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第93話:地下の天の楔への道

 地上の喧騒を背に、俺たちは王都の地下深くに広がる古代遺跡を進んでいた。 かつてアルスが魔剣を手に入れた場所であり、今は最後の『天の楔』が守られている最重要区画だ。


「……空気が重いな」


 グレンが鼻をひくつかせる。 地下に降りるにつれ、肌を刺すような魔力濃度が増していく。 通路の壁には、天理の紋様が刻まれ、侵入者を拒むように淡く発光していた。


「ジン様。この先、高密度の魔力反応があります。……おそらく、迎撃システムです」


 リリが警告する。 俺がモノクルで確認すると、通路の奥にびっしりと敷き詰められた致死性のトラップ群が表示された。 『自動追尾式焼却術式』、『空間圧殺結界』、『魂食らいの霧』……。 殺意のデパートだ。まともに解除していては、楔にたどり着く前に日が暮れる。


「ヴォルグ、解除できるか?」


「無理だコリャ。構造が複雑すぎる上に、数が多い。爆破して通るにしても、崩落して生き埋めになるのがオチだ」


 ヴォルグがお手上げのポーズをとる。 正面突破も隠密も不可能。 管理者側も、ここが本丸なだけあって本気で守りを固めているらしい。


「あ、あの……!」


 その時、おずおずと手を挙げたのはティアだった。


「私、浄化魔法で霧を晴らしてみます! 少しでも視界が良くなれば……」


「待てティア。お前が動くとろくなことに……」


 俺が止める間もなく、ティアは杖を振るった。


「邪悪な気配よ、退散せよ! 『ピュリファイ・ミスト』!」


 彼女の杖から、神聖な光の粒子が放たれる。 それが通路に充満する『魂食らいの霧』に触れた瞬間。


 バチチッ……!


 いつもの嫌な音がした。 空間が歪み、因果律が悲鳴を上げる。 ティアの【確率乱高下】が、緻密に組まれたトラップの術式回路に侵入し、ランダムな数値ノイズを流し込んだのだ。


【警告:術式エラー】 【防衛システムに深刻なバグ発生】 【攻撃モードを『祝賀モード』へ強制変更します】


 無機質なアナウンスが響いた。 直後。


 ヒュルルルル……ドーンッ!!


 通路の壁から、無数の光弾が発射された。 だが、それは殺戮の光線ではない。 七色に輝く、美しい花火だった。


「た~まや~」


 誰かの声(幻聴)が聞こえた気がした。 極悪なトラップ群が次々と作動していくが、その全てがおかしい。 『空間圧殺結界』は、ただの紙吹雪を撒き散らす装置に変わり、『焼却術式』は、足元を照らすムーディーなライトアップに変化している。


「わぁ……! 綺麗ですぅ!」


 ティアが目を輝かせて拍手している。 地獄の迷宮が、一瞬にしてファンシーなパレード会場へと変貌していた。


「……なんだこりゃ」 グレンが呆然と口を開ける。


「拙者、戦場に数多く立ってきたが……こんな光景は初めてだ」


 カエデも刀を下ろしてしまった。


「……行けるか?」


「ええ。殺傷能力は皆無のようです」


 リリが紙吹雪の中を歩き、安全を確認する。 俺は額を押さえた。 天理が用意した鉄壁の防御網が、たった一人のドジっ子のせいで「お祝いムード」に書き換えられてしまった。 管理者がこれを見たら、泡を吹いて卒倒するんじゃないか?


「……進むぞ。このカオスな状況が続いているうちに」


 俺たちは花火が打ち上がり、紙吹雪が舞う通路を悠々と歩いた。 緊張感など欠片もない。 まるでテーマパークのアトラクションだ。


「えへへ、私、役に立ちましたよね?」


 ティアが得意げに俺を見上げてくる。 確かに、最強のトラップ解除(物理破壊とも違う概念破壊)だった。


「……ああ。お前は本当に、計算できない最強のジョーカーだよ」


 俺は苦笑し、ティアの頭をポンと撫でた。 ティアは「えへへ~」と嬉しそうに目を細める。


「みゅ〜(平和だな)」 ラクもリリの肩の上で、花火を見上げて楽しんでいる。

 だが。 この馬鹿騒ぎの奥に、最後の楔がある。 そして、そこで待っているはずの「真実」が、俺たちの心を再び冷やすことになる。


 通路の最奥。 巨大な扉の前に立った時、花火の音は止み、再び重苦しい静寂が戻ってきた。


「……ここだ」


 俺は扉を見上げた。 この向こうに、最後の楔がある。 そして、リリの運命を決める最後の選択が待っている。


「行こう」


 俺が扉を押し開けると、そこには底なしの闇と、一点の白い光が待っていた。


お読みいただきありがとうございます。


致死性トラップが、パレード会場に。

ティアの「確率バグ」は、シリアスな空気さえも物理的に破壊します。

管理者の胃痛が心配ですね。


さて、そんな道中もここまで。

扉の向こうには、最後の楔があります。


そして次回、物語の根幹を揺るがす「最悪の事態」が判明します。

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