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1.勇者は、『いい感じの木の棒』を拾った!

「なぁ、聞いたか!?出るんだってよ!」


 それは、普段となんら変わりない、馬鹿話だった。

ホームルームが終わり、教師がそそくさと教室を出て僅か三秒後のことだ。

中学の時からの悪友三人は、肉に群がるハイエナのように俺の席に集まっていた。

退屈な授業から解放され、血の気の満ちた顔は、先程までうたた寝していたとは思えない。


「はぁ?何が?」


「なにがって・・・幽霊だよ!深夜の学校に幽霊が出るんだってよ!」


 オカルト部の幽霊部員である井村は、興奮を隠そうともせず、俺達に向かってキラキラと目を輝かせている。


「幽霊〜?バカバカしい、七不思議の類いの話は聞き飽きたぜ?」


「いや、今回はマジなんだって。宿直の先生も、夜間警備のバイトの人も見たって。なんなら小松ちゃんは、昨日見たらしいぜ?」


 ・・・確かに、担任の小松ちゃん(25歳独身女性)はいつも小動物のようにオドオドしているが、今日は一段と大人しかったような気がする。

てか、ホームルーム違う先生だったのはそのせいか?


「・・・って、待て、それを俺らに言うってことは・・・」


「おう!忍び込もう!」


 だろうと思った。

こいつらの持ってくる話はいつもそうだ。

ある時は女子水泳部の屋内プールに忍び込もうとしたり、小松ちゃんの手作りお菓子欲しさに料理研究部に二時間居座ったり、悪行を挙げたらキリがない。


「なぁなぁ、行こうぜ相剋(しょうご)〜、相剋様〜!」


 巻き込まれる身にもなって欲しいモノだ。

まぁ、俺は逃げ足、いや危機回避が得意なので、割を食うことは少ないのだが。

ちなみに反省文を書くこいつらを横目に食う小松ちゃんのお菓子は格別に美味かった。

 だが、毎回付き合ってちゃ身が持たない。ここはガツンと言ってやらねばならん。


「いつ集合だ?お菓子は五千円までだぞ。」


「やっりぃ〜!さっすが相剋!」


 うん、やっぱり皆んなで馬鹿やるのは楽しいし、やめらんねぇ。


「じゃあ明日の夜11時に校門集合な!」


「明日?今日じゃないのか?」


 意気揚々と話してきたのにわざわざ明日にする理由が見当たらない。そう思って聞き返したのだが、三人共目が泳ぎ、顔を背ける。

 なんだ、怪しすぎるぞ。


「いや〜、今日は彼女と予定あるから、俺無理なんだよね。」


「は?聞いてねぇぞ、いつ彼女出来たんだよ?」


「実は・・・俺もマネージャーから帰り誘われてて。」


「は??」


「俺、この後先輩に告白するんだ・・・!」


「は???」



 ◇



「はぁー、裏切りモンどもが・・・」


 結局、三人共、俺を置いてそれぞれの相手の元へと去っていった。

教室を出るまで申し訳なさそうな顔をしていたが、姿が見えなくなった途端、「ひゃっほぅ!」とか聞こえたので絶対に許さん。

 帰りにゲームセンターに寄ろうともしたが、気分が乗らず素直に直帰することにした。


 途中のコンビニで買ったサイダーを、ちまちまと飲みながら河川敷を歩く。

季節は夏に差し掛かり、夏用の半袖でも暑くなってくる頃だ。

その分、川に吹いている風が気持ちいい。

 夏っぽい曲をスマホで再生しながら、小石をコツコツ蹴っていると、


「やべっ。」


 思っているよりも力が入ってしまったのか、かなり遠くまで転がって行ってしまった。

 小石にちょっと愛着が湧いていたので、見失わないように小走りで追いかける。

コロコロと不規則に転がる小石は、やがて道のど真ん中にある木の棒へと当たって跳ね返った。


「これは・・・!」


 見通しのいい河川敷。ボロボロのアスファルトの上に横たわったそれは、周囲に樹木は一切無いということもあり、凄まじい存在感を放っていた。

それ故に余計目を奪われた。


 雑に扱っても折れなさそうな太さで、そこそこの重量を感じる。

クネクネと多少の歪みはあるが真っ直ぐと言って差し支えない完璧なフォルム。

手に馴染むような程よい長さで、さながらファンタジーの片手剣のよう。

俺の持つ色褪せない童心は、この棒に運命的な鼓動を刻み始めていた。

 小学校の頃の帰り道、何処からともなく持ち寄った棒でチャンバラごっこした記憶が蘇り、自然と木の棒へと手を延ばす。

気分はさながら『伝説の勇者』だ。


指先が棒に触れる。


その瞬間、だった。


《触れた物の熱を操る魔法》


「・・・えっ?」


なんだ、どういうことだ?

分からない。いや、()()()


ありえない。


だが、俺の脳裏に突如として刻まれた異様な知識が、これが現実であることを物語っていた。

そしてそれは、()()()使()()()。という、これまでの価値観をひっくり返すような非現実的なものだ。


 そう、何気ない日常の最後に俺は、『魔法使い』になったのだった。

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