21話
転移魔術を潜ると同時に光と水系統魔術の混合、『幻術』で姿形を変え、まんまと入れ替わって見せたルカとルエラは、クリスティンから付かず離れずの状態で護衛をしつつ、風系統魔術『風読み』で高位神官たちの会話に聞き耳を立てることに専念することにした。護衛兼従者が近接な関係ではおかしいだろうと若干距離を取りつつではあったのだが、思うところがあるのか護衛対象者から不満げな視線を向けられたがすまし顔で黙殺する。
『ザッ・・・ザザ・・・、では、こちらに運ばれてくると?』
『その予て・・す。ザザッ・・・は、お任せくだ・い』
『では、我らも、向か・・しましょ・』
異音交じりの音声が耳に入ってきて、思わず顔を顰めたが直ぐに表情を真顔に戻す。徐々に良くなるが、風の通りが悪く聞こえ辛い。
今拾っている音は教会の最上階に近い一室。教皇の部屋だと思われる。
何か不穏な計画のやり取り・・・ではない。どこか切羽詰まったような声音だった。ー-ー何が起きている?
『師匠』
『うーん。ちょっと待って。周辺を『千里眼』で確認してみる』
光と風、水の混合魔術、『千里眼』は、文字通り遠くで起きている事象を視ることが出来る。脳に直接映像として情報を流すため、酷い時は耳鳴り、目の奥の痛み、頭痛に見舞われることがあるので正直言って得意な魔術ではないが、文句を言っても仕方がない。僅かな魔力でとっとと術を展開した。
人の多い街道、森、あまり大きくない湖、次々に切り替わる映像が、一つの商団だろうか、団体を映し出す。
百人には満たないが数は多く、七割方男で構成されているその団体は、どうやら魔物に襲われたのだろう。荷馬車が幾つか半壊し、その付近にも数名大怪我を負ったものが倒れている。商団に雇われたギルドの冒険者が護衛についていたのだろう。折れた武具が散乱している。死者もいるようで、倒れ伏した男に覆いかぶさるように泣き縋る女子供の姿も見えた。そして、商団の上役だろうか、思い詰めた面持ちで数人と話し込んでいる。その中に、オノール教会に与する警護団の制服を纏う男の姿も見えた。
『ここから少し離れた山道で、魔物に襲われた商団がいるね。警護団と話しているし、どうやら手当の為にこちらに来るようだ。ー--これ、聖女候補たちに手当させる気か』
『人数は?』
『ざっと七、八十人かな。これ、どう考えても聖女候補だけじゃ荷が重い気がする。重症者の数も思ったよりも多いし』
『その情報、教会側は?』
『すでに知ってる。鷹か何か飛ばしたかな。高位高官がこちらに降りてくるから、一応手は貸すのだろうけど・・・』
全員が全員、治癒魔術に適した属性を得意としているわけではないだろう。一体何人、治癒に長けていて、尚且つ魔力量が多くなければ、大勢の負傷者を直すことなどできない。しかし万が一、救えるはずの命すら取りこぼすことになれば、怪我人の受け入れで多少の面目は立っているだろうが、魔力と治癒魔術師が足りなくて救えませんでした、なんて、助けを求めし者を一人でも多くの人を救うことを教義とする教会側としては威信に関わのだ。下手な手を打てない状況なのである。
でも、魔物の種類によっては毒や呪いを持っているのもいるし、迂闊に手を出すと逆効果なんだよな、とルカがつらつら思考に耽っていると、その合間にルエラがクリスティンに簡潔に今の状況を説明していた。痒い所に手が届く優秀な弟子である。
『師匠、一先ず、人数の把握と、魔力量の目測をしておきますか? それによってプランを立てるとか』
『うーん・・・いやね、別に私たちが手を貸す理由がないんだよ。教会に貸しを作ったところで回収は出来ないし、魔術師なのがばれて芋蔓式に素性が明るみになると、面倒なことになるだろうし・・・』
『ー--でも、見捨てたくはないのでしょう?』
いたずらっ子のような笑顔を向けるルエラに、盛大に溜息をついて肩を落とした。
『損な性格だな、私は・・・』
『そういうところを尊敬していますので、そのままでいてくださいね』
口説かれてるのかな、と少々呆れと虚無感を感じつつ、対策を練らんと再び手を動かしつつ思考の海に戻っていった。




