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学園テンセイ劇場  作者: シュナじろう
>破章之前 こうして私のお嬢様生活は進んでいく
14/52

第14話 ジュニアアイドルと本物のお嬢様


 お金持ちのお友達。私とはとても比べられない生活をしているような子。

 私が今、テレビのドラマで役を演技しているのは、そんな役だ。

 でも、実際に本当のお金持ちのお友達と出会うなんて、それもこんなに身近にいただなんて、思ってもみなかった。


 ううん、実は、どこか私と同じように、普通とは違うところがあるんだろうなぁって気はしていた。

 喋り方が独特だったというか、私がドラマで演じているお金持ちの家の女の子そのままの話し方だったし。だから、もしかしたらそうなのかもしれないなぁ、とは思っていた。

 でも、実際にそうだと言われると、やっぱり驚きしかなかった。

 だって、帰る時間が重なったときにいつも見かける黒くてすごい車。今わたしも乗っているこの車だって、とてもいい乗り心地だし、とてもお金がかかっているんだろうなぁってことくらいはすぐにわかる。それだけすごい車が、瑞樹ちゃんの家の車だって言われたら、それは驚かない方がおかしいと思う。


 また一口、渡されたジュースを飲む。

 なんかのケースから取り出された水筒。さらにその水筒から紙コップに注がれた飲み物――レモネードは、さっき大声を出してしまったこともあって、とてもおいしく感じられる。

 そして、飲み切ったところで一息ついて、心なしかすっきりした気持ちになれた。

 それからは、瑞樹ちゃんがきっかけを作ってくれたこともあって、和やかな雰囲気で話すことができた。


 いろいろな話をした。

 清水さんも言っていた通りテレビドラマで演技をしていること。

 うまくいって、人気が出てきていると褒められていること。

 ドラマで子供役を演じて思ったこと。感想はもちろん、辛かったことやうれしかったことなど。今演じている役のことなど。

 そうしていると、やがて大きな建物に到着した。

 いつもお世話になっている事務所の建物とは比べられないくらい大きい。

 というよりも、これって……。


「お城……?」

「うふふ……違います。私の家ですよ。少し大きいかもしれませんけど」

「お、大きすぎるよぅ。どう考えてもお城だよこれ……」


 どう見ても、お城にしか見えない気がする。

 でも、なにもないようにその中へ入っていく瑞樹ちゃん。少し離れたところで、驚きで動けないでいる私を待ってくれるのか立ち止まる。

 ……なんか、とってもすごくて、入るのが怖いけど……大丈夫。今、ドラマで演じている役を思い出して。怖いものは、何もない。

 自分にそう言い聞かせて、私は意を決して瑞樹ちゃんの『家』の中へと入っていった。

 『家』の中はやっぱりすごかった。上を見上げればシャンデリアがあったし、壁を見れば絵や花瓶みたいなのが飾ってある。床はふかふかの絨毯が敷かれていて、靴で歩くのがちょっともったいないくらいだった。


「お帰りなさいませ、瑞樹お嬢様。ようこそおいでくださいました朝比奈優衣様。この家にいる間、ご自宅だと思いながらごゆるりとおくつろぎくださいませ」

「…………、」


 あ、無理だこれ。今ドラマで演じてる役のことなんて、何にも役立たないや。

 全然ドラマと違うよ! どうして瑞樹ちゃんはこんなところで平気でいられるのかわからないよぅ。

 雰囲気に負けてうじうじとしていると、そんな私の内心を知ったのか、瑞樹ちゃんがふっとやわらかく笑いかけてくれた。


「大丈夫ですよ。心配はいりません。時々、クラスのお友達を招いたりもしていますし、皆心得ていますから」

「そ、そうなの……?」

「えぇ。そうですよ。えぇっと……よくわたしとお話をする、羽瀬勇太くん。知ってますか?」

「あ、うん。知ってるよ。私も、休み時間の時によく話す」

「その子と、あと女の子数人……ですね。その子たちはよく招待するのですよ?」

「そうなんだ……なんか、信じられないなぁ」


 うん、本当に。

 こんなところに、クラスメイトのみんなが来ることがあるだなんて、予想もつかないよ。

 でも、参考になることも、あったといえばあったかもしれない。

 お金持ちの子供役、というのを今演じているのだけど、どうしてもお金持ちの子供、というイメージがとても自分勝手なイメージしかわかなくて、作品のイメージ通りに演技ができないのだ。今日の午前中の撮影でも、何度やりなおしさせられたかわからなかった。

 本当のお金持ちのお友達と触れ合うことができた。多分、これだけでも全然違うと思う。今までは予想もつかなかったし、多分これからも予想しきることは難しい世界。でも、少なくとも『今』なら、まだ何とかなる。だって――


 ――こんなにも近くに、本物がいるのだから。


 たとえ想像がつかなかったとしても、いろいろ私生活のことを聞いてみて、できなかった場所を、補完するんだ。

 ここ最近落ち込み気味だった気持ちも、今日この家に来れたおかげで、すっきりした。これで、明日からも頑張れる。

 ベランダで軽くお茶を飲ませてもらって、お菓子も食べさせてもらって。ひとしきりお話をして、私は自宅へと帰った。

 なんか、瑞樹ちゃんのお母さんも、今日は仕事が早く終わったとか何とかで途中から話しに入ってきたけど、楽しかったのは楽しかった。また、瑞樹ちゃんの家に行きたいな、と言ってみたら、いつでもいらっしゃいって微笑んでくれたのがとても心に残っている。

 そして迎えた翌日。私が瑞樹ちゃんの家に行くそもそものきっかけとなった、マネージャーの清水さんは、撮影が終わった後瑞樹ちゃんのお母さんに会いに行くという。

 昨日で一新された、お金持ちの家の子に対する私の想像は私が思っている以上にしっかりとしていたらしくて、今までさんざんダメ出しされてきたのがウソのように一回でOKをもらえたために、予定より早く撮影が終わったということで、とても喜んでいた。

 それで、もしよかったら私も瑞樹ちゃんのお母さんとのお話に同席しないか、と言われてちょっと迷った。


 清水さんはここ最近、ことあるごとに瑞樹ちゃんのことについて聞いてきてた。特に人となりについて。

 答えられる範囲では答えたし、その目的も説明されたから瑞樹ちゃんのお母さんと会う理由も何となくならわかる。多分、瑞樹ちゃんを私と同じ、子供役の女優さんにしたいと思っているんだと思う。ちなみに、私が女優さんになったのは、親に言われるがまま今所属している事務所のオーディションを受けて、合格したからなんだけど。

 でも……たぶん、昨日瑞樹ちゃんのお母さんと話をした感じだと、多分清水さんの考えているようにはいかないと思う。絶対にそうと言い切れる。

 理由は特にはない……けど、何となくわかってしまうんだ。


 お母さんやお父さんたちと、また時には清水さんと一緒に来ることがあるハンバーガー屋さんで瑞樹ちゃんのお母さんを待つ。ただ、ちょっと早く着すぎちゃったので、時間がある。

 その間、清水さんはちょっと緊張している顔で、注文したジュースを飲んでいた。


「……清水さん、大丈夫?」

「…………え? あぁ、うん。大丈夫よ。ん~、もうちょっとで来る、かな……?」

「そう、ですね」


 待ち合わせをするときは大体、五分くらい前までには集合場所についているのが望ましいといつも清水さんが言っていることだ。

 今はえっと……十分前、かな。確かにもうちょっとで来そうな頃合いだ。


 そう思いながらお店の出入り口の方をじぃっと眺めていると……あれ? なんか、見覚えがある男の人がお店に入ってきたよ?


「失礼します。清水様ですね」

「え? あ、はい、確かに私が清水ですが……あなたは誰ですか?」


 清水さんがとても怖い顔で男の人に話しかける。それと同時に、私を守るように立つ場所を調整した。

 でも、この人が誰かを知っている私は普通にその横から顔を出して、その人に話しかける。


「菅野さん、ですよね……あれぇ? 瑞樹ちゃんのお母さんは?」

「え? 優衣ちゃん、この人知ってるの?」

「はい。昨日、私を家まで送ってくれた人です」

「そうだったの!? 私てっきり、優衣ちゃんを家に送ってってくれた人は西園寺さんのご家族様だったとばっかり……」


 ありゃ~、清水さんがここまで驚くのって初めて見たかも。

 普段からいろんな人にお辞儀をしたり、慌てたりするところを見たことがあったけど、ここまで取り乱すのはこれが初めてだと思う。

 なんか、見てて面白いかもしれない。


「はは。瑞樹お嬢様のお友達のご家族からはよく驚かれたものです。まぁ、回数を重ねるうちに皆さん慣れてしまいまして、今では逆につまらないものですけどね」

「そ、そうですか……」

「まぁ、お時間まではまだお時間があるようですので、少しお話をしましょうか」

「は、はい……」


 そして、よどみない動作で落ち着かせてしまう菅野さん。最初は緊張しちゃったみたいだけど、五分も話をすればすっかりと引き込まれてしまう。なんというか、とってもやり慣れている感がある。

 自然と頼りたくなってしまうような雰囲気があるし、瑞樹ちゃんのお母さんの運転手さんをやっているのもうなずける気がする。この人に任せていたら、きっと安心してどこにでも行けるって。

 菅野さんは時計を見て、ふむ、と一つ頷いて、用件を言ってきた。


「お約束の時間より少々早いですが、お迎えに参りました。西園寺家の本邸へ向かいましょう。そこで奥様がお待ちです」

「そうなんですか。まぁ、瑞樹ちゃんのお母様ではなく菅野さんが来た時点で、何となくそうなるんだろうな、とは思っていましたし。私としては事務所へ移動して、そこで話を、と思っていたのですが……そうですね。それでは、お邪魔させていただきます」

「えぇ。奥様とお話をしたいと言われるのでしたらぜひそうなさってください。普通の方ならあなたの会社の事務所でいいのでしょうが、今回は相手が相手です。素直に案内された方が双方のためになるでしょうね」

「……つまり、それだけの相手ということですね」

「そうですね。では、ちょうど定刻になりましたから、今から参りましょうか」

「はい。よろしくお願いします」

「今日も、よろしくお願いします、菅野さん」

「はい。では行きましょう」


 そう言って、菅野さんはよどみない動きでお店から退店する。

 私達も、飲んでいたジュースを飲み干すと後片付けをしてそれに続く。

 外へ出ると、昨日も乗ったリムジンに今日も案内される。うーん、相変わらず乗り心地がいいなぁ。


「はわわ…………こんな車、初めて乗った……。り、リムジンに初めて乗っちゃったよ……ど、どうしよう……」


 清水さんの慌て方が、昨日の私を彷彿させる。さすがにこれは気持ちがわかるから笑えない。三回目になれば、さすがに少し慣れてくるから緊張感も昨日よりは少ないけど。

 清水さんの慌て姿を眺めつつ、私達は瑞樹ちゃんの家へと向かうのであった。



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