表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

100/115

第100話:天空へ

 黄金の飛行戦艦『クイーン・リエル号』の甲板に降り立った時、俺は足元の感触に違和感を覚えた。 揺れている。それも、船の揺れではない。 船体そのものが悲鳴を上げている振動だ。


「……酷い有様だな」


 周囲を見渡せば、豪華絢爛だった装飾は剥がれ落ち、甲板は穴だらけで、至る所から煙が上がっている。 物理的には墜落していないのが不思議なレベルだ。


「失礼ね! 私の船はまだピンピンしてるわよ!」


 艦橋からリエルが駆け寄ってくる。 ドレスは煤け、自慢の縦ロールも解けてボサボサだ。だが、その瞳の輝きだけは、宝石よりも強く煌めいていた。


「よく無事で……とは言えない状況みたいね」


 リエルの視線が、俺の腕の中――黒い毛玉の繭に向けられる。 ラクが必死に維持している結界の中で、リリの命が明滅している。


「……ああ。時間がない。急いでくれ」 「わかってるわよ。……総員、配置につきなさい! これより本艦は、あのふざけた『空の城』へ殴り込みをかけるわ!」


 リエルの号令一下、生き残っていた船員たちが動き出す。 俺たちは艦橋ブリッジへと通された。


       ◇


 艦橋の窓から見える景色は、絶望的だった。 頭上に浮かぶ白亜の『天空城』。 そこから、無数の天使がイナゴの大群のように降下してきている。


「ヒャハハ! こりゃあ歓迎されてるなァ!」


 ヴォルグが操舵輪の横で計器を睨む。


「おい女王様! エンジンがイカレてるぞ! これじゃあ高度が上がらねえ!」


「うるさいわね! 気合で回しなさいよ! ……いいえ、私の『運』で回すわ!」


 リエルが操舵輪を握りしめる。 彼女の【絶対強運】が発動する。 焼き切れかけていた魔力回路が「偶然」繋がり、パージ寸前だった推進器が「奇跡的」に再点火する。


「上昇開始! 振り落とされないようにね!」


 ズズズズズ……ドォォォンッ!!


 満身創痍の黄金船が、物理法則を無視して急上昇を始めた。 迫りくる天使の群れ。 光の槍が雨のように降り注ぐ。


「迎撃する!」


 カエデとグレンが甲板へ飛び出し、襲いかかる天使を撃ち落とす。 ティアも艦橋の中で杖を掲げた。


「わ、私も! 『ホーリー・バリア』!」


 相変わらずの確率バグにより、バリアは「鏡のように光を反射する壁」となって展開された。天使の放った光弾が跳ね返り、同士討ちを誘発する。


「道が開いたわ! 全速前進ッ!」


 リエル号が光の弾幕を突破する。 目指すは天空の頂。 雲を突き抜け、蒼穹の彼方へ。


       ◇


 高度が上がるにつれ、空の色が濃くなっていく。 眼下には、小さくなった王都と、荒廃した大地が広がっていた。


 俺は繭を抱いたまま、窓の外の天空城を見据えた。 あそこには、この世界の全てを書き記した『天理』の中枢がある。 リリを道具として生み出し、使い潰そうとした元凶。


「ジン様……」


 繭の中から、微かな思念が伝わってくる。 リリの声だ。


『……引き返してください。このままでは、皆さんが……』


 まだ、そんなことを言っているのか。 俺は繭を強く抱きしめた。


「断る。ここまで来て手ぶらで帰れるか」


 俺は軍師だ。 かけたコストに見合う成果リターンがなければ動かない。 今回、俺が支払ったコストは莫大だ。 平穏な日常。積み上げた資産。そして何より、お前が傷つき、泣いた時間。


「高くつくぞ、天理かみさま


 俺は呟いた。 怒りではない。もっと冷たく、鋭い感情。


「お前は、俺の所有物に手を出した。俺のシナリオを勝手に書き換えようとした」


 天空城が近づいてくる。 神々しい白亜の城壁。威圧的な尖塔。 世界を見下ろす玉座。


「リリ。よく見ておけ」


 俺は宣告した。 世界に向けて。天に向けて。


「神だろうが、運命だろうが関係ない。……俺の女を奪おうとしたことを、魂の髄まで後悔させてやる」


 ドォォォォォォォンッ!!!!!


 リエル号が、天空城の城門に特攻を仕掛けた。 轟音と共に、神の居城が揺らぐ。 黄金の船首が城壁を粉砕し、内部へとねじ込まれていく。


「着いたぜ、大将!」


「乗り込むぞオラァッ!」


 ハッチが開く。 俺はラクの繭を抱え、粉塵の舞う天空城へと第一歩を踏み出した。


 ここが終着点。 確率の向こう側にある未来を掴み取るための、最後の戦場だ。


お読みいただきありがとうございます。


「俺の女を奪おうとしたことを後悔させてやる」

ジンが完全にブチ切れました。

こうなった軍師は誰にも止められません。


城壁を物理(船)で粉砕し、ついに敵の本丸へ侵入成功。

ここからはノンストップの総力戦です。


次回、城内での迎撃戦。

再びラクが漢(オス?)を見せます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ