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悪役令嬢は真実の愛を見つけたようです  作者: ひよっと丸


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第7話 誰が為の慰謝料なのか

 乙女ゲームにおいて、ミランダの両親は心身ともに傷物になったミランダを辺境の地に隠した。けれどそれは、わかりやすい追放だった。理由はどうあれ、王太子に疎まれたのだ。未来の国王である。貴族であれば基本絶対服従であり忠誠を誓う相手である。いつの時代にも国王派と反国王派はいるもので、アレクセリア公爵家は最も王族に近い貴族であったから、国王派筆頭でもあった。だからこその王太子ジョゼジルとミランダの婚約だったのだ。それが王太子ジョゼジルの浮気という形で破棄され、娘は片腕切り落とされた。はらわたの煮えくり返る思いに蓋をして、ミランダを辺境の地に送り、密かに辺境伯と結託させた。

 アレクセリア公爵家としては何もせず、ただミランダが復讐心から辺境伯の力を借りて謀反を起こしたことにすればいい。そのような打算もあったのだろう。宗教裁判において、アレクセリア公爵家はミランダを擁護しなかったのだ。最終的に宗教裁判の法廷において、聖女の力に目覚めたセシリアによりミランダの心が浄化され、ミランダは隻腕の修道女となった。辺境伯は世代交代と言う事で始末をつけられ、アレクセリア公爵家は何のお咎めを受けることもなかった。聖女に覚醒したとは言え、婚約者のいる男に寄り添ったのはセシリアだからだ。裏でどれ程の取引がおこなわれたのかミランダは知らない。ただ表舞台から永遠に退かされただけである。


「神よ。ありがとうございます」


 国教会のシンボルマークを握りしめ、ミランダは神の像の足元で感謝の意を示した。すなわち己の額を神の像の足に擦り付けた。


「良き隣人であるあなたを神は見放したりしないのですよ」


 そんなミランダの背後に教皇ヴィクトル1世がやってきた。宗教裁判の法廷で誰よりも高い位置に座していた時とは違い簡素な服装をしている。安息の時間であっても、教皇は法衣を脱ぐことは許されないらしい。白い法衣に金糸で施された刺繍があまりにも見事で、ミランダは重たそう。と言う感想が頭に浮かんだ。


「教皇様」

「二人きりの時はヴィクトルと呼んでくださってもよろしいのですよ?」


 唐突にそんなことを言われ、ミランダは驚きすぎてヴィクトル1世を凝視してしまった。果たして乙女ゲームにおいて教皇ヴィクトル1世はこんなキャラだっただろうか?


「おや、まだ私はあなたと良き隣人にはなれていないようですね」


 いやいや、良き隣人となるべきは神である。確かに教皇は神の代理人ではあるけれど、昼間の緊張感から開放されたと言っても、国教会の中でそこまで砕けた態度が取れるほどミランダは強心臓の持ち主ではない。


「あ、の……本日はほんとうにありがとうございました。おかげで、私……」


 ミランダが頭を下げて礼を言えば、ヴィクトル1世は穏やかな微笑みを返してきた。


「まだ終わってはいないのですよ。ミランダ」


 そう、はっきりと告げられて、ミランダは顔を上げた。

 なぜ?と言う気持ちが瞳に宿る。


「お分かりでしょう?今日の裁判ではあなたの婚約が破棄されただけなのです。あなたを不幸に貶めようとした悪女の件はまだ裁かれてはいないのですよ」

「教皇様」


 その事実を知って、ミランダの心臓はまたもや早鐘を打ち始めた。そうだ、まだ現れてはいない悪役令嬢ミランダと結託をした辺境伯が。だが、ミランダは辺境の地に赴いてはいないから、辺境伯と面識はない。王太子ジョゼジルを擁護ではなく糾弾したのは仕える侍女だった。婚約者ミランダではない女性に送るドレスの請求書を証拠にして。

 では、乙女ゲームのヒロインであるセシリアを擁護するのは誰だろうか?糾弾するのは誰だろう?


(可能性、と言うよりは確実にジョゼジルの取り巻きたちが擁護に出てくるわよ。だってあの時擁護について口にしていたもの)


 婚約は無事に破棄されたものの、セシリアの宗教裁判が控えていることから、ミランダは国教会内に留まることとなった。それに、いくらミランダの両親が国王派筆頭の公爵家だとしても、王太子との婚約を破棄したのだ。どんなに王太子ジョゼジルに責があったとしても、過激派には関係の無いことなのだ。ミランダの身の安全が確保されるまで、つまり真の悪女セシリアが表舞台に出てきて裁きを受けるまで、ミランダは国教会の中で修道女に近い生活を送ることになる。


「身の回りの世話はしてもらえるから特に不便はないのよね」


 前世の記憶が蘇ってからまだ3年程度しか経っていないから、身の回りのアレコレを一人でするなんて無理である。それに、入学までのミランダは完全なるお嬢様、貴族の中でも最高位の公爵令嬢である。かしずかれて当たり前の生活を送ってはいたものの、だからといってわがまま放題に育てられた訳ではない。乳母や家庭教師からきちんとした淑女教育を受け、礼儀正しく規律に厳しい恋に恋する乙女として仕上がっているのだ。だからこそ、乙女ゲームにおいて自分の婚約者に馴れ馴れしくするヒロインが許せなかったし、貴族としての礼儀作法ができていないヒロインに厳しく当たったのだ。ミランダは心までもが悪役令嬢なのではない。要は生活指導の先生のようにヒロインに厳しく当たっていただけなのである。


(どう考えたってヒロインの言動は貴族じゃないし、婚約者のいる男に手を出す辺りサークルクラッシャーよね)


 ここに来てようやくヒロインについて考える時間が取れたミランダは、今更ながらにその言動のおかしさに頭を抱えた。


(少なくとも、ヒロインセシリアは私と同じ転生者よね。だって自分のことをヒロインって言っていたもの)


 学園の中で、セシリアのおかしな言動を見つけては厳しく注意していたミランダではあるが、それは前世の記憶を取り戻す以前のミランダの持つ貴族令嬢としてこうあるべき。と言う規律に相反する事をセシリアがしていたからだ。ミランダが乙女ゲームの悪役令嬢らしく振舞っていたわけでは決してないのである。ミランダが前世の記憶を甦らせているうちに、骨髄反射でミランダが動いてしまうのだ。結果、ミランダは乙女ゲームの悪役令嬢らしくヒロインセシリアに意地の悪いことを言ってしまっていたのだが、決して意地悪なんてしてはいない。


「だから教皇様が私の話を聞いてくださったのよね。だって、私は何も悪くないもの」


 学園での3年間を振り返り、決していじめっ子のようなことをセシリアにしてなどいなかった。そう胸を張って言える自信がミランダにはある。


「ミランダ様、ご報告があります」


 衝立の向こうからアリシアの声がした。もしかすると今の独り言が聞かれていたのかもしれない。


「何かしら?」


 できるだけ声のトーンを落とし、ミランダは神妙な面持ちでアリシアに尋ねた。いつもなら、声をかけた後に衝立から顔を出すはずのアリシアが、今日は衝立からこちらにやっては来ない。


「ミランダ様に面会を希望する方がいらっしゃっています」

「私に、面会?」

「はい」

「どなたかしら?」


 嫌な予感しかしない。


「オフマルト夫人と名乗っております」


 その名前を聞いた途端、ミランダの心臓が跳ね上がった。オフマルトとは国王の姓である。その名前の夫人と名乗る人物は一人しかいない。


「こちら、で?」


 自分の声がちゃんと出ているのか不安になりながら、ミランダは答えた。


「ご無理でしたらお断りすることもできます。約束のない面会ですから」


 アリシアはあくまでも決定権はミランダにあるのだと言ってきた。国教会においては、王妃でさえ特別な存在ではないということなのだ。


「いえ、大丈夫です。お会いします。ただ、この部屋では……」


 一応、今はミランダの私室として使わせてもらっている。それに、この部屋にはカーテンがないから、外から丸見えである。


「面会は別の部屋になります。当然ですが、聖騎士が一名立ち会います」


 それならば安心だと、ミランダは承諾をしてアリシアに案内されるままに面会室へと向かった。今更ながら、国教会の内部は広い。聖堂もあれば宗教裁判をする法廷もある。聖騎士や神官たちが暮らす部屋もある。そして、ミランダのように救いを求める者を匿う部屋も。


「こちらです」


 アリシアが軽いノックををすると、中から返事があった。扉を開けて来たのはアリシアと同じ女性の聖騎士だった。部屋の中には一対のテーブルと椅子があった。そして、その椅子に座っているのはオフマルト夫人と名乗った王妃である。


「お時間をいただきありがたくぞんじます」


 ミランダを見るなりオフマルト夫人が頭を下げた。あんまりなことにミランダは動揺してしまったが、すぐに淑女の礼をとった。


「こちらこそ、わざわざお時間を頂き至極光栄にございます」


 黒いワンピースにしか見えないドレス姿で、ミランダはオフマルト夫人と対面した。


「ごめんなさいね。私がきちんと精査をしていなかったばっかりに、あなたの教育係がおかしな人選になってしまっていたことに気が付かなかったの」


 唐突に謝られて、ミランダは困惑した。


「宰相閣下の奥方だから安心だと思っていたの。まさか裏で手を回していたなんて思わなかったのよ。今回、国教会からの通報を受けなければ、とんでもない事になっていたわ。私はむしろあなたに感謝しています」


 なんの事だか分からなくて、頭がはてなマークでいっぱいになったミランダであったが、じっくりと説明を聞くと、どうやら宰相夫人とミジェット商会が結託をしてかなりの金額を着服していたのだという。本来ミランダの王太子妃教育にかけるべきお金を横流ししていたのだそうだ。本日、ジョゼジル付きの侍女が出てきた請求書もかなり水増しされていたのだそうだ。請求書先はミジェット商会となっていたらしい。つまり、ジョゼジルとその取り巻きのたちの悪知恵と欲に目が眩んだ大人が結託していたということらしい。


「このことは裁判で争い、しっかりと返金させます。そして、回収出来たお金は全てあなたにお渡しします」

「何故ですか?」


 ミランダは慌ててしまった。だってあの領収書の金額はどう考えてもおかしすぎる。


「水増しされていたのです。それに、本来はあなたのために使われる予算でした。それを全くあなたのために使わず、横流しされていたのです。気が付かなかった私の落ち度です」


 どうやら婚約破棄よりも、オフマルト夫人こと王妃はこちらの方がダメージが大きいらしい。


「とにかく、あなたのために使われるべきであったお金です。できる限り回収しますから、お待ちくださいね。ドルマン男爵家ごときを潰したところで大した金額にはなりませんから」


 最後にサラッと恐ろしいことを口にして、オフマルト夫人は去っていった。残されたミランダは、よく分からないという顔をして、小首を傾げるしかなかった。


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