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#7-C 監視AIの絶望仲間たち その5

「グァァァ……」


 ペンデヴァーの疲労度は限界を超えている。

 前回が八十パーセントだとすると、今回は百二十パーセントだ。いや、途中でフリーズしたからゼロパーセントにリセットされたはずなのに、一気に限界突破してくるあいつ(リクト)はなんなのか。


 しかも、頼みの綱のスオウのコントロールが効かない。リクトを嫁扱いする欠陥(バグ)が思いのほか強力で、彼によるリクトの神格化に歯止めがかからないのだ。問題児が一人から二人に増えた、そんな気分だ。


 そうして始まったリクトとセイヌの戦いは、圧倒的リクトの勝利で幕を閉じた。予想通りというよりも、それは予め決められていた、というべきか。


「グァ」


 プリンの早食い?

 いや、あれはただの掃除機だ。吸引力の変わらない、ただ一つのプリン吸引マシーン。滝のように流れ落ちてくるプリンを一滴たりとも零さず吸い続けさせられた。本人は一口食べれば充分だから残りはペンデヴァーにあげるよなんて、プリンが好きなくせにまったく勝手なことばかり。


 傍から見れば人間業ではないことをしていたが、実のところはそうではない。実際、人間である(・・・・・)セイヌはプリンのプールに沈み、甘味地獄を味わった。プリンが詰まって呼吸ができなくなるというのは、幸せなのか、不幸せなのか。昇天する前に引き上げられ、死亡原因欄にプリン死と記載されることを辛うじて免れたことはラッキーだったはず。


「グァァ…」


 続く料理対決も酷かった。セイヌが唐揚げ用に選んだ肉は、オウリ・ハルコーン。加熱すれば、その身はどんな鉱石よりも硬くなるが、だからと言って生食すれば菌に侵されて確実に死ぬ。生肉を刃物型に整形し、焼き上げて研ぎ澄ますのが正解なのだが、あれを食材として置いたのは一体誰だ――ああ、そうか、リクトか。ポルポルソースというのも聞いたことがない。あの発言もどうせリクトの適当なものだろうが、それだけで新しいソースを開発させられるこちらの身にもなってほしい。この時点でペンデヴァーのリソースはフリーズ一歩手前だった。


「グァッ……」


 トドメはリクトの料理だ。


 適当に選んだ材料と調味料を鍋に入れて、調理時間として与えられた二時間、ずっと居眠りしていた。鍋はもちろん置いていただけ。コンロにかけて加熱するなんて、一切していない。


 ――もう一度言う。


 ただ、置いていただけ(・・・・・・・)だ。


 ペンデヴァーはしかたなく味を調(ととの)えようとしたところで完全にフリーズした。彼の選んだ材料や調味料がどれもこれも癖の強いものだったからだ。


 水と油以上に混ざり合わない調味料、茹でて殻を剥いた身をほぐさなければ食用不可な食材、噛めば痺れる毒性のある実、一滴でも体内に取り込めば即死する毒劇物などなど、食べた人間を一発であの世送りにする気満々な料理――いや、詰め込んだだけなので料理ではなく、単なる鍋詰めだ――は、さすがに出せないだろう。あれを出せば、リクティオとしての社会的地位はさすがに死ぬ。そうなる前に手を加え、なんとか最高の出来栄えにしようとした結果が、あれだ。


 フリーズからの再起動に時間がかかったせいで、見た目まで手を加えることができなかった。だが、かえってそれが審査員たちを絶望させる結果に繋がったらしい。


 見た目と匂いで絶望させ、おかわりがないことで絶望させ、二度と食べられないということで絶望させる、絶望三段構え。そりゃそうだ。リクトは何もしていない。しつこいようだが、彼は材料を鍋に詰め込んだだけなのだ。


 おかわりがない?

 当然だ、残らないように盛り付けた。


 二度と作れない?

 当然だ、キミは作っていないから。


 まったく、こんなに神経を使った――言葉の綾だ。AIに神経はないから主にリソースの問題だった。リクトのせいで人間味のある感情がうつってしまっただろうか。


 ペンデヴァーはフルフルと、首を振る。その勢いは身体のほうにも伝播し、ほぼ無意識に、反射的に全身をブルブルと震わせた。最後はフリッパーでパタパタする。


「グァ……」


 今日はもう疲れた。


 負けが確定したセイヌは、ドリステッドとともにチャッロプフゥホヒィアの元に血を吸われる餌として送り込まれることが決定した。どういう罰だ。それは。相変わらずリクトの考えることは適当すぎる。さらに、刑期はリクトがチャッロプフゥホヒィアに一任した。要するに、面倒くさいので早々に手放し、他人任せにしたわけだ。どれだけサボりたいのか。


「グァァァ……」


 もうダメだ。今日はペンデヴァーも寝に入ろう。卵の置かれたふかふかの座布団の上にヒョコヒョコと歩いて移動し、卵を抱えるようにして直立し、目を閉じる。再起動後、そのままスリープモードに入ってしまおう。今日はもう何もしたくない――。

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