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悪役令嬢は真実の愛を見つけたようです  作者: ひよっと丸


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12/12

第12話 悪役令嬢は不在です


「男爵が爵位、ロトム・ドルマンにございます」


 突如として裁判官の横に小太りの男性が立った。きっちりとした黒の礼服を身にまとい、右手に教会のシンボルマークを握りしめ、高く掲げている。


「今ここに、不貞を働き神の教えに背いた我が娘、セシリア・ロドリゲスを神の元にお戻し致すことを宣言致します。このような女に育ててしまったのはわたくしの不徳の致すところであることは十分承知しておる次第です。神の良人として、このような不届き者を家族の一員としておくことは許されざる悪くにございます」


 言い切ったドルマン男爵は深々と頭を下げた。もちろん、下げた相手は裁判官のはるか後方、高き場所に座する教皇ヴィクトル一世に対してである。


「まって、どういうことっ」


 父親の発言を聞いて覚醒したのか、セシリアが飛び上がるようにして立ち上がった。が、今度こそ聖騎士は正しい仕事をした。そう、発言権のないセシリアの口に問答無用でマスクを押し付けたのだ。あっという間に口を封じられ、腰紐を握る聖騎士によって定位置に立たされたセシリアは、慌てて辺りを見渡すがもうそこには憎たらしい悪役令嬢であるミランダの姿はなかった。かろうじて視界に入ってきたのは、聖騎士に支えられながら法廷を後にするその後ろ姿だった。


「ヴィルラード辺境伯が息子、ケインにございます」


 続いて名乗りを上げたのは、乙女ゲームの攻略対象者であるケインだった。当然のごとくセシリアはケインのことを凝視した。悪役令嬢であるミランダに殴られ、父親からは勘当を言い渡され、宗教裁判において圧倒的不利な立場に追いやられたセシリアであったが、ここに来て光が見えたのだ。攻略しておいた攻略対象者が現れたのだ。これはもう、セシリアの味方である。父は男爵であるが、ケインは辺境伯子息である。貴族の階級で言えばケインの方が数段上である。期待に満ち溢れた目でセシリアはケインを見た。だが、ケインはまるでセシリアのことを見ようともしない。

 それどころか、とんでもないことを口にしたのだ。


「わたくしは、学園において王太子殿下ジョゼジル様の護衛兼御学友と言う立場にありながら、ジョゼジル様が婚約者であるミランダ・アレクセリア嬢を蔑ろにし、他の女性つまりセシリア・ドルマン男爵令嬢と深い仲になることをお止めすることができませんでした。さらには、わたくし自身もセシリア・ドルマン男爵令嬢と深い仲になってしまったことをここに告白し謝罪致します」


 もちろん法定内にどよめきが起きた。傍聴席に座る神の良人たるご婦人方は驚愕のあまり悲鳴を上げたりする者まで現れた。これが演技かどうかなんて、セシリアには判断がつかなかった。なにしろ信じていた。もとい、攻略したはずの攻略対象者に裏切られてしまったのだから。


「ぐっ、もーー、うぐぅ(なに、どーゆーことよぉ)」


 口にマスクをはめられてしまったから、セシリアの言論の自由は封じられていた。しかしながら、それでもなおかつ叫んだものだがら、マスク越しにくぐもったセシリアのうめき声にも似た声がもれる。それを耳障りだと思いつつも、聖騎士はそれ以上のことがセシリアにできないため、腰紐を引いてセシリアを証人台の定位置にしっかりと立たせることに専念した。


「騎士団長が子息、イザベルド伯爵家が嫡男マーカスにござます」


 一礼をして下がるケインと入れ替わるように姿を現したのは、やはり乙女ゲームの攻略対象者であるマーカスだった。マーカスはいつでもセシリアの為に最前列に立ち、その身を呈してセシリアを守ってくれた頼もしい騎士であった。もちろん、時と場合によっては力を示すときもあり、悪役令嬢ミランダを追い払うなど非常にヒロインセシリアにとって、忠実なる存在であった。だからこそ、セシリアは今度こそ見方が現れたと歓喜した。あの日、聖騎士に連れ去られたあと時も、マーカスはものすごい勢いでミランダに食ってかかっていた。なかなかの怒号が聞こえたものだ。期待に満ち溢れた目でマーカスを見つめるセシリアであったが、すぐさまその瞳から輝きが失われた。


「わたくしは、学園において王太子殿下の護衛と言う役目を頂戴していた身にも関わらず、王太子殿下に婚約者以外の女性を近づけるという失態を犯しました。あまつさえ、その女性と犯してはならない罪まで犯してしまったことをここに告白し、その罪を神の裁きに委ねたい所存にございます」


 恐ろしいことに、攻略済みの攻略対象者が二人もヒロインを裏切った。セシリアを救い出しに駆けつけてくれたと思っていたのに、二人揃ってヒロインセシリアを見捨てたのだ。驚愕に目を見開いて固まるセシリアが大人しくなったので、聖騎士はひとまず安心した。またもや騒ぎ出し暴れるのではないかと危惧していただけに、このセシリアの反応は予想外だったと言ってもいい。まぁ、人というものは、想像を超える事態に陥ると、思考が停止してしまうことはままあることで、この時セシリアも完全に思考が停止していたのだった。


(何が起きているの…………?)


 頭が、真っ白になる。とはよく言ったもので、この時セシリアの頭は確かに真っ白だった。言うなれば、ゼブデータが全て飛んでしまった状態だった。ゲームを起動したら、コンティニューがなく、ニューゲーム状態になっていたのとほぼ同じ状態に陥っていた。

 乙女ゲームの終盤になり、完全攻略、すなわち逆ハーエンドに王手をかけた状態まで進めていたと言うのに、完全にゲームがひっくり返されてしまったのだ。


「ぐぅぅ(そんな)」


 完全に詰んだ。

 乙女ゲームにおいてヒロインは絶対の存在であるはずなのに、ここに来てシナリオがまったく違う展開に進んでいることにセシリアはようやく気がついた。確かに分岐点はいくつもあり、逆ハーエンドを目指すのなら、攻略対象者たちの好感度は誰もを一定の数値で、同じうにあげておかなくてはならなかった。本当に乙女ゲームをプレイしているのなら、画面にその数値が表示されたり、一日の終わりに攻略状況を把握することができただろう。さらには、危険が迫っていれば警告が表示され、悪役令嬢の行動を確認することもできたはずだ。

 だがしかし、ここは乙女ゲームの世界ではない。

 攻略対象者たちの好感度なんて見えないし、警告音もならなければメッセージだって表示されない。前世の記憶を頼りに攻略対象者たちを攻略して言ったけれど、ゲームとは違い攻略対象者を攻略しようとすれば、それはすなわちそれなりのコトを要求されたのだ。もちろん、婚約者のいるジョゼジルがセシリアに手を出したのは重罪ではあるが、誘ったのはセシリアだと言い逃れされればそれまでだし、他の攻略対象者たちは婚約者がいないから、下位貴族の娘であるセシリアから誘われれば、後ろ盾欲しさに親から指示されてのことだろう。と、解釈してありがたく頂戴したまでなのである。つまり、彼らは神の前で罪を告白し自ら裁きを受けに来たのだ。神の良人として正しい行動である。もちろん、宰相の息子アルフォンスと商人の息子ザウルスはそれ以外の罪が問われているため、宗教裁判にて申開きなどできる立場にはなかった。学園長の息子ルキアにおいては、普通に父である学園長から謹慎処分が下され、自宅謹慎中である。

 そんな事情を知る由もないセシリアは、予想外すぎる出来事にただ驚き、対処など出来ずにいた。何しろこんな展開は乙女ゲームにおいてバッドエンドである。もしプレイしていたと言うのなら、エンディングまで見ずにリセットしていたことだろう。そうしてまた、分起点まで戻ってやり直しをするか、最初からやり直しをするかである。


「判決を言い渡す」


 法廷内にカーンカーンと言う木槌の高い音が響き渡った。

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