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ひきこもりくん、先生が来ましたよ  作者: 風呂上がりの熊


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授業25 人って弱ると昔の夢見ることない?

「やばっ」

「「そ、そうだ、そうだ!」」


 いかにもやんちゃそうな金髪の青姉に怒鳴られ、少年達は慌ててその場から逃げて行く。

 俺は動かず、風で揺らめき夕日でキラキラと輝く青姉の金髪をじーっと眺めていた。


「はぁ……たくっ、一人に三人でなんて卑怯な奴らめ」


 坂を降りてきた青姉は溜め息を吐いて呟き、地面にぶちまけられた俺の持ち物を拾ってくれる。


「青姉ありがとう」


 少年達から助けてくれた救世主にお礼を言い、俺も近くに落ちている物から順番に拾っていく。


「気にすんな。それより鈴、お前も少しはやり返せよな」

「でもこの前やり返したら余計長引いたよ?」


 小さな俺と金髪の青姉は年の離れた姉弟のように会話している。

 実際、母さんの仕事の都合で引っ越すまで家が隣でずっと一緒に居たから、この時は青姉のことを本当の姉みたいに慕っていたんだよな。

 まぁ今でも慕っているけどちょっと意味合いは違うか。

 あっ、そういえばその意味合いが変わったのはこの時だったかも。


「そうは言うけど悔しいだろ? はい」


 質問しながら拾い終えた物を手渡してくれる青姉。


「ありがとう」


 俺は地面に投げ捨てられたランドセルを拾って軽く砂を払い、青姉から中身を受け取ってランドセルの中に戻す。

 続けて青姉の質問に答えた。


「別に悔しくないよ。あいつら一対一ではなにも出来ない弱虫だし、僕のこと全然わかってないから」


 この頃はまだ一人称が僕だったんだな。


「というと?」


 青姉は金髪を揺らしながら首を傾げる。

 耳たぶに着いた銀色のピアスが夕日に反射してキラリと光った。


「あいつら僕のことを偽物の親しかいない捨て子だとか言うけど、僕にとって母さんは本物の親だし、青姉だっているから平気だよ」

「でもあんなことされるのは嫌だろ」

「うん。嫌だ」

「だったら叩きのめしてやれば良いのに」


 青姉は右手で作った拳を左の手のひらに当てる。

 昔の青姉にもすぐに手が出る喧嘩っ早さがあった。


「母さんが弱い者いじめはしちゃ駄目だって言ってたよ?」

「ぷふっ。あははははは」


 青姉は腹を抱えて笑い出す。


「えっ、僕なにか変なこと言った?」


 突然笑われ不安になったのか小さな俺は青姉に尋ねる。

 青姉はしゃがんで目線を合わせてから、


「いいや。ただ鈴があんまり良い子だから、嬉しくてつい笑っちゃっただけだ。よしよし」


 と、綺麗な指で優しく俺の頭を撫でた。


「あ、あんまり子供扱いしないでよ」 


 小さな俺は恥ずかしがりながら少し不貞腐れた顔をしている。

 子供扱いされるのが嫌な年頃だったのだ。今でも嫌だけど。


「ふふふっ、鈴はまだまだ子供だろ」


 青姉はイタズラっ子のように微笑み、俺の頬を引っ張る。


「い、いひゃいよ、あよねえ。や、やめへよ」


 俺は頬をこねくり回されながら涙目で抗議した。


「こんなので泣きそうになってるようじゃ大人だって認めてやらないぞ?」

「な、なきひょうになんへなっへない」

「ふふっ、偉い偉い」


 強がる俺を見て青姉は楽しそうに笑いながら俺の頬から手を離す。

 そして、もう一度俺の頭を撫でた。


「だから子供扱いしないでよ!」


 さらに子供扱いされた俺は青姉からぷいっと顔を背けている。


「本当に鈴は可愛いな。うりうり~」


 青姉は全然悪びれることなく膨らんだ頬を指でツンツンしていた。


「そうやって子供扱いばっかして、ぼ、僕だってもう大人なんだぞ!」


 青姉の手を払って叫ぶ。

 この時は自分を大人だと言い張る時点で子供っぽいとは気づいていないようだ。


「へぇー。鈴は大人なのかぁ。青姉さんにはまだ子供に見えるけどなぁ」


 ニヤニヤしながら俺の頭をポンポンして青姉は言った。


「ば、バカにして! わかったよ! 僕が大人だって証拠を見せればいいんでしょ!」


 俺は頭に乗せられた青姉の手を掴む。


「ふふっ、もしかして手を繋ぐのが大人の証拠になると思ったのか?」

「ち、違うよ!」


 バカにしたように笑う青姉に反論し、小さな俺は本当に自分がやろうとしていたことを実行した。


「ちゅっ」


 掴んだ手を引いて顔を近づけさせ、青姉のほっぺに口づけする。


「んなっ」


 まさかほっぺにチューをされるとは思っていなかったのか、青姉は驚いた様子で目を見開く。


「ほ、ほら、僕も大人でしょ?」


 ランドセルを背負う俺は頬を赤く染めながら勝ち誇ったように笑っていた。


「ま、まぁ少しは認めてやってもいいかな」


 青姉は少しだけ顔を紅潮させ、長い金髪を指で耳にかける。

 その仕草にときめいて固まる小さな俺。

 当時の俺がその後どうしたのか興味があったけど、結局青姉から目を逸らしてことしか出来ていなかった。

 俺って昔から全然成長してないんだな……。


「そろそろか帰るか」

「う、うん」


 落ち込む俺をよそに二人は手を繋いで歩き始める。

 この日の帰り道になにを話したのかは覚えていない。

 今思うと初めて青姉を姉としてではなく一人の女性として意識しちゃって緊張していたからかもしれない。

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