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#2-A(後) 拉致監禁? もう少しサボらせて欲しいんだけど

「あ、それ、ゴミですかい? 回収しちゃうんで、すぐに渡してもらえますかい?」


 行きたくないなぁ、やだなぁ、なんて思いながらとぼとぼと歩いていると、ゴミ箱の前で大きな袋を持った清掃員のお兄さんが僕に声をかけてくる。


 茶色の前髪は長く、制服のキャップのせいで目が隠れていて、表情はあまりわからない。かなり若そうにも見えるが、僕よりかは年上のようにも見える。よくわからないが、彼は僕にグイグイと迫ってきていた。


「え、いや……。これ、ゴミじゃないんだけど」

「遠慮はいらねぇですよ! ゴミ捨ては全部俺に任せといてくれればいいんでさぁ!」


 言うが早いか、男は僕の手からファイルと名札をひったくり、ごっそりとまとめてゴミ袋へ詰め込んでいく。


 ――あ、はやっ。


 ま、いっか。カーミラさんが渡してきたってことは、実質ゴミみたいなものだし。あのまま持っていても、きっとどこかに捨てていたかもしれないし、ゴミをゴミ箱に捨てられただけよしとしておこう。僕はお兄さんのそばを通りすぎ、くるっと身体ごと振り向く。


「ね、ゴミ捨てのお兄さん、ここでサボるのにちょうどよさそうなトイレってある?」


 ふと、思い立って僕は尋ねてみる。僕はこのハンター管理局本部の職員ではあるが、一階の受付とこの本部局長室のある五十階のフロア、そして一つ下の応接室しか行ったことがない。なぜならば、本部への出勤自体をサボっていたからだ。


 なぜか一度閉じたゴミ袋の口を開き、今僕から取り上げたばかりのゴミを手にしながら、彼は、慌てたようにもう一度ゴミ袋の中へとゴミを戻す。


「それならいい場所がありやすぜ! 南棟一階の、サボりの聖地! あそこは清掃員の間でも超優良サボりスポットとして有名ですぜ。かくいう俺も、さっきあそこでサボってきたばかりで、へへ」


 にっこりと笑って僕に向かって手を振るお兄さん。


 とても親切なお兄さんじゃないか。サボりの聖地。いい響きだ。よし、行ってみよう。僕も彼に手を振って応えると、お兄さんと別れ、そのトイレへと向かう。


 南棟に来たのは初めてだ。本部棟からは離れているため、人の姿がまったくない。しかも、トイレはものすごく綺麗だった。ベストサボりプレイスじゃないか。


 トイレの中に足を踏み入れると、三つある個室のうち、一番奥がすでに使用中で、扉の向こう側からは、うーうー、とくぐもった声が聞こえてくる。腹でも壊したのだろうか、とても苦しそうだ。かわいそうに。


 しかし、一番奥のサボりスポットに先客がいるとなると、これは別の場所を探すべきだろうか。手前の個室も真ん中の個室も、今の僕のサボりスポットとしてはふさわしくない。


 ――ん? もしかしてこれはサボり同士の邂逅か!?


 そう思い至った瞬間、僕の全身が再び白煙に包まれ――黒いスーツ姿へ早変わり。ぬいぐるみ化したペンデヴァーが、いつものように僕の腕の中へ。そういえば、さっきカーミラさんに破られたシャツも戻してくれてると嬉しいんだけど……。


 僕に撫で回されてうっとり顔のペンデヴァー。うん、可愛い。天鵝絨(ビロード)のような羽毛は、やはり最高の触り心地。サボりにモフりは欠かせないね、絶対。


「グァ……」


 ジト目で睨まれた。それはモフりのほうに反応した?


 気を取り直し、手洗い場の鏡の前に立つ。そこには、黒髪、黒眼、ボサボサ頭の――いつもの僕だ。どうだ、このやる気のなさ。今日もばっちり決まっているだろう?


 先ほどカーミラさんにボタンごと引き千切られて破れたシャツは、きれいに元に戻っている。ペンデヴァーが戻してくれたのか。よくやった、と褒めようと手を伸ばせば、その目がキラーンと光る。ドヤってる。


 うんうん、キミにとっては、こんなの朝飯前だよね。今の僕は晩飯前だけど。そういえば、今夜の晩ごはんはお肉がいいね。ドラゴンの肉とか、最高過ぎない?


 ちょっと準備してきてくれないかな、ペンデヴァー。

 今度はペンデヴァーの目がしょんぼり目に変化する。忙しいね、キミも。え? 僕のせい? それはごめんね。


「あれ……? これなんだろ……?」


 鏡の前から離れ、奥の個室へと歩を進めると、閉まっている扉の前に、番号札が落ちていた。八三九〇と数字が大きく書かれ、その下には――。


「スズキ……?」


 水性のインクで書き殴られた筆記体の文字は、掠れていてよく読めない。書いてからまだそれほど時間が経っていないせいか、インクが滲んでいる。僕は札を拾い上げるときにそのインク部分を触ってしまい、スズキがスグキになってしまった。


「あっ……」


 札の裏には安全ピン。これで服に留めるのだろうが、一体誰の落とし物なのだろう。あ、スグキくんか。ところで誰?


 そのときだった。


 ――バタン!!


 勢いよく入口の扉が開け放たれ、二人の少女が中に押し入ってくる。え?と思ったときには二人は僕の手にある番号札を見るなり、僕に駆け寄ってくる。そして二人は僕の両隣に立ち、腕をがっしりと掴んでいた。


「やっと見つけた! くそ、手間かけさせんなよ!」

「ほら! 急ぐよ! 試験に間に合わなくなる!」


 ホールドされた腕を引っ張られ、強制的に僕は引きずられていく。


「あれ? え、ちょっと、キミたち、ここ、男性用トイレだよ?」

「そんなの知ってんだよ! そんなの今は関係ねぇだろ!!」


 えぇ!?

 関係あるよ! これから僕は用を足したらサボる予定だったんだから。


 少女たちは、有無を言わさず僕を引っ張る。

 ちょ、あ、その引っ張り方ヤバいヤバい。漏れるって!!


 白いフリルシャツに黒のワンピーススカート。その上にエプロンをつけ、もこもこのレースヘッドドレス姿は、完全にメイド服だ。試験って、メイド試験?

 拉致監禁されるのかと思いきや、まさか、僕はその試験監督だったとか――!?


 いや、そんなの聞いてないから!


 グイグイ引っ張られ、足がもつれる。

 だからヤバいんだって!

 このままじゃパンツが大洪水だよ!?

 

 僕の焦りもなんのその。二人は有無を言わせず、もの凄い勢いで連行していくのだった――。


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