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第29話:脳筋傭兵グレン

 ヴォルグへの発注を終え、俺たちが屋敷に戻ったのは昼過ぎだった。


 最強の家事道具(凶器)が完成するのは数日後だ。それまではリリの家事は「見学」に留めておくしかない。


「……それにしても、広いな」


 改めて、我が家の広さを実感する。広大な庭。高い塀。そして森に囲まれた立地。  静かで良い環境だが、防衛の観点から言えば死角が多すぎる。リリの感知能力はずば抜けているが、彼女には俺の護衛という最優先任務がある。屋敷の外周警備まで手が回らないのが現状だ。


「番犬が必要ですね」


 リリも同じことを考えていたらしい。


「ラクちゃんに巡回させますか? 不運を撒き散らせば、侵入者は勝手に転んでくれると思いますけど」


「みゅ〜(やだ)」


 ラクがリリの頭の上で、フルフルと毛玉を振った。どうやら労働拒否らしい。


 その時だった。裏庭の方から、何やら騒がしい声と、鈍い衝撃音が聞こえてきた。


「……誰かいます」


 リリの目が瞬時に鋭くなる。


「侵入者です。数は……三人。いえ、四人?」


「行ってみるか」


 俺たちは足音を殺し、裏庭へと回った。そこには、予想外の光景が広がっていた。


「あ、兄貴ぃ! なんだこいつ、剣が通らねぇぞ!?」


「魔法だ! 魔法を撃ち込め!」


 黒装束に身を包んだコソ泥三人組が、一人の男を取り囲んで必死に攻撃を仕掛けていた。この屋敷が「呪われた空き家」だと思って盗みに入ったのだろうが、運悪く先客と鉢合わせたらしい。


 その先客――囲まれている男は、とんでもない巨漢だった。身長は二メートルを超えているだろう。丸太のような腕、岩盤のような胸板。着ているシャツは筋肉に張り裂けそうで、背中には巨大な大剣を背負っている。


「うおおお! 死ねぇぇ!」


 コソ泥の一人が、男の背後からショートソードを突き立てた。


 ガキンッ!!


 硬質な音が響く。剣が折れた。鎧を着ているわけでもない、ただの筋肉に弾かれたのだ。


「あ?」


 巨漢がのそりと振り返った。


 眠たげな目。ボサボサの赤髪。彼は自分の背中に突き立てられた折れた剣を見て、首を傾げた。


「なんだ、蚊か?」


 男は鬱陶しそうに腕を振るった。


 ブンッ。


 ただの裏拳。だが、その風圧は暴風だった。


「ぶべらっ!?」


 直撃を受けたコソ泥が、枯れ葉のように吹き飛び、庭の木に激突して気絶した。


「ヒィッ!? か、火炎弾ファイアボール!」


 もう一人が魔法を放つ。


 ドォン!


 男の胸板で爆発が起きる。煙が晴れると――そこには、すすけて少し黒くなっただけの男が、欠伸をしながら立っていた。


「あったけぇな。……おい、昼寝の邪魔だ」


 男は面倒くさそうに、魔法使いの額にデコピンをした。


 パチィンッ!!


 銃声のような音が鳴り、魔法使いが白目を剥いてその場に崩れ落ちる。


「ば、化け物……!」


 最後の一人が逃げ出そうと背を向けた瞬間、男は足元に落ちていた手頃な石ころを拾い、軽く放り投げた。


 ドスッ。


 石は正確に逃げる泥棒の後頭部を打ち抜き、彼はカエルが潰れたような声を出して倒れた。


 全滅。所要時間、わずか三十秒。男は「ふぁ〜あ」と大あくびをすると、再び芝生の上にゴロリと横になろうとした。


「……おい」


 俺は茂みから出て、男に声をかけた。男は片目だけを開け、俺を見る。


「あ? なんだ、まだいたのか。俺は今、腹が減ってて機嫌が悪いんだ。昼寝させろ」


「ここ、俺の家なんだが」


「……あ?」


 男が体を起こし、きょとんとした顔をした。


「ここ、空き家じゃねえのか? 呪われてて誰も寄り付かねえって聞いたから、絶好の昼寝スポットだと思ったんだが」


「昨日買った。不法侵入だぞ」


 俺が言うと、男はバツが悪そうに頭をかいた。


「そりゃ悪かったな。……まあ、あいつら追い払ったし、チャラにしてくれよ」  


 男は気絶した泥棒たちを親指で指し、腹をグゥ〜と鳴らした。


 俺は素早く【解析のモノクル】で男のステータスを覗いた。


【名前】グレン 【職業】傭兵 【HP】9800/9800 【STR(筋力)】A+ 【VIT(耐久)】S 【AGI(敏捷)】D 【スキル】金剛皮、痛覚鈍麻、怪力乱神、直感(野生)


 HP9800。VIT:S。リリとは真逆の、耐久特化の化け物だ。物理魔法問わず、大抵の攻撃は素通りするだろう。


 それに、「直感(野生)」持ちか。コソ泥の気配に気づいたのもそれだろう。


 ……欲しいな。


 リリが最強の「矛」なら、こいつは最強の「盾」になり得る。


 それに、こいつの性格。細かいことを気にしない大雑把さは、リリの「不運」に巻き込まれても「なんか石が降ってきたな」程度で済ませてくれそうだ。


「なぁ、あんた」


 俺はニヤリと笑い、男――グレンに提案した。


「腹、減ってるんだろ? 飯を食わせてやる」


「マジか!?」


 グレンが食いついた。単純な奴だ。


「その代わり、働いてもらうぞ。仕事は簡単だ。この屋敷の『番犬』だ」


「番犬? ……まあ、飯が食えて寝床があるなら、なんでもいいぜ」


 グレンは立ち上がり、俺に巨大な手を差し出した。


「俺はグレン。しがない傭兵だ。よろしく頼むぜ、旦那」


「ジンだ。こっちはリリ。……リリ、挨拶を」


 俺が促すと、リリはジトッとした目でグレンを見上げ、冷たく言い放った。


「……ジン様の敵になったら、その筋肉ごと切り刻みますから」


「おっかねぇ嬢ちゃんだな。まあ、よろしくな」


 グレンは豪快に笑った。こうして、我が家の防衛戦力に、頼もしすぎる(そして燃費の悪そうな)「肉の壁」が加わったのだった。


ご覧いただきありがとうございます。

頼もしい(燃費の悪そうな)番犬、グレンが加入しました。


これでパーティは、

・確率操作の軍師

・最強の暗殺者

・不運を食べる毛玉

・物理無効の傭兵

と、盤石の布陣になりました。


次回は、久々のギルドへ。

ラクが大活躍(物理)します。

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