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ひきこもりくん、先生が来ましたよ  作者: 風呂上がりの熊


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授業11 一緒にお風呂に入るんだよ

 シャワーのお湯で体を清める。


「やってしまった」


 俺はお風呂場の壁に額をついて呟く。

 試合に負けたボクサーの気分はこんな感じなのだろうか? いや、きっと俺の方が憂鬱だ。だって青姉の、好きな人の前で派手にお漏らしをしてしまったんだから……。


 くっ、高校生にもなって漏らすなんて……。


 俺はやるせなくなって軽く涙する。


 どうしてこうなった? 漏らさずに済む方法はなかったのか?


 今更意味のない後悔をしながら、椅子に座って自らの粗相で汚れたズボンとパンツを洗う。


 母さんの作った最強消臭洗剤の効果なのか、嗅覚を刺激していたアンモニア臭がどんどんとなくなっていく。


「はぁ……」


 だが、自然と溜め息は出る。

 いくら臭いが消えても、青姉の前で漏らしたという事実は消えないのだ。


 身体を清めるシャワーのお湯が温かくて、それがなんか余計に俺の心を蝕んだ。


 コンコン。


 お風呂場の扉を誰かがノックする。


「…………」


 なかなか返事をする気が起きず無言でいると、


「り、鈴? だ、大丈夫か?」


 という青姉の声が聞こえてきた。


「……大丈夫だよ」


 返事はしたが、もはや大きな声を出す気力すらもうない。もしかするとシャワーの音にかき消されて青姉には聞こえなかったかもしれないな。


「ほ、本当に大丈夫か?」


 なおも青姉は聞いてくる。どうやら心配をしてくれているらしい。すごくありがたい。

 けれどその心配が余計に、俺のやるせなさと悲しみを増幅させる。


 青姉が服を脱ぎ出すまでは――。


「は、はぁ!? あっ、青姉、なな、なにしてんの!?」


 俺はあまりに理解不能な状況に、お漏らしをしたことなど完全に忘れて、扉の向こうで一枚、また一枚と服を脱ぐ彼女に問いかける。


 な、なにしてんだこの人! ば、バカなのか!?


 あまりの事態に驚く俺を余所に、青姉は清々しいくらいはっきりと答えた。


「鈴と一緒にお風呂入るんだよ!」


 ……えっ?


「な、なに!? な、なんて!? い、意味がわかんないんだけど!?」


 俺は素っ裸で扉を押さえる。扉越しでぼやけているため完全にはわからないが、おそらく青姉は下着姿になっている。


「鈴、開けろ!」


 彼女は下着姿のまま扉をガチャガチャと押し、お風呂場への侵入を試みる。


「あ、青姉、なんでこんなことするんだよ! 恋人でもない年頃の男女が一緒にお風呂なんてどう考えてもおかしいじゃん!」


 俺は必死で扉に体重をかけながら、予想外の行動に出た青姉に言い聞かせる。


「おかしくない! 鈴は私がトイレに入っていたせいでお漏らししたんだ。だから私が後始末するのはおかしくない!」


 たが青姉は俺の言葉に反論し、先程よりも強く扉を押した。一瞬だけ青姉の力が俺の力を上回ったのか少しだけ扉が開く。


「ちょちょちょちょまっ!」


 危うく青姉に裸を見られそうになり、俺は慌てて力をかけなおす。


 あっ、焦ったぁ……! 


「あ、青姉のせいじゃないから! おかしなことしないで! そ、それに、そんな格好で入ってきて後始末って、い、一体俺になにをする気なんだよ!」

「なにって、汚れた場所を洗うに決まってるだろ!」

「決まってないわ! というか汚れた場所ってもろアウトな場所じゃないか!」


 お漏らしで汚れる場所。それすなわち下半身である。

 すりガラス越しとはいえ大好きな青姉の脱衣シーンを見せられてただでさえ興奮しているのに、直接下着姿の青姉に洗われたりなんてしたら、たた、大変なことになってしまう。


 青姉に洗われる……ごくっ。


 その状況を想像してとてつもない期待感を覚えてしまう。


 ってダメダメ! こんなにダサいのが最初は絶対嫌だ! 


 危うく流されそうになる自分を諌め、緩みそうになった力を込め直す。


「アウトだろうとなんだろうと、私が鈴の体を洗うんだ!」


 青姉も頑として譲らず、扉を押し続けている。


 な、なんでそんなに頑ななのか!


「ば、バカなの!?」

「あぁけぇろぉーー!」

「ぐぬぬぬぬぅ」


 や、やばい! こ、このままじゃ押し負けてしまう。

 あ、青姉はど、どうすれば諦めてくれる?


 力の弱い自分を呪いつつ、俺は解決策を考える。


 た、たぶん青姉は責任を感じてなにかしてくれようとしてくれてるんだよな? だ、だったら別に一緒にお風呂に入らなくても、ほ、他の方法を用意すれば良いのでは?

 

 よ、よし! そうと決まれば俺がすることは一つだ。


「開けろぉぉ!」

「あ、青姉ストップ! ストーーップ! は、話があるんだ!」


 一心不乱に扉を押す青姉に大きな声で対話を要求する。


「なんだよ!」


 彼女は不服そうに叫びながらも、扉を押すのはやめてくれた。


 と、とりあえず安心。

 俺は一度深呼吸をして、青姉に尋ねる。


「青姉はトイレに入っていたことを悪かったと思って俺の体を洗おうしてくれてるんだよね?」

「ああ」


 青姉は腕を組んで右足をトントンと揺すって頷く。思い通りにいかなくて相当イライラしているらしい。

 俺は急いで続きを話す。


「じゃ、じゃあ! 体を洗うんじゃなくて他のことにしてくれない?」

「なんで他のことにしないといけないんだよ。私に洗われるのがそんなに嫌なのか?」

「ち、違うよ。ただ青姉みたいな美人に体を洗われたら理性を保つ自信がないから他のことにして欲しいんだよ。だから、青姉、お願い!」


 俺は自分の胸の内を正直に伝え、お願いする。


「び、美人っておまっ。も、もう、仕方ないな。わかった。他のことでも良いぞ」


 すりガラス越しの青姉は突然もじもじし始め、意外にも案外すんなり俺のお願いを聞き入れてくれた。


「それで他のことってなんなんだ?」

「そ、それは……」


 特になにも考えていなかった為、返答に困る。


「なんだ? なにも考えてないのか? それじゃあやっぱり体を洗って」

「考えてる! 考えてるから!」


 再び中へ押し入ろうとする青姉を諌めつつ、俺は脳をフル回転させて青姉にしてもらう

いたいことを考える。

 なんとか思いついた。


「み、三つだけ俺の言うことをなんでも聞いてくれる。なんてどうかな?」

「んー」


 青姉は小さく唸った。

 さすがに三つは調子に乗り過ぎたか?

 そう思い、一つだけに変更しようとしたところで、青姉は、


「わかった。それでいい」


 と頷き、服を着始めた。


「それじゃあ、なにかして欲しいこと思いついたら言えよ」


 数秒後、全ての服を着終えた青姉はなにごともなかったかのようにあっさりと脱衣場から出ていく。


「良かった。なんとかなった」


 俺は安堵し息を吐く。と同時に、自分の息子が直立していることに気づく。


「ま、まぁあんなの見たら仕方ないか」


 この後、俺は自分で体を洗いお風呂を出た。息子をどうしたのかは言わないでおくよ。

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