表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

99/119

第99話:消えゆく体

「嫌だ……。こんな結末、俺は認めないぞ……ッ!」


 地下空間に俺の絶叫が響く。 だが、現実は無慈悲に進行していた。 腕の中のリリの輪郭が、光の粒子となって解け始めていた。


「ジン、様……」


 リリが口を動かすが、声にならない。 彼女の存在を定義していた「天の楔」というアンカーが失われ、天理せかいが彼女を「不要な歪み」として排除しようとしているのだ。 俺が奪取したはずの「固定権限」も、天理という巨大な奔流の前では、小石で濁流を止めようとするようなものだった。 出力が違いすぎる。


「くそっ、くそっ……! 止まれ、消えるな!」


 俺は必死に魔力を注ぎ込み、リリを繋ぎ止めようとする。 だが、指先は虚しくすり抜けるばかりだ。 触れられない。温もりすら感じ取れない。 一番近くにいるのに、彼女だけが別の次元へ連れ去られていくようだ。


「ジン! どうなってるんだ!」


 グレンが駆け寄ってくるが、どうすることもできない。 ティアが回復魔法をかけようとするが、対象が存在しないため発動しない。


【警告:対象の存在確率が低下中】 【消失まで、あと三十秒】


 モノクルのカウントダウンが、死刑執行までの時間を刻む。 思考しろ。 何か手があるはずだ。 俺は軍師だ。どんな絶望的な盤面でも、勝ち筋を見つけ出してきたはずだ。


(天理がリリを「異物」として排除しようとしているなら……もっと濃い「異物」で覆い隠せばいい)


 一か八かだ。 俺は視線を足元に向けた。 そこには、震えながらリリを見上げている白い毛玉がいた。


「ラク!!」


 俺が叫ぶと、ラクは弾かれたように顔を上げた。 言葉はいらない。 俺の意図を――いや、俺たちの願いを、こいつは本能で理解している。


「みゅーーーーーーーーッ!!!」


 ラクが跳躍した。 空中でその体が爆発的に膨張し、同時にその純白の毛並みが、どす黒い漆黒へと変色していく。 それは、ラクが溜め込んでいた「不運エネルギー」の解放だった。 リリから生まれ、リリを守るために育った、世界で最も濃厚な呪いの塊。


 バシュッ!!


 黒く巨大化したラクが、消えかけたリリを丸呑みにするように包み込んだ。 柔らかい毛並みが繭となり、リリを外界から遮断する。


「……!」


 俺はラクの繭に手を触れた。 弾力のある感触。 そして、その奥に微かに感じる、リリの鼓動。


「……止まったか」


 モノクルのカウントダウンが停止している。 ラクが自身の体を「結界」とし、リリを天理の干渉から隔離したのだ。 世界のルールが届かない、特異点の内側へ。


「みゅ……ぅ……」


 ラクが苦しげに鳴いた。 無理やりリリの崩壊を抑え込んでいるため、ラク自身にも相当な負荷がかかっているのだろう。 長くは持たない。これはあくまで応急処置だ。


「よくやった、ラク」


 俺は黒い繭を両手で抱きしめた。 重い。 命の重さだ。


「リリ、聞こえるか」


 俺は繭越しに語りかけた。


「絶対に離さない。俺が天理ごと書き換えてやる」


 返事はない。 だが、繭の中からじんわりとした温もりが伝わってきた。 それが、彼女の答えだと思った。


「……おい、ジン。あれを見ろ」


 カエデが震える指で空を指差した。 崩落した天井の大穴。その向こうに見える空に、異変が起きていた。 遥か上空に浮かぶ『天空城』から、無数の光が降り注いでいる。 それは、新たな天使の軍勢だった。 さっきまでの比ではない。空を埋め尽くすほどの数が、こちらへ向かって降下してきている。


「本格的に潰しに来たか……」


 天理も本気だ。 リリという歪みを完全に消去するために、なりふり構わず戦力を投入してきたのだ。


「どうするんだ、大将! ここであいつらを迎撃するか!?」


 ヴォルグがガトリング砲を構え直す。


「いや、ここで戦ってもジリ貧だ。リリを救うには、根本的な原因を絶つしかない」


 俺は空に浮かぶ白亜の城を見据えた。 あそこに行かなければならない。 このふざけた筋書きを書いた天の意志を引きずり下ろし、俺たちの物語を取り戻すために。


「上だ。天空城へ乗り込む」


 俺は宣言した。 しかし、どうやって? ヴォルグの馬車は飛行可能だが、あの数の天使を突破して成層圏まで到達するのは不可能だ。


 その時。


『迎えに来たわよ、愛すべき馬鹿ども!』


 頭上から、頼もしい声が降ってきた。 リエルだ。 見上げれば、大破したはずの黄金の飛行戦艦が、黒煙を上げながらも再浮上していた。 ボロボロの船体。だが、その輝きは失われていない。


『私の船は沈まない! だって、私が乗っているんだから!』


 絶対強運の女王が、不敵に笑う。 彼女の強運が、物理的な限界を超えて船を飛ばしているのだ。


「……最高だ、女王様」


 俺はラクの繭を抱きかかえ、仲間たちに合図した。


「乗るぞ! 最終決戦だ!」


 俺たちは瓦礫を蹴って、降りてきたタラップへと飛び乗った。 目指すは天の頂。 神殺しの狼煙が上がる。



最後までお読みいただきありがとうございます!


・ラクの決死の防衛(黒い繭)。

・リエル様のド派手な帰還。


絶望的な状況をひっくり返すのは、やはり仲間たちの力でした。

「私の船は沈まない! だって私が乗っているんだから!」

このセリフ、言ってみたすぎますね。


次回、空飛ぶカジノ戦艦で、神の城へ殴り込み(カチコミ)です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ