(終篇)未明の街路
早朝四時の大通りには暗夜の名残りがまだぐずつきまどろんでいた。横長の巻き紙に太い墨筆で速写されていくように、濃く薄く人や物のカタマリが、コルカタ空港に向かうタクシーの車窓に映じてはまた流れて行った。通りに丈高く枝葉を張り伸ばす街路樹の下や、雨や埃に燻んだ色を滲ませた漆喰の塗り壁ような塀にそって一群れ、また一群れと人々が横たわっていた。シートにくるまる子供らしきもいれば、地べたに寝っ転がるだけの大人もいた。まだ日の光は眠っており、色は目覚めていなかった。街路のあまたの色は未明の墨色の闇に均一に紛れて沈んでいた。
そんな単一なモノクロームの景色の中にも、目覚めをうながすかのような小さな焚火やこんろの朱の色が、側道の所々にあった。その火はまずもって炊事のための火であろうし、意外に寒い熱帯インドの乾季の夜中、彼らの身にどれほどかの温みを与えるものでもあるはず。サリーの片端を頭にまとう老婆とおぼしきが、道路端のこんろ火のそばにしゃがんでいるのが車窓をよぎって行った。彼女のうつむく顔と、火にかざす両の手元の辺りが、炭火らしきあわい炎の灯りの中に、つかの間ボーッと円く浮いて見えた。




