第91話:リエルの秘密兵器
決戦の朝。『嘆きの白亜邸』のリビングで、俺たちは静かに装備を整えていた。 リリが『緋蜂』を腰に差し、グレンが『真・岩砕き』のグリップを握りしめる。 カエデは刀を拝むように掲げ、ティアは震える手で杖を抱きしめている。ヴォルグは……何やら怪しげなスイッチがついたリモコンを弄り回していた。
「準備はいいか?」
俺が声をかけると、全員が力強く頷いた。目指すは王都の地下。そこに最後の『天の楔』がある。だが、問題はそこまでのルートだ。屋敷の外は、未だに天使たちの監視網が張り巡らされている。隠密行動で地下への入り口までたどり着くのは、昨日以上に困難だろう。
「……行くぞ」
俺がドアノブに手をかけた、その時だった。
ズズズズズ……。
地鳴りのような振動が、足元から伝わってきた。いや、地震ではない。空気が震えているのだ。
「なんだ? 敵襲か?」
グレンが身構える。
直後。
ドォォォォォォォォォンッ!!!!!
凄まじい轟音が、頭上から降り注いだ。 ガラスがビリビリと悲鳴を上げ、棚の食器が音を立てて揺れる。
「上だ!」
俺たちはバルコニーへと飛び出した。見上げた空――王都を覆う白い結界の外側に、信じられないものが浮かんでいた。
「……は?」
俺は我が目を疑った。それは、巨大な黄金の船だった。海を行く豪華客船をそのまま空に浮かべ、さらに過剰なほどの魔導砲と装飾を取り付けた、空飛ぶ不夜城。 船体には『Royal Flush』の文字が、ダイヤモンドで刻まれている。
「な、なんだありゃあ!? 空飛ぶカジノか!?」
ヴォルグが口をあんぐりと開ける。
黄金の船は、王都を取り囲む天使の軍勢に向かって、容赦のない砲撃を開始した。 放たれるのは鉛の弾丸ではない。圧縮された魔力の塊と、そして――
「……コイン?」
バラバラと降り注ぐ、金貨の雨。物理的な質量攻撃だ。金に物を言わせた、あまりにも成金趣味な弾幕。
ザザッ……ザザッ……。
俺たちの耳元にある通信イヤリングから、ノイズ混じりの声が響いた。
『聞こえるかしら? そこの貧乏人たち!』
高圧的で、自信に満ちた声。聞き間違うはずがない。
「リエルか……!」
『遅くなって悪かったわね。この子の改装に少し時間がかかったのよ』
リエルは得意げに鼻を鳴らした(ような気がした)。
『約束したでしょ? 最高の船を用意するって。……どう? 私の私財を投じて作り上げた超弩級飛行戦艦『クイーン・リエル号』の乗り心地は?』
「……乗り心地も何も、俺たちは下から見上げてるだけだがな」
どうやら彼女は、俺たちを回収するつもりでここまで来たらしい。だが、あいにくと王都は結界で封鎖されている。
『あら、そうなの? まあいいわ。そこにいるなら、今から迎えに行くわよ!』
リエル号の主砲が、結界の一点に集中する。
『全門、斉射! 天使も結界も、私の財力でねじ伏せなさい!』
ドガガガガガガガッ!!
黄金の弾幕が結界を叩く。もちろん、天理の結界が物理攻撃で破れるはずもない。 だが、その派手すぎる攻撃は、天使たちの注意を完全に引きつけた。監視網の目が、一斉に上空の巨大戦艦へと向けられる。
「……チャンスだ」
俺はニヤリと笑った。リエルが意図したわけではないだろうが、結果としてこれ以上ない陽動になっている。
「リエル、そのまま派手に暴れてくれ! 奴らの目を釘付けにしろ!」
『指図しないでちょうだい! 言われなくても、この街の空を飛ぶハエは全部叩き落としてやるわ!』
リエルの罵倒が心地いい。彼女はモニター越しに、天使たちを見下ろして叫んだ。
『勘違いしないでよね! 貴方達のためじゃないわ! 私のライバル(リリ)が、こんなところで野垂れ死ぬのが嫌なだけよ! 決着をつけるまでは、誰にも指一本触れさせないんだから!』
見事なツンデレ口上だ。リリがイヤリングに手を添え、ふふっと笑った。
「ありがとうございます、リエル様。……後で、お茶でもしましょう」
『ふ、ふん! 最高級の茶葉を用意して待ってるわよ!』
通信が切れる。上空では、リエル号が天使たちを相手に大立ち回りを演じている。 金貨の雨と魔導砲の光が、王都の空をカーニバルのように彩っていた。
「行くぞ、野郎ども! 女王様が作ってくれた花道だ、無駄にするな!」
俺は号令をかけた。
「おうよ! 地下への入り口まで競争だ!」
「拙者の刀が疼く……!」
グレンとカエデが飛び出す。天使の監視が薄れた今なら、強行突破できる。
俺たちは屋敷を飛び出し、地下遺跡の入り口がある中央広場へと駆け出した。 頭上では、黄金の船が太陽のように輝き、俺たちの行く手を照らしていた。
最強の支援を得て、いざ、最後の楔へ。
お読みいただきありがとうございます。
空飛ぶカジノ戦艦『クイーン・リエル号』推参!
金貨を弾幕にするという、リエル様らしい成金攻撃でした。
「私のライバルが野垂れ死ぬのが嫌なだけ」
このツンデレ台詞、最高に輝いています。
空の敵は彼女が引き受けました。
しかし、地上にはまだ絶望的な数の軍勢が。
次回、まさかの男が助太刀に来ます。




