第一章2 『食われる感触』
獲物を見る目だ。
目の前にいる魔物を見てそう感じた。そうユウキはいま一匹の魔物と相対していた。
犬とも、オオカミとも言い難い毛並みに見るからに鋭い牙。
牙の間からよだれをたらし、今にもユウキに飛びつかんとした様子だった。
「ついに魔物が出たか。異世界だとは思ってたけど目の当たりにするとやばい」
ユウキは焦っていた。いろんな方法で自分は魔法や超能力を使えないか試しそのことごとくが失敗。
そんなユウキが魔物相手にどう戦えばいいのか、これは絶体絶命のピンチなのだと悟った。
魔物はそんなユウキに牙を鳴らし、空気が揺らぐほどの咆哮を放ちとびかかって来た。
「ーーっつ!」
ユウキに嚙みつこうとした魔物に合わせてこぶしを前に突き出した。そのこぶしは魔物の顔にクリーンヒットし、攻撃を退けるに至った。魔物は跳ね返り、着地した。
「どうだ!僕だってやられっぱなしじゃないぞ!」
一撃を退けたことでユウキはやれると思っていた。
魔物はそんなユウキを見てまたも地を鳴らす咆哮を行い、駆けるようにしてユウキにとびかかった。
先ほどと同じようにこぶしを握ったユウキだったが、そううまくいくわけもなくあっさりと魔物に体を押さえつけられた。
抵抗しようにも何の力も持たないユウキが勝てるわけもなく、そしてその時はやってきた。
魔物は口を開け、鋭い牙でその腹に食いついた。
「ああああああああああ!!!」
あもりの痛みにユウキは絶叫をあげる。
そのまま腹を食いちぎられ、大量の血があたりを流れる。
ーー何でこんなことに!!
尋常じゃない痛みを感じながら、ユウキは自問した。
身じろぎをしたユウキを逃さぬように魔物は首元に牙を突き立てる。
「ーーっつ!!!!!!」
その一撃でのどをやられまともに声も出せない。
痛みが頭を支配しまともな思考もできなくなっていた。
腕も捥げ、首は裂かれ、腹は食いちぎられる。
そのような状態で人間は生きられない。
命の鼓動が止まり、沈む行く意識の中、ユウキは聞こえた。
ーー『条件達成を確認、速やかにロードを実行。』
その瞬間、ユウキは平原にいた。ここは目を覚ました場所であり一時間ほど前にいた場所だ。
ここにいるはずがない、何より先ほどまで食われていたはず、、、
「食われて…?そうだ僕は食われて…それ…で…ううああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
状況に脳が追いつき、先ほどまで起こっていたことに脳が耐えきれるはずもなく、ユウキは声を上げた。
そう先ほどまで食われていたのだ。あのユウキを食い物にしようとしか思ってない魔物に。
腹は食いちぎられ、腕ももげていた。首も折れて、死んだはずだった。
「そうだ!!僕は死んだはずだ!!体を食われたんだぞ!!!なのになんで、なんでまたここに!!!!!」
想像を絶するほどの痛みを受け、死んだはずーーそう困惑とまたあいつに襲われたらと考えるユウキの顔は青白くなっていた。
体には先ほどのような損傷はなく、五体満足で地に足をつけている。意味が分からないとユウキは何が起こっているのかを考えた。
そこでユウキは死ぬ間際に聞いた声を思い出した。
「そういえばあの時何か言ってたな、たしか『条件達成を確認、速やかにロードを実行。』ーーだったかな。」
なんのことだかさっぱりだと思いながらも今体があることにはほっとした。
もうあんな思いはごめんだと、ユウキは先ほどの道とは反対に向かって歩き出した。
「逆方向に行けばあいつと会うこともないはず…」
そう希望を持ちながら再度人里を目指すのだった。
◇
「しかしあんなやばい魔物がいるとは、、、」
そうつぶやいたユウキは先ほどのことを思い出し、軽く身震いした。
あんなことが起こったんだ、これが単なる異世界召喚と浮かれてなどもういない。
それにいったい誰が召喚したかもわからない状況、ユウキはこれから慎重に行動しなければならない。
何よりもう食われたくはないのだ。
「もう家に帰りたいよ、、、なんでこんなことに……」
異世界召喚だと浮かれていた自分を殴りたい、そう思うほど怖い出来事だった。
でもいくら後悔しても世界は許してはくれない、そういうかのように自身の横からとてつもない熱を感じた。
「ーーっつ!!!!」
何事かと思い振り向いた視線の先には、--口から炎を吐く魔物の姿だった。
ーーやめ
そこで視界は暗転した。
ーー『条件達成を確認、速やかにロードを実行。』