第一章5 『セーブ』
「凄い……」
そう言葉を漏らしたユウキの視線の先にはこれでもかと立派に建てられた城壁があった。建築には何年もかかったであろうその城壁はすでに何十年と歴史を刻んできた雰囲気を醸し出している。驚くユウキをみてタトアは満足した様子だった。
「凄いでしょ!ようこそルーべルスクニア聖国の城塞都市、パルフェオラへ!!」
そう言って自慢げに手を広げたタトアを見ながらここ数時間のことを思い出した。
◇
タトアは自分のカバンを見つけ叫んだ。それも自分の知らない間に衣服は地面引きにされ泥だらけ、カバンは魔物の攻撃で裂けていたのだ。それが分かれば叫びたくなるというものだ。
軽く崩れ落ちそうになるタトアを見て仕方なかったとはいえ勝手に使って汚してしまったことに申し訳なくなったユウキ。
「あー…それタトアのだったんだ。僕、森で遭難して奇跡的に見つけた物資だと思って思いっきり活用しちゃった、ごめん!」
「もーそんな感じで言われたら攻めきれないじゃん、幸い一番大事な短剣が無事だし。仕方ないから許したげる!!」
「そういってもらえると助かるよ。」
なんとか許してもらえたようだと安心したユウキ、最後の微笑みには少し心を持ってかれたようだった。一息ついたところでユウキはタトアに一つお願いをすることにした。
「それでタトアにお願いがあるんだけど。さっきも見た通り僕は戦闘力皆無だから町まで行けるかめっちゃ不安なんだよね、そこで近くの町まで護衛兼案内役してくれたらうれしいな」
ユウキの頼みを聞いたタトアは、任せろとばかりに大きくうなずいた
「そんなことでいいならあたしにまかせんしゃい!この近くには国で一番発展してる城塞都市があるんだ!!」
それを聞いたユウキはどんな場所なのだろうと期待を膨らませながらタトアと足を進めるのだった。
「ついたよ!」
数時間ほど歩いてそう声かけたタトアに紹介された国一の城塞都市パルフェオラ。その立派な城塞は圧巻の一言に尽きる。国一の城塞都市とは大げさではないとそう思った。
入門の列に並びながらタトアは都市の説明をしだした。
「城塞都市パルフェオラはね、ルーベルスクニアがまだ小さかったころほかの国の領土を攻め入るために作られた都市なんだ!それでこんなに立派な城壁が立ってるの!」
そう口にするタトアはどこか誇らしげに語った。その話に感心したユウキは少しワクワクしていた。そうしているうちに列が進みユウキたちの番になった。身分証の提出といわれて少し焦ったが、タトアが顔を利かせてくれたおかげで問題なく入門することができた。
「ふう、少し焦ったけど何とかなったね、マジでありがとうタトア!」
「むふー、どういたしましてだよユウキ!それにしても身分証がないってユウキってもしかして訳あり的な?」
その言葉に少しびくっとしたユウキ。この世界が出身ではないユウキは身分証など持ってはいないし、その理由をおいそれと話すわけにはいかない。ユウキは軽く苦笑してごまかした。
「まあ、そんなとこ」
それを聞いたタトアは少しだけ眉を寄せ不満げにふーんとだけ答えそれ以上追及してくることはなかった。なんとなくいたたまれない空気の中ユウキは話を町のことへとシフトした。
「それにしてもすごい活気のある街だね!みんな笑顔だし、楽しそう。」
「でしょ!商業も盛んでほんとにいい街なんだ!」
商業のある所に発展ありとはこの町の状況を説明するのに最適のようだ。これだけ活気があると散歩をするだけで日が暮れそうである。そんなことを考えてる間にタトアが声を上げた。
「そうだ!あたしが町を案内してあげるよ!そうと決まればさっそく行こ!」
「行くってどこに?」
「まずは冒険者ギルドでしょ!」
ギルドといったら異世界には欠かせないものだ。いくら試してもステータスとかそれっぽいものも出なかったのでここにきて出てきた異世界要素に驚きを隠せないユウキ。驚いているとタトアがユウキの手を握り「こっちこっち!」と走り出した。若干のテレを出しながら楽しみだとしっかり手を握り返した。
「ここだよ!」
「おおー、いかにもってかんじだね」
数分後、タトアの案内で無事に冒険者ギルドへと到着した。剣と杖の交わった看板がいかにもな雰囲気を醸し出していた。
「なんとなくはわかるけど冒険者ギルドって何するとこなの?」
自分が思い描いている冒険者ギルドとの相違がないかを確かめる。さすがに剣と杖の看板引っ提げてここは病院ですとか言い出されても困りものである。
「ギルドでは主に冒険者への依頼の斡旋をしてるんだ。雑用依頼から魔物討伐依頼、護衛依頼とかとにかくたくさんの依頼を紹介してるの!それにここで冒険者登録したらギルドカードがもらえて、それが身分証になるんだ!」
「なるほど、じゃあ今日は僕の登録もして身分証手に入れちゃおってこと?」
「そうそうそゆ事!ついでにグレイウルフの素材も売っちゃお!」
「グレイウルフ?」
「さっきユウキと会ったときに倒した魔物のことだよ、あいつグレイウルフって言って大体中級くらいの魔物なんだ」
「あぁあいつか…」
正直、思いだしたくもない相手だ。今回はタトアに助けてもらえたので良かったがそうでなければかみ殺されていたのだ。このトラウマは消えそうにない。少し気落ちしているユウキを見てタトアは言った。
「グレイウルフは結構言い値で売れるから元気出しなよ!これで飲み食いするぞ!!」
「そうだね、こいつには散々な目にあわされたから高く売れなきゃ損だよね。よーし今日はこいつでいっぱい遊ぶぞ!おー!」
「おー!」
そう二人で掛け声をかけ、さっそくとばかりに建物の中へと入った。中は思ったよりもきれいで、見たところスキンヘッドやモヒカンはいない模様。受付にもあっさりたどり着き、テンプレがないことを悟った。タトアが素材の売却を済ませ少し離れた所で待っていたユウキのところに来た。
「売れたよ!!買取金額なんと銀貨十枚!!これだけで半月は困らないね!」
「おおー」
銀貨十枚で半月ということは大体銀貨一枚で一万円くらいの価値があると見た。すごい大金だ。
「じゃあこれがユウキの分ね!」
そう言って手に握らされたのは銀貨五枚。換金した金額の半分である。これはさすがにとユウキは思った。
「グレイウルフを倒したのはタトアなのにこんなに貰っちゃっていいの?」
「うん!気にしなくていいよー。見たところユウキってば無一文だしお金ないと困るともうよー!」
そう言って笑ったタトアにユウキは恥ずかしくなり顔を赤くする。正直に言おう、惚れた。
◇
「よし、換金も終わったことだし、次はユウキの登録しちゃお!」
「わかった」
ユウキとタトアは買取受付の横にある登録受付まで歩いた。受付についてユウキは少し緊張して言った。
「すみません!冒険者登録しに来ました!」
「はい、新規登録ですね。それではここの紙に名前をご記入ください。それから紋章の登録を行います。」
ユウキは名前を書き終えて、説明に出てきた紋章について聞いた。
「あの、紋章って?」
「紋章はギルドカードに血をたらし、技能登録情報を再登録することです。」
わからなくて聞いたのに余計わからなくなった。首をかしげていると横にいたタトアが補足してきた。
「教会で技能登録ってしたことあるでしょ?それをギルドカードに反映させるってことだよ!」
そこまで聞いてユウキはやっと理解した。だがまずい。ユウキは教会になど行ったことはなく、当然技能登録とやらもやったことがないのだ。どうなるのだろうと不安に思いながらもユウキはそれを伝えた。
「えっと…その技能登録?っての僕やったことない」
「えっ、嘘でしょ!?やったことない人なんているの!?」
「そんなに驚くことなの?」
「そりゃそうだよ!!ほとんどの人は生まれて五歳で教会に行ってやるもんだよ!!」
それを聞きなるほどとそりゃそんなに驚くわけだと思った。ユウキの話を聞いて驚いていた受付嬢の人が話しかけてきた。
「技能登録したことない人なんて初めて聞きました。ですが、新規登録には技能登録は必須ですのでとりあえず仮登録としておきますね。教会で技能登録を済ませたらまた来てください。」
「わかりました。また来ます」
「はい、お待ちしております。」
ユウキたちは仮発行のカードを受け取って、ギルドを後にした。
「じゃあつぎはそのまま教会に行こっか!」
そう言ってユウキたちは教会へと歩き出した。途中で串焼きを買って小腹を満たしていたらあっという間に教会へとついた。
「おおーここが教会、すごくおっきい建物だね。」
「ここの教会には枢機卿様もいるからね!すごく立派な作りになってるんだ」
教会は神々しかった。中に入りたくさんの椅子の間を進む。奥に到着してユウキはその神像を見た。長い髪を下のほうでまとめ、どことなくきりっとした顔をした美しい彫像だった。
「これは豊穣の女神デメテル様の神像だよ」
神像に見惚れていたユウキにタトアがそう教えてくれた。すると横の扉のほうから一人、こちらのほうに向かってきているのが見えた。年は四十歳ほどだろうか、白い法衣に身を包み聖職者であることがうかがえる。
「どうもこんにちは、私は教会の司教を務めています。ルドと申します。」
そう声をかけてきたルドは、ユウキたちを見てわずかに驚いた顔をした。しかしすぐに穏やかな顔に戻り、こちらに話しかけてきた。
「ようこそおいでくださいました。この出会いは女神デメテル様も祝福してくれることでしょう。」
「本日はどのようなご用件で?」
「今日は技能登録がしたくて来ました。大丈夫ですか?」
するとルドは少し驚いた顔をした。
「技能登録ですか、あなたほどの年齢でまだ技能登録を終えていないのはすごく珍しいですね」
その言葉に少し焦ったユウキだったが「まあ何か事情がおありなのでしょう」と司教は話を進めた。
「では技能登録のやり方を説明いたします。説明といっても難しいことは何もありません、神像の前に膝をつき祈るのです。さすれば神の祝福はあなたへと降り注がれるでしょう。」
そんなことでいいのかと思ったユウキは神像の前へと進み膝をついた、手を合わせ瞳を閉じ、そこからは祈りを続けた。それからどれぐらい祈っていたのか正確にはわからないがタトアが「ユウキもう終わったよ!」と声をかけてきたので目を開けた。
そして目を開けた先には信じられないものが映っていた。
「どうですか?技能登録を終えた今、あなたにはステータスが見えてるはずです。これであなたも一人前へとなりました。おめでとうございます。」
「おめでとうユウキ!」
二人から祝福されたユウキはそれにこたえることができなかった。お待ちかねのステータス、これが見えるようになったのだ。普段であったならば狂喜狂乱していることだろう。しかしユウキのステータスには到底見過ごすことのできないことが記されていた
それはーー
「ーーセーブ&ロード」
ステータス
ーー井藤 祐樹
【スキル】
ーー時魔法
【権能】
ーー『セーブ&ロード』
井藤 祐樹