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第49話:最初の野営

 ヴォルグ自慢の『殲滅馬車』は快調に街道を爆走し、日が暮れる頃には予定よりも遥か先、街道沿いの広場に到着していた。 今日はここで野営だ。


「よっしゃあ! 飯だ飯!」


 馬車が止まるや否や、グレンが飛び出し、手際よく焚き火の準備を始める。 戦闘以外では役立たずかと思いきや、野宿慣れしている傭兵だけあって、こういう作業は早い。


「ふふっ、今日は皆さんのお口に合うように、特別なシチューを作りますね」


 リリもエプロンを着け、簡易キッチンから食材を運び出す。 手には、ヴォルグに作らせた『古竜鱗加工のフライパン』と『アダマンタイトの包丁』が握られている。


「おいおい、嬢ちゃん。そんな物騒なもん振り回して料理かよ?」


「失礼ですね。これはジン様との愛の結晶(家事道具)です」


 リリは涼しい顔で、石のように硬い干し肉をアダマンタイト包丁で「ストン」と切断した。 まな板ごと地面まで切れそうな切れ味だ。


 俺は馬車のメンテナンスをしているヴォルグに声をかけた。


「調子はどうだ?」


「最高だぜ! 魔力エンジンの出力も安定してる。これなら明日には国境越えも余裕だ」


 ヴォルグは油まみれの手で親指を立てた。 旅は順調だ。順調すぎて怖いくらいだが、まあ、このメンバーなら魔物が出ても瞬殺だろう。


       ◇


 やがて、辺りに食欲をそそる香りが漂い始めた。 焚き火の上に吊るされた大鍋の中で、肉と野菜がグツグツと煮込まれている。


「ジン様、皆様、ご飯ができましたよ」


 リリの声に、全員が焚き火を囲んで座る。 彼女はまず最初に俺へ、それから他の面々へと、具だくさんのクリームシチューと軽く炙ったパンを手渡していった。


「っしゃあ! 食うぞ!」


 全員に行き渡るや否や、待ちきれないといった様子のグレンが豪快に匙を突っ込み、一口食べる。


「……ッ! うめぇ!」


 グレンが目を丸くした。 ヴォルグも一口食べて、「ほう、こりゃ店が出せるレベルだな」と感心している。


「ジン様、はい、あーん」


「……みんな見てるぞ」


「減るもんじゃありません。ほら、あーん」


 リリは周囲の目など意に介さず、俺にスプーンを突き出してくる。 俺は諦めて口を開けた。 濃厚なミルクの風味と、柔らかく煮込まれた肉の旨味が広がる。


「……美味い」


「えへへ、良かったです!」


 リリが嬉しそうに笑う。 平和だ。 王都での殺伐とした日々が嘘のような、穏やかな時間。


 食後。 満腹になった俺たちは、焚き火を囲んで暖を取っていた。 パチパチと薪が爆ぜる音だけが響く。


「みゅ〜」


 ラクがリリの膝の上で、幸せそうに丸まっている。 焚き火の明かりに照らされたその姿は、白くてフワフワで、実に……美味しそうだ。


「なぁ、ラクよぉ」


 グレンがニヤニヤしながら、木の枝の先に何かを刺した。 それは、食後のデザート用に用意していたマシュマロだ。


「お前、遠目に見るとマシュマロにそっくりだな」


「みゅ?(失礼な)」


「間違って食べちまいそうだ。ほら、こうやって炙ったら、もっと美味そうになるんじゃねえか?」


 グレンは冗談で、マシュマロを刺した枝をラクの方へ向け、さらにラクを掴んで焚き火に近づける真似をした。


「ほーら、こんがり焼いてやるぞ〜」


 小学生レベルの悪戯。 だが、ラクにとっては笑い事ではなかったらしい。


 ピキッ。


 ラクの額(?)に青筋が浮かんだ気がした。 次の瞬間。


「みゅぎゃああああッ!!(許さん!!)」


 ラクがロケットのように跳躍した。 狙うはグレンの顔面。


「うおっ!?」


 ペタンッ!!


 ラクがグレンの顔に張り付いた。 白い毛玉が顔面を完全に覆い尽くす。


「むぐっ、ぐえっ!? く、苦し……! 離れろこの毛玉!」


 グレンがもがくが、ラクは離れない。 それどころか、不運エネルギーを放出したのか、グレンが座っていた丸太が「バキッ」と唐突に折れた。


「ぶべっ!」


 グレンはバランスを崩し、背中からひっくり返った。 さらに運の悪いことに、彼が持っていたマシュマロの枝が宙を舞い、落下して――


 ジュッ。


「うおっ、熱っ!? ……チッ、なんだこれ、ベタベタしやがって!」


 溶けたマシュマロが首元に落ちたが、グレンは鬱陶しそうに手で拭っただけだった。 普通の人間なら大火傷だが、こいつの皮膚は鋼鉄並みだ。熱さよりもベタつく不快感の方がダメージが大きいらしい。


 ラクはその隙に顔から離れ、リリの元へ逃げ帰った。


「みゅヘン!(自業自得だ!)」


「あはは、ラクちゃんを怒らせちゃダメですよ、グレンさん」


 リリが笑いながらラクを撫でる。 ヴォルグは腹を抱えて笑い、俺も呆れつつ苦笑した。


「……賑やかなこった」


 これからの旅も、退屈することはなさそうだ。 俺は焚き火に薪をくべながら、夜空を見上げた。 明日は国境を越える。 その先には、まだ見ぬ大地と、新たなトラブルが待っているはずだ。


最後までお読みいただきありがとうございます!


ラクを怒らせてはいけません。

あのかわいい見た目で、中身は「国を滅ぼすレベルの不運の塊」ですからね。

グレンだからマシュマロで済みましたが、普通なら隕石が落ちてくるところです。


さて、次回はいよいよ国境越え。

これにて「王都編(第1章)」が完結となります。


次回の更新をお楽しみに!

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