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第48話:馬車の旅・出発

 出発の朝。 俺たちは王都の城門前に集合していた。 天気は快晴。絶好の旅日和だ。 だが、そこに鎮座している「乗り物」のせいで、周囲の空気は異様なものになっていた。


「……おい、ヴォルグ」


 俺は目の前の鉄塊を見上げて言った。


「これはなんだ?」


「なんだって、見りゃわかるだろ。最高傑作『自走式・多目的・殲滅馬車』マークⅡだ!」


 ヴォルグがドヤ顔でバシバシと装甲を叩く。 それは、馬車と呼ぶにはあまりにも凶悪すぎた。 全体が黒光りする装甲板で覆われ、車輪は巨大な鉄の履帯のような形状をしている。屋根には回転式の砲塔(何が出るかは聞きたくない)が設置され、前面には魔物の突進を受け止めるための衝角ラムが突き出している。 馬車というより、移動要塞だ。


「馬はどこにつなぐんだ?」


「馬ァ? そんな貧弱な生き物が必要かよ。こいつの動力は魔力エンジンだ! 俺が徹夜で調整した最高出力の炉心を積んでるからな、ドラゴンと競争しても勝てるぜ!」


 ヴォルグが高笑いする。 まあ、速くて頑丈なら文句はない。目立ちすぎるのが難点だが、今更だろう。


「すげぇな! これならドラゴンに踏まれても潰れねえぞ!」


 グレンが目を輝かせて装甲を撫で回している。脳筋には好評らしい。


「ジン様、中は凄く広くて綺麗ですよ!」


 先に中を確認していたリリが、窓から顔を出して手を振った。 俺たちは苦笑しながら、その鋼鉄の要塞へと乗り込んだ。


       ◇


 外見の凶悪さとは裏腹に、車内は驚くほど快適だった。 ヴォルグの空間拡張技術が使われているらしく、中は高級宿のスイートルーム並みに広い。 ふかふかのソファが対面で配置され、中央には固定されたテーブルがある。奥には簡易キッチンや寝台まで完備されていた。 さらに、衝撃吸収ショック・アブソーバーの術式が完璧に機能しており、走り出しても揺れをほとんど感じない。


「へへっ、どうだ。俺様の技術力にひれ伏しな!」


 ヴォルグが運転席(という名のコクピット)でレバーを握りながら叫ぶ。 馬車は音もなく加速し、あっという間に王都の城壁を背後に置き去りにした。


「快適だな。これなら長旅も苦にならない」


 俺はソファに深く腰掛け、窓の外を流れる景色を眺めた。 街道を行く他の馬車が、ギョッとして道を譲っていく。無理もない。後ろから黒い鉄塊が爆走してきたら、誰だって逃げる。


「ジン様、お茶が入りましたよ」


 リリがキッチンから戻ってきた。 手にはヴォルグ製の『衝撃吸収古竜牙製ティーカップ』と、焼き菓子が乗った皿がある。揺れない車内のおかげで、優雅なティータイムも可能だ。


「ありがとう」


 俺がお茶を受け取ると、リリは当然のように俺の隣に座った。 向かいの席にはグレンが座り、干し肉を齧りながらつまらなそうな顔をしている。


「……なぁ、旦那」


「なんだ」


「席、広くね? なんでそんなにくっついて座ってんだよ」


 グレンの指摘はもっともだ。 ソファは大人三人が余裕で座れる広さがある。だが、リリは俺の腕に密着するほどの距離(ゼロ距離)に陣取っていた。


「寒いからです」


 リリが即答する。 外は春の陽気だ。車内も空調魔法で適温に保たれている。


「嘘つけ! ここだけ春通り越して熱帯雨林みたいになってんぞ!」


「あら、グレンさんには暑いですか? なら窓を開けて頭を冷やしてはいかがでしょう」


 リリは涼しい顔で言い返し、バスケットからクッキーを取り出した。


「ジン様、あーんしてください」


「……自分で食える」


「手が汚れますから。はい、あーん」


 リリがクッキーを俺の口元に突き出す。 その瞳は「食べるまで引き下がりません」という鋼の意志で輝いている。 俺はため息をつき、観念して口を開けた。


 サクッ。


「……美味いな」


「えへへ、今朝焼いてきたんです!」


 リリが花が咲いたように笑う。 その笑顔を見て、俺も自然と口元が緩むのを止められなかった。


「やってらんねぇよ……」


 グレンが天を仰ぎ、ヴォルグが運転席から「爆発しろ」と毒づく声が聞こえる。 足元では、ラクがこぼれたクッキーの欠片を嬉しそうに追いかけていた。


 騒がしくて、少し暑苦しい。 だが、悪くない旅の始まりだ。 俺たちの乗った要塞馬車は、土煙を上げて東へと続く街道をひた走る。 目指すは、未知なる国、ヤマト。


お読みいただきありがとうございます。

馬車(移動要塞)の旅が始まりました。


揺れない、広い、快適。

これなら長旅も安心……と言いたいところですが、乗っている面々が濃すぎます。

リリの「ゼロ距離」は、移動中も標準仕様のようです。


次回は野営回。

リリの手料理と、ラクvsグレンの仁義なき戦い(?)をお届けします。

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