転生した世界で不幸になる運命のあの人を幸せにしたい!
私、転生してる。
サーッと目の前が開けたというか、遠くぼんやり見えてた世界がが突然、鮮明に色づいて賑やかに動き出したというか。
そんな覚醒する瞬間を経て、私は悟った。
ここは異世界だと。
ゲームの中に迷い込んだとしか思えないくらいに、似すぎている。
前世の自分がプレイしていたあのゲームに。
この乾いた大地。
石造りの城壁。
堅固な城門。
土煙を立てて走り回る馬。
槍を構えた兵士。
行き交う庶民。
怪しげな術士。
史実にはありえないような金属鎧の美丈夫たち。
若いイケメンと美少女たちの恋模様。
これは紛れもなく…。
「三國○双!!」
確かにファンだったけども!
メジャーな武将しか知らないし!
なんなら名前の読み方分からん人もいるし!
地名も時系列もうろ覚えなのだが!
しかし分かる、ここが三國志の世界だと。
決して別の中華風異世界ではなく!
小説になったり、マンガになったり、ゲームになったりした、あの群雄割拠ストーリーの世界だと!
これはチャンスだ。
私の中に一つの野望が芽生える。
ここがあの世界なら、元になった物語を読んだ時からやりたい事があったのだ。
周囲を観察すると、どうやら今は反董卓連合が結集した辺り。
城の中の董卓をどつき倒すべく、名のある君主や武将たちが開戦を待っている。
私は原作に無いオリジナル武将だ。
前世の記憶でせっせとエディットした覚えがある。
小柄な美少女、時代考証を無視した可愛い防具。
「あ〜、あ〜、うん、声も可愛い。これならいけるか?」
勝てるかどうかはわからない。
敵は伝説級。
でもあきらめない!
大好きな人を破滅に向かう運命から救うため、私は戦う!
目指すは城門前に立つあの人。
私は開戦の合図と同時に馬を走らせた。
「呂布様、私と結婚してください!」
「え、俺?」
「初めて見た時から貴方が好きです。呂布様最強! 呂布様しか勝たん!」
「いや突然そんな事言われても」
「呉の周瑜より貴方が好きです!」
「俺、腕っぷししかとりえが無い男なんだけど」
「いいえ、私なら貴方のいい所を一晩中語れます!」
「一晩中ってそんな」
何やらうろたえておられるが、ここは押して押して押しまくるしかない!
このままだとこの人は傾国の美女・貂蝉に初心な男心を利用された挙げ句に心に深い傷を残す形で捨てられてしまうのだ。
それは彼の転落の始まりでもある。
ここで引いちゃダメだ!
「非力で未熟な私ですが、貴方を好きな気持ちでは誰にも負けません! この乱世を一緒に生きてくれるなら、決して貴方を置き去りにしないと誓います。最後まで必ずお側にいます。ですからどうか私と結婚してください!」
深々と頭を下げる。
敵は伝説級の美女・貂蝉だ。
顔では負けてるかもしれない。
色香とか立ち居振る舞いとか色々負けてるかもしれない。
でも頑張ってエディットしたし!
かなりの美少女に仕上がってるはずだし!
気持ちでは負けてないはず!
本気だから!
お願い、この手を取って、私を選んで!
沈黙があった。
どこかで武将と武将がぶつかり合ってる音しか聞こえない。
呂布様、返事を、返事をください…。
「…娘御よ、名はなんと?」
名前、聞いてくれた…?
「私の名は…」
顔を上げて見つめ合う。
なんか薔薇の花が飛んでる気がする。
もしかしてOKですか?
これから深く知り合って行くって事でいいですか?
背後で行われてる戦闘なんか知ったこっちゃなかった。
気づくと私は呂布様と手を取り合ってた。
※
「無茶すんなよお前」
「すみません。でも最強の男をゲットしました!」
「まあそのおかげで勝てた部分もあるけど。で、これからどうするの。夫婦でうち来る?」
「いえ、あの人仕官してもろくなことにならないので。市井に下って食べ物屋でもやります」
「そっか。最強の用心棒だな。幸せにな」
太っ腹な上司が餞別をくれた。
赤兎馬ではないけど、金一封だ。
ていうかこの世界だと赤兎馬はどこにいるのか分からない。
多分、呂布様の愛馬になる前の元の持ち主の所にいるのだろう。
いつか関羽に贈られるのだろうか。
どうでもいい事だけどね。
私たちはこれから一介の庶民になる。
英雄でなくていい、裏切ることも裏切られることもない人生を送らせてあげたい。
もらった金一封を元手に中華料理屋でも開こうか。
麻婆豆腐とか作れたらいいな。
「呂布様ー! 円満退職してきましたー!」
広場で待つあの人の元へ私は駆けていく。
乱世は当分続くけど、二人でだったらきっと幸せ。
(西暦190年、洛陽より愛を込めて)
乙女ゲーム転生と思わせて、実は三國志、というのを書いてみたらこうなりました。呂布は悪役ですが、恋愛物のヒーローにもなれるキャラだと思います。