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第75話:新たなる目標

 宿場町での手配書騒動から数時間後。俺たちは再び森の奥深くに身を潜め、焚き火を囲んでいた。ティアのドジによって追手の目は誤魔化せたが、それは一時的なものだ。天理がその気になれば、似顔絵の修正など造作もないだろう。


「……で、どうするんだ旦那」


 グレンが肉を齧りながら、真剣な眼差しを向けてくる。珍しく、脳筋なりに事態の深刻さを理解しているようだ。


「俺たちは『神敵』になっちまった。このまま逃げ回るのか? それとも、どこかの洞窟にでも引きこもって一生を終えるか?」


「拙者は御免だぞ。武士として、隠れ住むような真似はしたくない」


 カエデが刀の手入れをしながら同意する。ヴォルグも機械いじりの手を止めてこちらを見ていた。


「俺もだ。逃げるのは性分じゃない」


 俺は地図を広げた。この大陸の地図だ。そこには、俺が軍師時代に集めた情報や、ヴォルグの知識、そしてリリの記憶から推測される「ある地点」が記されていた。


「反撃に出るぞ」


 俺の言葉に、全員の視線が集まる。


「反撃って……相手は神様だぞ? 天に拳を突き上げるのか?」


「物理的に届かない相手をどうやって倒すのです?」


 ティアがおずおずと尋ねる。確かに、空の彼方にいる「管理者」を直接殴ることはできない。だが、奴らが地上に干渉してくる以上、必ず「接点」があるはずだ。


「奴らは万能じゃない。もし本当に全知全能なら、俺たちのような『歪み』は発生した瞬間に消されているはずだ」


 俺は地図上の数カ所を指差した。極北の火山、深海の遺跡、天空の塔……。古くから「聖地」や「禁足地」と呼ばれ、人が近づかない場所。


「天使たちが現れた時、俺のモノクルは奴らの力の供給源を探知していた。奴らは空から降ってきたんじゃない。……この地上にある『中継点』を経由して実体化している」


 俺は指で地図をトントンと叩いた。


「名付けて『天のくさび』。天理がこの世界を管理し、固定するために打ち込んだ杭だ。これが世界中に点在し、監視網と処刑システムを維持している」


「つまり……?」


 リリが首を傾げる。


「簡単な話だ。その『楔』を全部へし折ってやればいい」


 俺はニヤリと笑った。


「中継点を破壊すれば、天理は地上への干渉力を失う。監視の目も、処刑人の転送もできなくなる。……そうすれば、この世界は奴らの筋書きから解放され、俺たちのものになる」


 壮大すぎる計画。世界中に散らばる秘境、魔境を巡り、神の設置した装置を破壊して回る。それは、世界そのものを書き換える大冒険だ。


「ヒャハハ! 面白ぇ! 神様のオモチャをぶっ壊すツアーか! 燃えるぜェ!」  


 ヴォルグが狂喜する。


「へっ、世界中を回るってことは、まだ見ぬ強敵とも会えるってことだな? 悪くねえ」


 グレンが拳を鳴らす。


「天理、か。拙者の故郷を弄んだ元凶に一泡吹かせてやれるなら、本望だ」


 カエデが静かに闘志を燃やす。


「わ、私も……皆様と一緒なら、どこへでも!」


 ティアが涙目で、それでも力強く頷く。


 そして。


「ジン様」


 リリが俺の正面に座り直した。その瞳は、出会った頃のような怯えも、迷いもない。ただ、俺への信頼だけが満ちている。


「貴方が行くなら、私はどこへでもお供します。地獄の底でも、天の果てでも」


「……ああ。頼りにしている」


 俺はリリの手を握った。彼女の不運(呪い)は、まだ解けていない。だが、それを逆手に取り、世界を覆す武器に変えてみせる。


「みゅう!(やるぞ!)」


 ラクが俺たちの手の甲に飛び乗り、気合を入れるように鳴いた。


「よし、方針は決まった。最初の目標は……」


 俺は地図の一点を指差した。ここから北西、活火山の火口にあるとされる遺跡。


「『灼熱の洞窟』。そこにある第一の楔を破壊する」


「了解だ、大将! 『殲滅馬車』、発進準備!」


「食料の積み込みも完了したぜ!」


 仲間たちが動き出す。悲壮感はない。あるのは、未知への高揚感と、理不尽な運命に抗う野心だけ。


 俺たちは馬車に乗り込んだ。エンジンが唸りを上げ、鉄の車輪が大地を噛む。


 逃げるだけの旅は終わりだ。ここからは、俺たちが世界を狩る番だ。


 深淵の軍師と、その愉快な仲間たち。世界を敵に回した彼らの、痛快なる反逆の旅が、今ここから始まる。


最後までお読みいただきありがとうございます!


目的が決まりました。

世界中に打ち込まれた「天のくさび」を破壊して回る、グランドツアーの開幕です。


・極北の火山

・深海の遺跡

・天空の塔


もはや冒険のスケールが違います。

次回からは、移動中の「野営キャンプ」回。

有能すぎるリリと、ポンコツすぎる他のメンバーの格差社会をお届けします。

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