表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/108

第20話:幸運と不運の等価交換

『グオオオオオオオオオオッ!!!』


 滅びの古竜が咆哮する。片翼を折られ、両足を岩盤に封じられた最強の怪物は、もはや理性なき破壊の権化と化していた。これ以上の小細工は通用しない。奴は自身の命を削ってでも、この空間にいる全ての生命を消し去るつもりだ。


 ズズズ……ッ。


 空間が歪むほどの魔力が、ドラゴンの喉元に収束していく。先ほどのブレスとは桁が違う。全方位、回避不能の広域殲滅ブレス。 このドーム状の空間ごと、俺たちを蒸発させる気だ。


「ジン様! 下がってください!」


 リリが血相を変えて俺の前に立つ。彼女の『危機察知』が、生存確率ゼロを告げているのだ。いかにAGIが規格外でも、空間そのものを焼かれては逃げ場がない。


「……リリ、お前なら一人で逃げ切れるか?」


「嫌です! ジン様を置いていくくらいなら、一緒に死にます!」


 即答だった。健気なことだ。だが、俺は死ぬつもりもなければ、彼女を死なせるつもりもない。


「安心しろ。誰も死なないさ」


 俺はニヤリと笑い、視線を横に向けた。そこには、腰を抜かして震えている勇者アルスの姿があった。


「――俺たち(・・・)はな」


 俺はアルスに歩み寄る。アルスは縋るような目で俺を見上げた。


「じ、ジン……助けてくれ……! 金だろ? 払う! 国に帰ればいくらでも……!」


「ああ、助けてやるよ。その代わり、少し『荷物』を持ってくれ」


 俺はアルスの肩に手を置いた。


「に、荷物……?」


「取引だ。お前が生まれつき持っている『天性の強運』。それを俺に寄越せ」


 俺は耳元で囁く。


「代わりに、俺が溜め込んできた『リリの不運』を全部お前にやる」


「は……?」


 アルスが理解するより早く、俺はスキルを発動した。


【確率操作】――対象指定:アルス・グレイラット & リリ(ジン経由)。 術式:運命の器の『強制交換スワップ』。


 ドクンッ!!


 世界の色が反転するような感覚。俺の掌を通して、ドス黒い濁流がアルスの体へと流れ込んでいく。それは、リリが生まれ持ち、俺が肩代わりしてタンクに溜め込んでいた「マイナス999万」の呪いだ。国を滅ぼすほどの災厄の種が、一気にアルスという器へ注ぎ込まれる。


 逆に、アルスからは黄金色の光が吸い出されていく。彼が勇者として無自覚に享受してきた、世界からの愛。理不尽なまでの幸運。


「が、あ……!? な、なんだこれ……重い、暗い……!?」


 アルスが胸を掻きむしって苦しみ出す。彼の視界に見える世界が変貌していく。天井の岩が今にも落ちてきそうに見える。空気中の塵が毒に見える。世界の全てが、明確な殺意を持って自分に向けられているという、原初的な恐怖。


 これが、リリが毎日感じてきた世界だ。


「な、なにをした……! 体が、鉛みたいに……!」


「等価交換だよ。お前は今、世界で一番『運が悪い男』になった」


 俺は手を離し、一歩下がった。これで俺の中の不運ストックは空になった。だが、心配はいらない。リリという少女は、歩く災厄の特異点だ。放っておけば、またすぐにその小さな体に世界中の不運が溜まっていく。俺の「燃料」が尽きることはない。 だからこれは、ただの「廃棄物処理」だ。


「運というのは、水のようなものだ。高いところから低いところへ流れる」


 俺は解説してやる。これから起きる現象を、彼によく理解させるために。


「今、この空間には『致死性の攻撃ブレス』という大量の水が溢れようとしている。さて、その水はどこへ流れると思う?」


 俺は指を鳴らした。


「答えは簡単。一番『低い場所(運が悪い奴)』に集まるんだよ」


『ゴアアアアアアアアアアッ!!!』


 ドラゴンのブレスが放たれた。太陽の表面温度にも匹敵する、極大の熱線。それは本来、扇状に広がってこの場を焼き尽くすはずだった。


 だが――物理法則が歪んだ。


 熱線は空中で不自然にねじれ、まるで磁石に吸い寄せられる砂鉄のように、一点へと収束し始めたのだ。その先にあるのは、ただ一人。


「あ……あぁ……?」


 アルスは見た。自分の周囲の空間だけが、まるでブラックホールのようにブレスを引き寄せているのを。逃げようとしても、足元の瓦礫が崩れて動けない。転ぼうとしても、マントが岩に引っかかって倒れられない。「絶対に攻撃が当たる位置」に、運命が彼を固定していた。


「ひ、嫌だ……こっちに来るな……!」


「光栄に思え、アルス。お前は今、最高の『避雷針』だ」


 俺はリリを抱き寄せ、安全圏へと下がる。リリの体からは、今まで彼女を縛り付けていた重苦しい気配が消え失せていた。代わりに、アルスの体からは、視認できるほどの黒いもやが立ち上っている。


 全ての不運は、彼に集約された。ドラゴンのブレスも、崩落する天井も、何もかもが、彼を殺すために殺到する。


「ジンンンンンンンンッ!!!」


 勇者の絶叫が、紅蓮の光に飲み込まれる直前。俺は冷酷に告げた。


「さあ、見せてみろ英雄。その身一つで、世界の悪意をどこまで耐えられるか、をな」


本日の更新はここまでです!

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。


勇者の必殺技が暴発し、自分たちを焼く。

そしてドラゴンのブレスが直撃する。

……壮絶な自滅ざまぁでした。


一方で、リリの鮮やかな一撃。

ドラゴンが「足元の瓦礫で滑って転倒」するという、ピタゴラ的な勝利も決まりましたね。


これで勇者パーティは再起不能。

次回からは、英雄となったジンたちの「凱旋」と、新たな生活(豪邸購入!)が始まります。


もし「スカッとした!」「ざまぁ最高!」と思っていただけましたら、

【ブックマーク】や、ページ下の【★★★★★】評価で応援していただけると、執筆速度がさらに加速します!

(★をいただけると、リリが喜びの舞を踊ります!)


明日も更新しますので、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ