8話
次にルカとルエラは並列する救護区域を見学することにした。
集められた聖女候補たちは、神官たちに混ざり、怪我人に治癒魔術を使って治療していると参列する信者たちの話を聞き耳したためだ。
儀式の前に何故そんなことを?と疑問に思うが、よくよく考えれば当然の行動だった。自分の魔力ー--聖力の強さを示し、慈悲深く高潔な姿勢を見せることで目に留まろうと努力しながら、お互いを牽制しているのだ、彼女たちは。別の選考試験があるため一見無駄な行為ではあるし、下心ありきの行動ではあるが、自分が将来有望であるとアピールできる絶好の機会なのだ。
これといって聖女候補に興味はないルエラとルカだが、夢の内容もある。顔は判明しなくても、声だけは微かにだが聞いて覚えている。手掛かりにならばいいな、程度の観察だ。
救護区域にいた聖女候補と思わしき少女は五名。その中で一人、明らかに立ち居振る舞いが他とは異なる少女がいた。
見た目から推測される年齢は十六歳程度。色味の薄い金の髪に淡い緑の瞳をした綺麗な顔立ちの少女だ。怪我人への対応の的確さは元より、姿勢の良さ、立った際の体の裁き方から上流階級の生まれなのは聞かずともわかる。彼女が例のディーウェスの第二皇女だろう。
はて、名前を聞き忘れたな、とルエラがルカを仰ぎ見ると、苦笑を漏らした。
『彼女はクリスティーナ・エルシア=ディーウェス。兄である皇太子とは双子の兄妹だね』
ほう、双子。身近に双子がいないルエラにとって、新鮮な響きだ。
似ているのかな、と内心浮足立つが、ルカが否定する。
『二卵性の、しかも男女の双子だ。いうほど似ていないよ。どちらも母親似だそうだから、全然似てない、と事はないだろうけどね』
『へえ・・・』
ちょっと残念そうに頷いた。
『クリスティーナ皇女のことは知らないけど、クリスティン・ウィル=ディーウェス皇太子は、優れた魔術の使い手として有名だね。特に水と風魔術を得意と聞くから、治癒魔術は言うまでもないだろうね』
治癒魔術は基本的には光魔術に属するとされるが、水系統魔術の系譜ともされている。
人体に含まれる水分に働きかけることから、水魔術でも効果がある・・・との論文結果だが、生憎と言い回しが難しくてルエラには全てを理解できていない。そしていうまでもなく論文を発表した主はルカである。
『兄のクリスティン・・・面倒ですね。クリス皇太子でいいですか。何故皇太子の話題を?』
ルエラはディーウェスの皇族の家族構成を知らない。敢えて知らない情報を共有するのだ。何かあるのだろう。
案の定、ルカはうん、と頷いて肯定した。
『だってあの子、妹のクリスティーナ皇女じゃなくて、兄のクリスティン皇太子の方だろう』
「は?」
思わず思念伝達を中断して声に出してしまった。なんて言った、この人。
『私が知らない、ってことは、クリスティーナ皇女は魔術の才があまり無い。反してあそこにいる子は膨大な魔力量を有している。・・・ついでに言うなら、成長途中だから少し曖昧だけど、あれは男の骨格だよね』
ー--私の師匠は骨格で男女の見分けがつくのか。
変態か、と内心思ったが、敬愛する師匠なので、賢明に口を噤んだ。ばれていたのか頭を小突かれた。