表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/109

第53話:トラブルメーカー

「ああっ、もう! 私だって役に立ちたいんです!」


『殲滅馬車』の中、ティアが頬を膨らませて抗議していた。 仲間になって(勝手についてきて)数日。 家事はリリが完璧にこなし、戦闘はグレンが担当し、整備はヴォルグがやる。 聖女候補生であるティアの出番は、今のところ「車輪に頭をぶつける」か「回復魔法を暴発させる」くらいしかない。


「気持ちは嬉しいが、お前は座っているだけで貢献しているぞ。……何もしないという形でな」


 俺が諭すが、ティアは納得していない様子だ。 その時、馬車が水源確保のためにオアシスの近くで停車した。


「見ていてください! 皆様のために、最高に美味しい食材を見つけてきますから!」


 ティアは杖を握りしめ、脱兎のごとく馬車を飛び出していった。


「……おい、大丈夫か?」


「放っておけ。この辺りは見通しの良い荒野だ。迷子になることもないだろ」


 俺は悠長に構え、リリが淹れてくれたお茶を啜った。 だが、その安息はわずか十分で終了した。


「と、採れましたぁーッ!!」


 遠くから、ティアの叫び声が聞こえる。 窓から覗くと、彼女が両手で抱えきれないほどの「巨大なキノコ」を持って走ってくるのが見えた。 七色に発光し、独特の甘い香りを放つ、見るからにヤバそうなキノコだ。


「……嫌な予感がする」


 俺は【解析のモノクル】を起動した。


【名称】誘惑の虹茸フェロモン・マッシュルーム 【レア度】A 【効果】極めて強力な誘引臭を放ち、半径十キロ以内の魔獣を発情・狂暴化させて呼び寄せる。 【備考】別名『魔獣ホイホイ』。絶対に持ち歩いてはいけない。


「馬鹿野郎ッ!! それを捨てろ!!」


 俺が窓を開けて怒鳴った瞬間、大地が激しく揺れた。


 ズズズズズズズ……ッ!!


 地鳴り。 いや、違う。これは地中から何かが這い出してくる音だ。 それも、一匹や二匹ではない。


「シャアアアアアアッ!!!」


 砂柱を上げ、地面から飛び出したのは、巨大な円形の口を持つミミズのような魔獣――サンドワームだった。 しかも、通常種ではない。体長二十メートルを超える『大砂蟲ジャイアント・サンドワーム』の群れだ。 その数、目視できるだけで三十体以上。 キノコの甘い香りに興奮し、涎を垂らしてティア(の持っているキノコ)に殺到している。


「ひゃあああっ!? な、なんですかこいつらぁ!?」


 ティアが涙目で爆走する。 だが、彼女の逃げる先は――当然、俺たちの馬車だ。


「こっちに来るなッ! ……チッ、ヴォルグ! 迎撃だ!」


「ヒャハハ! 待ってましたぁ! 新兵器のテストだぜオラァ!」


 ヴォルグが操縦席で狂喜乱舞し、赤いボタンを叩いた。 ガション! と馬車の屋根が展開し、巨大な砲塔がせり上がる。


「焼き尽くせ! 『紅蓮火炎放射砲イフリート・バーナー』!!」


 ドゴォォォォッ!!


 砲塔から紅蓮の炎が噴射された。 扇状に広がった炎が、迫りくるサンドワームの先頭集団を飲み込む。 断末魔と共に、巨大な虫たちが松明のように燃え上がる。


「すげぇ火力だ! だが、数が多すぎるぞ!」


 炎の壁を突き破り、後続のワームたちが突っ込んでくる。 その一匹が、大きく口を開けて馬車に食らいつこうとした瞬間。


「でりゃああああッ!!」


 馬車の屋根から、赤髪の巨漢が飛び出した。 グレンだ。 彼の手には、ヴォルグによって修復・強化された大剣『岩砕き・改』が握られている。


「東方の魔物は活きがいいな! だが、俺の筋肉エサには勝てねえよ!」


 グレンは空中で大剣を振りかぶり、ワームの脳天目掛けて叩きつけた。


 ズドォンッ!!


 硬い甲殻が砕け散り、緑色の体液が舞う。 ワームは悲鳴を上げる間もなく地面に叩きつけられ、ピクリとも動かなくなった。


「オラオラオラァ! 次だ次!」


 グレンは着地するや否や、次々と襲いかかるワームたちを薙ぎ払っていく。 ただの力押しではない。的確に急所を狙い、相手の突進力を利用してカウンターを決める。 これぞ歴戦の傭兵の動きだ。


「リリ、ティアを回収しろ!」


「はいっ!」


 リリが影のように走り出し、パニックで転びそうになっていたティアの襟首を掴んで、馬車の中へと放り込んだ。 同時に、問題のキノコを奪い取り、遥か彼方へ全力投球する。


「そぉいッ!」


 キノコは星になって消えた。 目標を失ったワームたちが一瞬動きを止める。 その隙を、俺たちは見逃さない。


「グレン、戻れ! ヴォルグ、全速離脱!」


「おうよ!」


 グレンが馬車に飛び乗るのと同時に、鉄の履帯が唸りを上げて急加速する。 混乱する魔獣の群れを置き去りにして、『殲滅馬車』は砂煙の彼方へと消え去った。


      ◇


「……ぐすっ、うぅ……。ごめんなさい……」


 安全圏まで逃げた後。 車内では、ティアが正座をして縮こまっていた。 服は砂まみれ、顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだ。


「良かれと思ってやったのはわかる。だが、お前が動くとロクなことにならん」


 俺は冷たく言い放ち、胃薬を水で流し込んだ。 本日二度目だ。


「でもぉ……私、ただ皆さんに美味しいスープを飲んでほしくて……」


「そのスープの出汁ダシにされるところだったんだぞ、俺たちが」


「元気出せよ、聖女様。魔物との追いかけっこ、いい運動になったじゃねえか」


 グレンがガハハと笑ってティアの背中を叩く。 デリカシーのない慰めだが、ティアは「うぅ、グレンさん優しぃ……」と泣きついている。


「……ジン様」


 リリが俺の袖を引いた。 彼女は困ったように笑いながら、それでもティアを庇うような目をした。


「彼女の『悪気のない不運』……少しだけ、昔の私を見ているようです」


「……一緒にするな。お前の不運はシリアスだが、こいつのはコメディだ」


 俺はため息をついた。 だがまあ、全員無事だったし、グレンやヴォルグの連携確認もできた。 実害(胃痛以外)はなかったとしておくか。


「次は勝手な行動をするな。いいな?」


「は、はい! もう二度としません! ……たぶん!」


「たぶん、じゃねえよ」


 ティアの頭の上に、ラクが飛び乗って「みゅッ!(しっかりしろ!)」とポムポム叩いている。 東方への旅路はまだ始まったばかり。 このトラブルメーカーが、次は何をやらかしてくれるのか。 俺は頭痛と胃痛を同時に感じながら、窓の外の荒野を睨みつけた。


本日の更新はここまでです!

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


・確率操作のジン

・不運な最強暗殺者リリ

・バグり聖女ティア

・爆弾魔ヴォルグ

・筋肉グレン

・毛玉ラク


パーティメンバーが全員揃いました。

まともな人間が一人もいませんが、戦力だけは過剰です。


次回からは、このカオスな一行で東方を目指します。

道中、さらなるトラブルと、ティアのポンコツぶりが加速していきます。


ここまでの新章開幕を読んで、

「ティアのドジっぷりが可愛い(?)」「パーティのわちゃわちゃ感が好き!」

と思っていただけましたら、


ページ下の【★★★★★】評価と**【ブックマーク】**で応援していただけると、

ジンの胃痛が少しだけ和らぎます!

(※皆様の応援が、執筆の最大動力です!)


明日も更新しますので、引き続き『薄幸の美少女』をよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ