第54話:カジノ都市ラス・ベガ
荒野をひた走ること数日。 赤茶けた地平線の彼方に、不夜城の如き輝きが見えてきた。
「見ろよ旦那! すげぇ灯りだ!」
「ヒャハハ! あれだけの魔力光、エネルギー効率はどうなってんだ!?」
グレンとヴォルグが窓に張り付いて騒ぐ。 そこは砂漠の真ん中に突如として現れた、欲望の蜃気楼。 東方への玄関口にして、大陸最大の歓楽街――カジノ都市『ラス・ベガ』だ。
「到着だ。……全員、財布の紐と理性を締め直せよ」
俺が釘を刺すと、ティアが目を輝かせて振り返った。
「わぁぁ……! 綺麗です! まるで宝石箱をひっくり返したみたい!」
「お前は特に気をつけろ。その『バグ運』でカジノを破産させるか、逆にお前が身ぐるみ剥がされるかの二択しかない気がする」
俺たちは馬車を街外れのガレージ(ヴォルグの知り合いの闇商人の倉庫)に預け、徒歩で市街地へと足を踏み入れた。
◇
街の中は、昼間のように明るく、そして喧騒に満ちていた。 極彩色の魔導ネオンが点滅し、通りにはスロットマシンの電子音や、勝者の歓声、敗者の絶叫が入り混じっている。 行き交う人々も様々だ。一攫千金を夢見る冒険者、視線が定まらない中毒者、そして露出度の高い衣装を纏ったバニーガールたち。
「いらっしゃいませ~♡ そこの素敵な旦那様、ウチで遊んでいきませんか~?」
豊満な胸を強調したバニーガールが、ウィンクと共に俺に近づいてくる。 だが、彼女が俺に触れることはなかった。
ガシッ。
俺の右腕に、強烈な力が加わったからだ。
「……お断りします」
リリだ。 彼女は俺の腕を抱え込むようにして密着し、バニーガールを氷点下の視線で射抜いていた。 その瞳は「近づいたら斬る」と雄弁に語っている。
「ひっ、す、すみません~!」
バニーガールが逃げ出す。 リリはさらに腕に力を込め、俺を見上げた。
「ジン様。ここは空気が悪いです。油断していると、変な虫(主に女性)が寄ってきます」
「……そうだな。頼りにしてるよ」
俺が苦笑すると、リリは満足げに頬を俺の肩に擦り付けた。 所有権の主張だ。 その可愛らしい独占欲に、俺は少しだけ口元を緩めた。
「みゅ〜」
さらに、リリの頭の上にはラクが鎮座していた。 しかも、何故か目元には黒いサングラス(ヴォルグ製)をかけている。 強い魔導光から目を守るためか、それともこの街の雰囲気に染まったのか。 ハードボイルドな毛玉だ。
「さて、まずは宿を探すか」
「へっ、宿なんてどこでもいいだろ。俺は早速スロット打ちに行きてぇんだよ!」
グレンがウズウズしている。 だが、この街の掟はそう甘くない。
「甘いな、グレン。看板を見てみろ」
俺が指差した先。宿屋の看板には、宿泊料金の代わりにこう書かれていた。
『宿泊料:ルーレット一回勝負(赤なら無料、黒なら倍額)』
「……は?」
「レストランもだ。『サイコロの出目で値段決定』。武器屋に至っては『ジャンケンで勝てば半額』だ」
ここはカジノ都市。 ここでは通貨よりも「運」が価値を持つ。 食事も、宿泊も、人生の全てがギャンブルで決定される狂った街なのだ。
「お、面白ぇじゃねえか……!」
グレンが逆に燃え上がっている。
「あの……ジン様。私、勝てる気がしません」 リリが不安そうに眉を下げる。彼女のLUKはマイナス極限。普通にやれば全敗確定だ。
「安心しろ。俺がいる」
俺はニヤリと笑った。 不運? 上等だ。 俺の【確率操作】にとって、この街は巨大な遊び場(狩場)でしかない。
「リリの不運を逆手に取れば、負けを勝ちに変えることなんぞ造作もない。……この街の『運』を、根こそぎ搾り取ってやろうぜ」
俺たちはネオンの海を歩き出した。 目指すは、この街で最も巨大で、最も豪華な中央カジノホテル『ロイヤル・フラッシュ』。 そこには、この街を支配する「絶対強運の女王」がいるという。
アルスとの決戦の前に、まずは小手調べといくか。
お読みいただきありがとうございます。
宿泊料も食事代もギャンブルで決まる街、ラス・ベガ。
普通なら地獄ですが、確率を操るジンにとっては「食べ放題・泊まり放題」の楽園です。
次回、この街の支配者にして「絶対強運」を持つ女王が登場します。
ジンとは真逆の能力を持つ最強の敵(?)。
果たして、不運使いは強運に勝てるのか。




