11話
クリスティンは諦めて肩を落とした。
「その・・・何から話していいか・・・。
まず、『異能』に関してなのですが、ユリシーズ様の方がお詳しいですよね」
「うん。今私が着手しているのが、まさにそれのことだからね」
「・・・妹は、魔術の才こそありませんが、異能を一つ持っています」
成程、と相槌を打つしかなかった。
異能とは、魔術を行使する際に必要となる術式や詠唱ー--ルカのように全く使用しないものも多数いるー--を使用することなく、生まれつき使用することが可能な一種の才能のことを指す。ルエラの夢も、現在わからないことが多いため断言はしないが、異能とされている。
異能を持っている者の中には国に繁栄をもたらすとされ、国賓扱いとして国に保護される。ルエラのように、一部の魔術師の元で才能を磨いたりと、例外こそ存在するが、基本的に判明すれば国や魔術協会を筆頭とした組織の保護対象になるのが通常だ。
「ティナは、ふとした拍子に映像を見るのです。その内容は予知としか思えないものばかりで、俺も、昔からティナの夢に助けられてきました」
ディーウェスの先代国王の正妃、皇太后は、夫との間に子供に恵まれなかった。その為側室を迎えることになったが、直ぐに懐妊。現国王である皇子が誕生したことは有名な話である。
自分の子供ではなく、自分が成せなかったことを成した側室の子供が国王になったことを許せず、さらに皇族らしからぬ庶子のようなふるまいから、クリスティンは生まれた時から皇太后から毛嫌いされてきた。暗殺者、毒殺など、血の繋がらない祖母が亡くなるまでずっと差し向けられてきた悪意から身を守ることが出来たのは、両親が護衛を増やしたり周囲に目を配らせたりと対処していたこともあるが、最も近くで守ってきたのはクリスティーナに他ならない。
『兄様、そのお茶、飲んだら駄目よ』
初めはそんな忠告から始まった。
何故? と問えば、兄様が死んでしまう気がした、と青い顔で返答される。なんだ、それ、と笑って砂糖を入れ、側仕えが準備した銀製のスプーンを紅茶に浸してみれば、変色したそれ。毒を混入されたのだ。
それから度々、クリスティーナから予言という名の忠告が発せられることになる。
『いつもの道を通ってはいけない』
『お菓子のクッキーを食べてはダメ』
『今日の外出は止めて。無理なら時間を早めて。・・・危ないわ』
今にも泣きそうな声音で、思い詰めた顔で、クリスティンに言うクリスティーナ。何時だって、側にいて、誰よりも味方の最愛の妹。そんな顔をさせたくないのに、立場がそれを許さず、暗殺が失敗したとなれば新たな刺客が送られる。異能がまた映像として警鐘を鳴らし、危険を伝える。その繰り返し。
ディーウェス国 第二皇女 クリスティーナ。彼女の異能は、限られた対象に関する『未来視』である。




