17話
ルエラが軽い足取りで寝台に近寄り、クリスティーナの顔を覗き込む。そしておや、と声を上げて振り向いた。
「魔力欠乏症か何かでしょうか。随分と魔力量が少ない」
「・・・欠乏症ではないな。・・・枯渇してるんだろうね」
予知系の異能は、基本的に膨大の魔力が必要のはず。詰まる所、似たような異能を持つルエラの魔力保持量が年齢にしては多すぎることになるのだが、その件に関しては別の事情がある。
生まれつき魔力量が少ないことから発生する、魔力欠乏症の対となる症状が存在する。過剰な魔力が体内で生成されてしまう症状、魔力過多症だ。ルエラは軽度の魔力過多症を発症していることは、早い段階でわかっていた。なんせルカが重度の魔力過多症だからだ。
解決策は過剰な分の魔力を使うこと。ルエラの場合、少し魔術を使用すれば解消される症状も、ルカの場合は大規模魔術を使用しないと体調にまで影響を及ぼすほど、異常な速度で魔力を作り出してしまう症状だった。
魔術協会を出た理由の一つがこの魔力過多症にあり、現在居住の塔を構築、維持する魔術と、結界、隠蔽、幻術など、複数の魔術を使用することで何とか調整を取っているのだ。
一方の魔力欠乏症の解決策は、至って簡単。不足している分の魔力を補充してやればいい。魔力が何らかの事情で枯渇している場合も、同じ手段が取られる。
魔力が枯渇している今のクリスティーナの状況は、ルカにとっては簡単に解決できる問題だった。
「フェル先輩、今から彼女に不足分の魔力を供給します。多分、それで目覚めるとは思いますけど、異能がある以上、今後も同じ状態に陥ることがあると思います」
「・・・異能を使わなくする他ないか?」
「いや、それは無理でしょうね。異能は、当人の意思をもって行使しないと使えませんが、異能は本能。自身の意思は必要ありませんから」
重々しく問うフェリクスに、ルカは軽い調子で首を振った。
「異能の術式自体を書き換えることは出来そうですが、それより、魔力操作を身に着けた方が確実でしょう。もしくは専用の魔道具を使うか。・・・まあ、その相談はまた後にしましょうか」
「気になる言葉が聞こえたが・・・すまん、頼む」
少々爆弾発言を落としながら、ルカは徐に片手を胸の前まで上げる。クリスティーナの身体の上に、複雑な呪文が組み込まれた魔術陣が展開した。手を繋いで供給するやり方もあるが、血液型と同じで適合するかは相性で決まる。今回使用する魔術は分け与える魔力の質を組み替え、相手に合うように調節するものだ。偶にガス欠を起こすルエラに供給する時は陣を使わないから楽なんだけどね、と余計な感想を抱きながらちょいちょい、と指を指揮者のように動かして陣を微調整する。ー--準備は整った。
無言で徐々に陣に向かって魔力を流していく。いきなり膨大な量を流しても、陣が対応出来ずに拒絶反応を起こす可能性があるからだ。金色の粒子状の魔力がクリスティーナの身体に降り注ぎ、吸い込まれていく。
「ユリシーズ様の魔力、綺麗だな・・・金色なのか」
「皇太子は治癒魔術を使用できていたが、属性は水か風か?」
「ああ、水の属性が強いな。父上は風だ」
「あれ程の純度の高い金色の魔力色、そうそうお目にかかれんぞ・・・」
通常、簡単な魔術を使用した程度では魔力は幻視することはないが、今回のような特殊な使い方をする時だけ稀に色として見ることが出来る。その幻視した色のことを属性色という。
その色は様々で、七大属性の光、闇、火、水、風、土、木(樹)があり、その中の自身に最も適性がある属性色に幻視すると言われている。
ルカに最も適性があるのは光。金色の属性色がその証拠だ。七大属性の中でも光と闇の適性を持つ者は少ない。魔術協会でも光資質を持つ者はルカだけだった。それぐらい、希少価値の高い魔力属性なのだ。
キラキラと光を放つ最後の魔力がクリスティーナに吸い込まれた。
ルカはぱっと手を逸らし、フェリクスとクリスティンに場所を譲る。魔力を流す中で、目覚めの兆候があったのだ。意図を察した二人はすぐさま駆け寄り、顔を覗き込む。
「ティナ・・・?」
震える声が妹の名を呼んだ。最後に触った時冷たかった手が温かい。思わず握る手に少し力が入った。そてに対し、ぴくりと反応が返る。瞼が震え、クリスティンと同じ淡い緑の瞳が現れた。
「ー--」
吐息のような声だった。長期間使われていなかった喉が、音にならなかった。それでも。
「ティナ・・・!」
唇の動きは、確かに自分の名を呼んでいた。




