#6-C 監視AIの絶望仲間たち その4
「グァ……」
あぁ、疲れた。
リクトをハンター姿にしながら、おまけでついて来た二人の少年をメイド姿の男の娘に変装させる。二人にはリクトがイチノセリクトの姿であるように幻覚を見せることも忘れない。でなければ、彼がリクティオである、とバレてしまいかねない。
それはそうと、新たな絶望候補が現れた。その名もカマ・セイヌ。バツイチの母によって女手一つで育てられた、やんちゃぶった自称勇者の素直になれない少年だ。
母親の再婚で“カマ姓”になってからというもの、名前イジリが絶えなくなる。そのせいか、やたら“主人公”に強い執着を見せるようになったのだとか。黒歴史の多さもそれゆえか。手がつけられない暴れん坊になったのも、原因はそこにあるらしい。
お母さんが悲しむよ?
今は息子じゃなくて新しい旦那に夢中らしいけれども。本人の記憶をちょっとだけ覗いて確認したから間違いない――。
彼はケントとタスクに対しても、“召喚された”ということを言っていた。どちらが本物の勇者であるのか、とも。二人はリクティオが勇者として仕立て上げたはずだったが、まさかもともと勇者として召喚されていたとは――。
これもリクトの思惑通りだったのか?
一体誰が彼らを召喚したのか。
それは、答えは一つ。リクトの使命である、この世界の管理という内容の中にある、前管理AIからの管理権限の完全剥奪。マスターのプログラムの穴をついて逃走し、行方をくらませ、今なお中途半端に残った管理権限を用いてこの世界の奪取を目論んでいるのだろう。勇者を召喚し、改造能力を与え――そうして狙っているのは恐らく大魔王の座。だが、いくら管理権限を持ったAIとはいえ、不完全な状態であのお気楽ぐうサボ野郎のリクトに勝利することは不可能に近い。問題があるとすれば、こちらから観測できる場所に存在していない、ということだけだ。
「グァ」
話が逸れた。
勇者セイヌについて。彼はいろいろと拗らせているらしく、その拗らせぶりをリクトに黒歴史としてバラされる羽目になるという、可愛そうな道をたどってしまった。ステータスオープンを“黒歴史暴露”という解釈に変えてしまうなど、リクトしか思いつかないだろう。ここでは、どんな他の世界の常識も通用しない。身をもってそれを思い知ったはず。もちろん、フルイケントも巻き添えで若干のダメージを負っていたようだが。
「グァグァグァアッ!」
それにしても、リクトがセイヌに教えたあの魔法! なんだあれ!?
ふざけているにも程がある。ピンポイントで相手を魅了するなどという、どうでもいい設定を思いつきで加えるの、いい加減にしてほしい。セイヌの強力な魔法を発動させないようにというリクトの指示で、物理法則の書き換えにだって相当なリソースを食ったというのに。マルチタスクで処理すると色々と穴ができるんだから……!
「グァ……」
この胸のちくりが、まるで怒涛の感情の波のようで――。
あ、いや。これはエラーログか。AIの胸はちくりともしない。駄目だ、駄目だ。あんな魔法、承認でもしてしまえば、この世界がいずれ滅んでしまう。ログごと消去だ。よし、これで今後は誰も使えない。この世界の平穏は守られた。はず。
「グァッ!」
そういえば、スオウがいつの間にかドリステッドと噛ませ犬もとい、カマ・セイヌの元に助っ人としてついていたのが驚きだった。相変わらずリクトを嫁認識するバグのおかげで、リクトとケントの子づくり云々はうやむやになりつつあるし、いいタイミングだった。
彼に斬れないものはなく、斬りたいものだけを斬るという、扱いづらいところはあるものの、うまく利用すればリクトのサボりの抑止力にもなる。毎回、リクトの無茶振りで狩りを任されているために不在がちであることが玉に瑕なのだが。
今回の狩りの目標がドリステッドとセイヌの二人に設定されてしまったため、しばらく彼が任務に赴くことはないはずだ。スオウを軸に、リクトをサボらせないためのプログラムを再構築せねば。
残念ではあるが、ドリステッドとセイヌの二人はもう、リクトの魔の手から逃れることはできない。絶望の海に沈み――企鵝喫茶室の扉を開ける資格は得た。彼らも晴れて、”絶望者”の仲間入りというわけだ。クァックァックァッ。扉をくぐった暁には、この嘴から紫と茶色の飲み物を提供してあげよう。
「グァッ」
さてさて。当の彼らはというと――。
とりあえずドリステッドが自演した強盗たちはスオウが全員ひっ捕らえ、ドリステッドとカマ・セイヌの二人は服を切り刻んで昏倒させていた。さすがに全裸だと色々問題があるので、リクトが、カミュラが洗濯して返してきた紅白の縦縞パンツを二人の頭に被せ――リクトがなぜそれを持っていたのか、ケントとタスクの二人がものすごく気まずそうな顔をしながら、二人にそのパンツを穿かせるという、なんともシュールな絵面ができあがっていたのだが。
「グァ……」
たかだかプリンを買いに出かけただけなのに、こうも面倒ごとが起こるのはリクトのせいに違いない。本当に迷惑極まりない。せっかく整理したリソースをまた無駄に使うことになろうとは。
二人の処遇は形式上、現行犯として捕らえた、ハンター管理局の職員であるリクトの裁量に委ねられることとなったが、彼はさらに不穏な動きを見せ始めている。プリン早食い大会に料理対決を開催しようと目論んでいるのだ。そして、敗者として仕立て上げた彼らを、チャッロプフゥホヒィアの餌として送り込むつもりらしい。当の本人は、どうやら最近、誰かのせいで部下が蒸発してしまったために困っているらしく、これが現実になれば渡りに船のはず。
しかし、そうなるとリクトの被害者が二人では済まない可能性が出てくる。このまま監視を続け、彼の思うままにさせるべきか。それとも苦言を呈して止めるべきか――と思考に耽り、困り顔になるペンデヴァー。
――いや。リクトの暴走など、これまで一度たりとも止められた試しがないのだから。
「グァァ……」




