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160802 風邪をひいたら子供の頃はよく遊んでもらったけど今は疎遠になってる近所の眼鏡のお姉さんに看病頼みたい

┗□1/6□┛


 風邪をひいて心細い。こんな時は誰かに看病してほしい。妹……? メイド……? 獣人の家政婦さん……?

 そうだ。どうせなら、子供の頃はよく遊んでもらったけど今は疎遠になってる近所に住んでる眼鏡のお姉さんがいい。

 無口だけど、時々笑った顔が可愛かったんだよなあ。今どうしているだろう……。

 と、38℃の頭で考えていると、夜だというのに突然、呼び鈴が鳴った。

 ゼイゼイ死ぬ思いで布団を這い出し、ドアを開けると、そこには、ラフなTシャツとパンツルックの、すっかり大人へと成長した子供の頃はよく遊んでもらったけど今は疎遠になってる近所に住んでる眼鏡のお姉さんが立っていた。




┗□2/6□┛


ぼく

「や、やあ……。ひ、久しぶり……ゼイゼイ」

お姉さん

「ん……」


 やっぱり無口だ。子供の頃と変わってない。


ぼく

「でも……何で急に? ゼイゼイ」

お姉さん

「……」


 視線を逸らされ、無言で返されると、もうどうしようもない。

 どうにか意思疎通しようと、次の言葉を探していると、眼鏡のお姉さんは勝手に部屋に上がり、おかゆを作り始めた。

 これは……看病しに来てくれたのかな?

 いきなりで驚いたけど、これは……ありがたい……。

 お姉さんは慣れないキッチンに戸惑っている様子だったので、食器の収納場所を教えようとすると、


「ん……寝てな……」


と抱き寄せられ、ベッドに連行されてしまった。

 途中、むにゅっと柔らかいものが二の腕に触れた。……胸だった。お姉さんも大人になって、体の色んな部分が成長してるみたいだ。


(しかし、こうして会うのはいつ以来だろう……?)


 熱にうなされながら、記憶の糸を手繰ってみる。でも、寝室を出るお姉さんのパツパツのパンツルックと揺れるお尻を眺めていたら、そんなの、もうどうでもよくなってしまった。




┗□3/6□┛


お姉さん

「……おかゆ、できたよ。……起きれる?」

ぼく

「む、無理……ゼイゼイ」

お姉さん

「……じゃあ、寝ながら……食べれる?」

ぼく

「む、ムリ……! ゼイゼイ」

お姉さん

「……つかまって」


 お姉さんに弱った体を支えられて、再度キッチンを目指す。途中、お姉さんの長い黒髪がふわりと顔にかかった。

 お姉さんの髪はいい匂いがした。


ぼく

「そういや姉ちゃん……将来の夢……お嫁さん……だったよね? ゼイゼイ」

お姉さん

「……」


 今の自分は病人なのに、久しぶりに再会したお姉さんに魅力を感じてしまった。

 とっさの照れ隠しに、蘇った子供の頃の記憶で誤魔化してみたけれど、お姉さんはそれには応えなかった。

 キッチンのテーブルに隣り合って座ると、お姉さんは蓮華で掬ったおかゆを吐息で冷まし、何度も何度も僕の口に運んでくれた。

 息を吐くたび曇る眼鏡が、可愛かった。


ぼく

「も、もういいや……ありがと……ゼイゼイ」

お姉さん

「……。…………」

ぼく

「…………? ゼイゼイ」


 僕が食べ残したおかゆを見つめて、お姉さんは、何かを考えていた。

 そして。

 お姉さんは、僕が口を付けた蓮華を自分の口元へ運び、パクリと食べた。

 あっけに取られていると、お姉さんは、


「……味見」


と、なんだかよくわからない言い訳をした。




┗□4/6□┛


 突如、病に陥ると、人間はヘンな事を考える。

 目まぐるしい出来事と、風邪による高熱。頭の中身がぐるぐるして、わけがわからない。

 ……僕はとうとう、おかしくなってしまったらしい。


「ねえちゃん……ボク、……僕っ……!」


 叫びながら僕は、隣に座るお姉さんのふとももに、つい、手を置いてしまった。

 やってしまった……。強制わいせつは、6ヶ月以上10年以下の懲役だ。

 でも──。


「んっ…………寝てて」


 お姉さんは、その手を握った。

 そして愚かなる病人を、再びベッドへ戻して寝かしつけた。

 お姉さんの手はひやりと冷たかったけれど、その薬指に、指輪は見当たらなかった。

 口数は少ないが感情はなんとなく読み取れるのは、子供の頃に同じ時間を共有したからだろうか……?

 キッチンで洗い物をしてくれる眼鏡のお姉さんのお尻に浮かぶ下着のラインとTシャツに浮かぶブラ紐を眺めながら、そんな事をぼんやりと考えていた。




┗□5/6□┛


「……じゃあ……帰る」


 お姉さんは病床の僕に、聞きたくない言葉を届けに来た。

 親切な眼鏡のお姉さんは、僕のために、明日の朝食用のおかゆまで、こしらえてくれていた。

 これだけでも感謝しても足りない程なのに、気の弱った病人は、ずけずけと、


「ねえちゃん、側にいて」


帰ろうとするお姉さんの手を握り、引き止めてしまった。

 お姉さんは驚いて、嬉しいような困ったような顔をしていたけれど、その手をきゅっと握り返して、


「……ひとりでも……大丈夫だよ」


僕が子供のころ大好きだった、あの素敵な笑顔を見せてくれた。


「……また明日も来るから、ね」


 そう言ってドアを閉じるお姉さんの背中は、どこか弾んで見えた。




┗□6/6□┛


 玄関でお姉さんを見送った後、しばらくボーっと突っ立っていたけれど、ああ寝なくちゃと思い出し、足を引きずり寝床を目指した。

 どうやら僕……熱のせいでどうにかしちゃったみたいだ……。

 お姉さんが去ったあと、体の一部分に生じた大きな変化に戸惑いながら、あれこれ言い訳を考えていた。

 途中、キッチンのテーブルに何かが置いてあることに気付いた。白紙のメモのようだけど……。裏返すと、


【こらっ! スケベなこと考えてないで、早く治しなさいよね、バカ弟っ】


って書いてある。

 読んだ瞬間、蘇る記憶。

 そういや姉ちゃん、交換日記と普段とで、別人になるんだっけ……。

 キャラ全然違うじゃねーか!

 とツッコミたいほど茶目っ気たっぷりのそのメモは、僕がよく知る、子供の頃の近所の眼鏡の姉ちゃんそのままだった。


(あー、そういやこういう人だったわー……)


 僕はニヤニヤしながら布団に倒れ込み、幸せな眠りに就いた。




   おしまい


┗□-□┛

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