盗作魔法
聖夢魔法学園から、宿題が出された。
その内容……『幸せが長く続く夢魔法』とのこと。
学園に通う、夢魔法使いを目指す生徒たちは『幸せが長く続く夢魔法』を使えるよう研究を重ねていた。
学園の理事長、モブラン・アクアは、生徒たちがどんな夢魔法を提出するか今から楽しみだった。
夢魔法の威力は人間世界へと連動していくので、到達した人間世界には夢を現実へと向かわせる心が芽生えるのだ。
「今回出題する夢魔法の宿題がどんな形になるのか、今からもうワクワクしてしまいます」
モブラン理事長から伝わるのは競争心ではなく、精神が豊かに育つ気持ちだ。
「生徒さんたちには良い意味でのライバル精神を育んで、互いに成長を遂げるように夢魔法を極めていって欲しいものです」
「モブラン理事長の教えを守る生徒さんばかりですから、この宿題だって努力して達成されます」
モブラン理事長を慕うティーチャー、ルブドもこの学園に通う生徒たちを応援している。
夢魔法の新しさを今から考え、二人とも胸を踊らせている。
と、そんな空気の中、別世界からの悩み声が迷い混んできた。
〈眠りが深すぎて起きられない……何とかして起きられる方法、ないものか……〉
悩み声は人間世界からの物だ。
声の主はどうやら眠りから目覚める事が出来ずに悩んでいるとみた。
「人間世界からの悩めるメッセージですね。
夢魔法使いの力で解決出来るように、研究が必要です」
モブラン理事長の瞳に、夢への研究心が廻り出す。
ティーチャー、ルブドも夢魔法使いとして、悩む人間を救いたいと考える。
悩める人間の声は、生徒たちにも届いていた。
迷い混んできた声には眠気への辛さが混ざっていて、本当に解決策を考えているのが通じた。
この悩みは今回出題された宿題へと繋がる。
〈幸せが長く続く魔法……閃いた‼〉
全員同じタイミングで、新しい夢魔法が生まれた。
生徒たちは早速宿題の準備を始め、夢の材料についてを調べだした。
全ては悩みを持つ人間の為に!
生徒たちは全員宿題を提出した。
夢魔法はほぼ気体の状態なので、小瓶に詰めて提出するのが一般的。
「全員、宿題を提出されているのは優秀ですけど、困った事が起きました」
ティーチャー、ルブドが理事長室へとある問題について相談に訪れた。
宿題の件に関する事だ。
「生徒さんたちが提出された幸せが長く続く魔法ですが、全員の宿題の仕上がりが全く同じなんです」
「え?
全く……同じ、仕上がり?」
ティーチャー、ルブドが数本の小瓶を手にしており、それらをモブラン理事長へ差し出した。
「先ずは、ご覧ください」
持参した小瓶を全て開栓すると、ティーチャー、ルブドはモブラン理事長の表情を伺う。
小瓶から現れた気体は、淡い色をした夢だ。淡い夢は内側から高い音を出した。
〈リリリリリ……〉
「これは、目覚ましの音ですね。
もしかしますと、これは……」
「盗作魔法、なのでは?
全員の宿題が同じ仕上がりになるなんて、あり得ません」
「盗作魔法……?
ティーチャー、ルブド……わたしは学園の生徒さんたちを信じます。
あの子達は、盗作をするような行為は致しません」
アッサリした口調で告げると、モブラン理事長の唇が小瓶の底に残っている夢魔法に軽く息をかけた。
「ふ……っ」
すると残っている夢魔法が浮き上がり、そこから生徒の声が零れた。
〈悩める方が眠りから目覚めて、スッキリした気分で過ごせますように〉
他の小瓶からも、生徒が残した気持ちが声となり放たれてくる。
〈人間世界の人が、眠りから解放されますように〉
〈夢からしっかり覚めて、元気に一日起きていられますように〉
夢の目覚まし「夢覚まし」の音が響くのと同じく、生徒たちの本音も聞え続ける。
「先日聞こえました人間世界からの悩めるメッセージを聞いて生徒さんたちは同じ事を考え、同じ宿題を思い付いたのでしょう」
生徒たちを心から信じているモブラン理事長には、少しの陰りも見られない。
ティーチャー、ルブドは生徒たちを疑った事に恥を感じた。
「私とした事が……こんな純粋な生徒さんたちを『盗作魔法』扱いするとは、教師失格ですね……」
「全員が同じ宿題を提出する事案は始めての事です。
未知の体験をされて真実を知れば、そこから見抜く力が育つものです。
貴女は決して教師失格ではありません。
信じているからこそ、私のもとへ宿題をご持参されたのですからね」
モブラン理事長には、全てお見通しだ。