13話
ルカが熟考態勢に入ってしまった為にやることがなくなってしまったルエラとクリスティンは、取り合えず人が来ることに注意しつつ、お茶のお代わりをすることにした。
一応皇太子相手だと認識はしていたので、ルエラが魔術でさっさと湯を沸かし、ぎこちない動きでお茶を入れたのだがー--ルカが思考の海から戻っていれば全力で止めただろう。
クリスティンは激渋のお茶の洗礼を受けることになった。
時間にして数分程度、漸く意識がこちらに戻ったのか、重々しく息を吐き、頭をがりがり掻きながら顔を上げた。渋面を作るルカに気が付き、ピョン、と勢いをつけてソファーを飛び降りると、保温の魔法をかけておいたティーポットから紅茶を注ぐ。
「考えは纏まりましたか、師匠」
「うーん・・・多分。確証がないから、断言できないのが、ちょっとね・・・」
確か自分は一度,ティーポットを空にしたはず。つまりあれはルエラが入れたお茶か、と瞬時に把握したルカは、笑顔を作りながら異空間収納に入れていたミルクと蜂蜜を静かに紅茶に入れる。そうでもしないととんでもなく渋いので飲めないのだ。ー--すでに犠牲者が口を押えてソファーの上で蹲っていることが哀れだった。
使っていた口を付けていないスプーンで再度蜂蜜を掬い、顔を上げさせたクリスティンの口にしれっと突っ込み、さて、と強制的に本題に移る。口直しを得た方はと言えば、真面目な表情を作るが、咥えられたスプーンで台無しだった。
「クリスティーナ皇女の状態についてだけど、今まで例がないから発言は控えるけど、おそらく異能が関係しているとは思う。・・・皇太子殿下、一度私たちを連れて国へ戻ることは可能かい?」
「えっ、と・・・可能、です。皇族ですから、公務があると言えば、数日帰るぐらいなら問題ないかと」
「では、そのつもりで対応してもらえるかな。念のため、皇女が動けるようにした方が無難そうだから」
「・・・師匠、何かあるとお思いですか?」
含みのあるルカの発言に、少し緊張が走る。
「クリスティン殿下のしていることは、ばれれば国交問題になる。そもそも、何故クリスティーナ皇女が聖女候補に名を連ねている? 交流こそあっても、同盟を結んでいないんだろう?」
「あ、はい。同じ神を信仰していても、ディーウェスは一神教ではありませんから、志を同じくすることは難しいと、父皇がずっと同盟をかわしています。
何より幾つもの国で出来ている西大陸最大の宗教国家で、貿易の中心となってはいますが、正直な話、オノール自体は先進国ではありません。文化、魔術技術において、他国と比べれば劣っているの一言に尽きます。
今回、妹に聖女候補の話が回ってきたのは、国が出来た当初からどうにもきな臭さを感じていた父が、最近になって公公然となってきたようだと、影からの報告を受けたのと同時期でした」
元々、ディーウェス国皇帝はー--国王ではなく、皇帝。国が建国された当初、ディーウェス皇国と呼ばれていた名残であるー--オノールに対して不信感を抱いていた。
発展しない文化、魔術、国土が丁度貿易中継地点として適していただけで、本来ならば相手にするのも烏滸がましい国、それが周辺諸国のオノールに対する評価である。別に、何かしらの誇りがあって発展を拒んでいるのなら気にすることはないが、その割には宗教の普及には懸命で、その為なら貿易の拠点となることも辞さない。矛盾した国政を布いている。疑ってくださいと言っているようなものだと、警戒するのも頷けた。
つまり、何の疑いもなく世話役として同行した密偵を潜ませるために、聖女選定の義を執り行うにあたって、どういうわけかクリスティーナにお鉢が回ったのをいいことに敢えて潜入させたのだと言う。勿論、影を護衛としてつけて周囲を囲んだ上での敢行だったそうだ。
それがまさか、昏睡状態に陥り、皇太子自ら身代わりとして潜入することになったのだから、運命とはわからないものである。
「ああ・・・だからさっきから視線を感じるんだ。影が天井から様子を窺っていたんだね」
「師匠・・・わかっていたんなら、もうちょっと言動に気を付けた方がよかったのでは?」
「ルエラ嬢・・・気づいていなかったとしても、その台詞はブーメランだ・・・」
どっちもどっちだ、と天井裏に潜んだ影が思ったとか、思っていないとか。




