6話
項垂れてしまったルカをよそに、繋いだ手をゆらゆら揺らしながら、女ー-後から名を聞いたらシイナだと名乗られた。確かにオノール国の生まれの女性らしくない名前だったー-を見上げた。
「そういえばご婦人。随分と人の通りが多いが、いつもこんな感じなのだろうか?」
「うん? ・・・ああ、お嬢ちゃんオノールは初めてかい。そうさね、・・・まあ、大体こんなもんだが、ここ最近はさらに増えてるね。なんせ新しい聖女様を選ぶってんで、過去国から選りすぐりの聖力を持ったご令嬢が大教会に集められているからね。一目見ようと野次馬に待ってるのもいるよ」
「・・・聖力」
とは何ぞや、とルカに視線を向ければ、思念伝達と呼ばれる魔術で答えがあった。
『聖なる力のことだけど、ようは魔力を言い方を変えただけだよ。人を癒すことに使う魔術を神聖魔術、それ以外を魔術と区分することで、自分たちの持つ力は神から与えられた特別な力だと差別化することで信徒の歓心を得ているんだろう』
なるほど、と頷く。
シイナは自慢げに大教会を指さす。
「ほら、あそこが大教会さ。あたしも元々は別の国から来たんだが、オノールは信仰深い神官様たちのおかげであまり諍いがないんだがねえ。聖女様は戦争とか魔物が発生した国や街に積極的に足を運んで人々を癒すってんだから、ほんと神様から選ばれた方なだけはあるさね」
どうやらシイナも信仰心の強い信徒であるらしい。
これはヘタな発言をしないほうが得策だとルエラは口を噤んだ。
代わりに引き継いだルカは、へえ、と軽く相槌を打つ。
「聖女様といえば、亡くなられた先代の御年は何歳だったんだい?」
「えー・・・確か、三十二、とかそこらじゃなかったかねえ。若くしてお亡くなりになったはずだよ」
「在位は?」
「十五歳で選出されたから、十七年だね。この国にきてすぐの祭典での即位だったから、よく覚えてるよ」
ほー、と相槌を打つ。
危険な場所へ赴き、尚且つ他の魔術と比較して膨大な魔力量が必要とされる治癒魔術を行使し続けた女性にしては、長生きなのではないだろうか。現に、過去の聖女はもっと短命だったはずだ。二十代半ば、低いと即位してすぐ、十代でこの世を去った者もいたはず。それとも教会が厳重な守りの中派遣していたのか。それにしたってよく亡くなるまでの十七年間、聖女としての役目を果たしたものだ。
思案しながらも、ルカはにこやかに話を続ける。
「今回の聖女候補は、今何人ぐらいか知っている?」
「今のところ7人と聞いてるよ。大教会に張り紙があるからね、それで確認できるさ。それより、今回は凄い方がいらっしゃるんだよ」
興奮した様子で捲し立てるシイナに、笑顔で促した。
「なんでも、隣国ディーウェスの第二王女様がいるっていうんだ。美しい金の髪に、緑の瞳のとびっきり奇麗で心優しいお姫様だそうだよ。オノールではお姫様の話題で尽きないくらいだよ」
「隣国の姫・・・ね」
ディーウェスといえば、教会に属する国ではないものの、同じ神を祭る魔術の栄えた国じゃなかったか。
そんな国からの儀式参加とは、何か裏があると邪推せざるを得なかった。