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第63話:ヤマト到着

 海原を渡りきった『殲滅馬車』は、砂浜に深いわだちを刻みながら上陸を果たした。


「着いたぞ! ここが黄金の国、ヤマトだ!」


 ヴォルグが興奮して叫ぶ。 俺たちは車外へと降り立った。 そこは、異様な美しさと静寂に包まれた場所だった。


 街道沿いには、無数の桜並木が続いている。 だが、その桜は狂い咲き、花弁は血のように赤い。 風に乗って舞う花びらが、荒廃した石畳の都を儚く彩っている。


「……これが、ヤマト」


 カエデが呆然と立ち尽くしていた。 彼女の記憶にある故郷は、活気に満ち、美しい四季に彩られた都だったはずだ。 だが今、目の前にあるのは、建物が崩れ、人の気配が消え失せたゴーストタウンだ。


「酷い……。これほどまでに荒れ果てていたとは……」


 カエデが拳を握りしめる。 リリもまた、様子がおかしかった。 馬車を降りてからずっと、顔色が優れない。


「リリ? 大丈夫か」


「……はい。ただ、少し眩暈が……」


 リリは額を押さえ、周囲を見渡した。 その瞳が、小刻みに揺れている。


「知っています……。この匂い、この風……。私、ここを歩いたことがあります」


 封印されていた記憶の蓋が、現地の空気に触れて開きかけているのだ。 彼女のルーツがここにあることは間違いない。


「行くぞ。目指すは中央に見えるあの城だ」


 俺は遠くに見える、巨大な東方様式の城郭――皇城を指差した。 あそこなら、何か手がかりがあるはずだ。


      ◇


 崩れた大通りを進む。 静かだ。あまりにも静かすぎる。 生物の気配がない。鳥の声すら聞こえない。 あるのは、風が廃屋を吹き抜けるヒュオオという音だけ。


「……来るな」


 グレンが足を止め、大剣の柄に手をかけた。 彼の【直感】が反応している。


 カシャ……カシャ……。


 前方、皇城へと続く大門の陰から、複数の影が現れた。 錆びついた甲冑。欠けた刀。そして、肉が削げ落ちて骨だけになった身体。 骸骨武者スケルトン・サムライの群れだ。


「あれは……近衛兵団の鎧……!」


 カエデが息を呑む。 かつて国を守っていた精鋭たちが、死してなお魔物となり、都を彷徨っているのだ。


『……去レ……。禁足地……立チ入ルベカラズ……』


 先頭の武者が、ガラガラと顎を鳴らして警告する。 その虚ろな眼窩に、怨念の如き赤い光が灯る。


「くっ……! 同胞に剣を向けねばならぬとは……!」


 カエデが刀を抜くが、その手には迷いがあった。 相手はかつての知己かもしれない。祖国の英雄かもしれない。 その迷いを、魔物は見逃さない。


『排除スル』


 武者が神速の抜刀術を放つ。 速い。腐っても近衛兵だ。 カエデの反応が遅れる。


「――湿っぽい顔してんじゃねえよ!」


 ドォォォォンッ!!


 横合いから巨大な鉄塊が叩き込まれ、武者を鎧ごと粉砕した。 グレンだ。 彼は大剣『岩砕き・改』を軽々と担ぎ、カエデの前に仁王立ちした。


「グ、グレン殿……!?」


「死んだもんは死んだんだ。土に還してやるのが供養ってもんだろ」


 グレンはニカっと笑い、迫りくる武者の群れを見据えた。


「それによう……ヒャッハー! ようやく骨のある奴らが出てきやがったぜ! 斬り放題だぁ!」


 不謹慎極まりない雄叫び。 だが、その豪快さが、カエデに憑りついていた悲壮感を吹き飛ばした。


「……ふっ。違いない。貴殿は本当に、デリカシーのない野蛮人だな」


 カエデが口元を緩め、刀を構え直す。 その瞳から迷いは消えていた。


「参る! ヤマト一刀流免許皆伝、カエデ! 介錯仕る!」


「おうよ! 俺の背中は任せたぜ、サムライガール!」


 二人が前線へ飛び込む。 剛剣と神速。正反対のスタイルがかみ合い、骸骨の軍勢を次々と瓦礫へと変えていく。


「リリ、俺たちも行くぞ」


「……はいっ!」


 リリも短剣を抜き、俺の護衛につく。 記憶のフラッシュバックに耐えながらも、彼女の動きに淀みはない。 俺は【確率操作】で敵の足元を崩し、連携を崩していく。


 皇城への道が開かれる。 この先に待つ真実が、どれほど残酷なものであろうとも。 俺たちはもう、止まるつもりはなかった。


お読みいただきありがとうございます。


桜舞う廃墟。

美しくも不気味なヤマトの現状が明らかになりました。


襲い来る骸骨武者に対し、グレン&カエデの前衛コンビが火を噴きます。

やっぱり物理が一番話が早いですね。


次回、皇城の最奥へ。

そこで待っていた老婆の口から、リリの出生の秘密――あまりに残酷な真実が語られます。

シリアス展開です。

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