんももちろん止めたが、私と母さんもそれはいけないと必死で止めた。

 その直後の優衣ちゃんはバツが悪そうな顔をしていたけど、すぐに気を取り直して話の続きをし始めた。


 そんな私達を見ていた母さん達は、突如ふっと笑うとこう言った。


「優衣ちゃん、でいいかな。私達に手伝えることがあればなんでも言ってくださいね。要求内容が私達側のNGに抵触しなくて、そしてそのうえであなた方が望むのであれば、私達は優衣ちゃんに協力させていただきますから」

「うむ。瑞樹も仲良くしてもらっていることだしな。困ったことがあったら遠慮なく頼りなさい。西園寺の者として許される範囲であればなんでもしよう」

「あ……うん、ありがとう」

「お、お気遣い、感謝いたします……」


 急にそう言われてちょっと驚いたものの、普通に笑い返してお礼を言う優衣ちゃんと、とても驚いたように母さんを見て感謝する清水さん。

 しかし、清水さんに対しては厳しそうな顔になってさらに付け加えた。


「いえ。私がそうしたいと思っただけですから。ただ、清水様。勘違いなされては困りますので念のため言っておきますが、求められたときに支援するのはあくまでも朝比奈優衣様お一人――すなわち、一個人としての朝比奈様とそのご家族。それに付随する形で、女優としての朝比奈様に限らせていただきます」

「それは……重々、承知しております」

「私達がこう申し出たのは、あくまでも朝比奈さんが瑞樹と仲良くしてもらっていることに対するお礼だ。だから、それ以上の一線を越えるような要求にはビジネスとして対応させていただく。彼女が別の芸能人とユニットを組むようなことになったとしても、私は、そして西園寺はそのユニットに対して支援することは一切しない。彼女があなたを介さずに私達に相談してきた場合は、たとえあなた方と敵対することになっても、彼女の意思を尊重して支援させていただく。そのこと、ゆめゆめ忘れることのないようにな」

「…………はい……」


 母さん達がここまで言うのを見たのは初めてかもしれない。

 何回か、偉そうな人……というか、実際に会社の重役とか、そういった人と話しているのを遠目から見たことはあるけど、敵意を向けていそうな相手であってもここまで露骨に反応を示すことはなかった。

 たぶん、これは優衣ちゃんを支援するのはあくまでも私の友達だからという理由があるだけで、女優としての優衣ちゃんを支援するのもその延長線上にしかないから。というのを、母さん達なりに――『西園寺家の当主夫妻』なりに強調したかったのだろう。

 これをプラスととるかマイナスととるかは、優衣ちゃん次第だけど。

 どちらにせよ、私が言うことはただ一つ。


「よかったですね、優衣様。これで、なんの気兼ねなく私の家に来ることができるようになりましたよ」

「うん……ありがとう。昨日も瑞樹ちゃんに言ったけど、お金持ちの家って、どうにも想像しにくくて……」

「えぇ、そう言ってましたね」

「もうちょっと一緒にいられたら、もっといい演技ができそうなの。それもあるけど……他の子たちと違う毎日を送っているのに、瑞樹ちゃんと話してると、私も普通なんだって思えて、とても落ち着くから……。ちょっと、瑞希ちゃんのお家が大きすぎるから来づらいけど、瑞樹ちゃんがよければ、これからも遊びに来てもいいかな?」

「もちろんですよ。お互い、予定がぎっしりの生活でなかなか都合が合わないかもしれませんけど、またいつか、こうしてお話ししましょうね」

「私もお待ちしております、朝比奈様」


 私と皐月の言葉を聞いて、優衣ちゃんは眩しいほどの笑顔を浮かべた。

 さりげなくディスられたことについては、言わぬが花というやつだろう。

 そのあとは、引き続き他愛もない話が続いた。

 今日はこれ以降予定がないのか、優衣ちゃんたちもゆったりとした感じで話に参加している。

 ……優衣ちゃんはともかく、清水さんは事務所の方でやらないといけないこととかあるんじゃないだろうか。そう思って聞いてみたら、もともと今日の午後は私の勧誘の件もあって、仕事を入れていなかったらしい。あとは会社から働き過ぎだから少し休め、と言われているとか何とか。

 そうして和やかなムードになったことで始まった茶話会だったが、何事も面倒ごとは盛り上がっている最中に来るものである。


 そう。今日は午後からダンスのレッスンが入っている日。私と皐月は、ここで茶話会をお暇しないといけないのであった。

 優衣ちゃんは興味津々、清水さんもどんなダンスなのか気になるといった感じで見学についてきたが、社交ダンスを踊り始めた私達を見て、そっと静かにダンスホールから退室していったのは見なかったことにした。


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