230912 熱中症になったら子供の頃はよく遊んでもらったけど今は疎遠になってる近所の眼鏡のお姉さんに介抱されたい
──油断した。
汗が出ない。体が火照る。お腹が痛い。熱は無い。頭がボーッとして、ふらふらする。
主訴に個体差あれど、熱中症の症状だ。
夏が過ぎ、近頃すっかり秋めいた。日射しが弱まり、夜風が涼しい。冷房を止めて寝る日が増えた。塩分摂取を過剰に感じ、控え始めた。──そこを突かれた。
起き上がれない。お腹が痛い。喉が渇く。この苦しいまま、死ぬんじゃないかと不安になる。誰か。誰かそこのドアを開けて。助けに来てくれないか。
……そんな、都合のいい事。あるわけない。こうなったのも。自分のせい。自己責任だ。厳しい環境に、適応できなかった。僕はここまでだ……。
ガチャ。
あれっ。玄関のドアが開く音。確か、鍵をかけたような? ……どうだったか。記憶が混濁する。ここはワンルーム。廊下兼キッチンを歩く足音。誰だろう。親? 兄弟? ……来るわけない。もういいや。泥棒でも。いや待てよ。もし、ケツの穴をほじくって殺す殺人レイパーだったら……。お、おまわりさ!
ガラッ。
「…………来た」
現れたのは、刃物男でも、レイパーでもなく。
子供の頃はよく一緒に遊んだけど大人になった今ではあまり顔を合わさなくなった近所に住んでる眼鏡の可愛いお姉さんだった。
◆
「……水分摂って」
眼鏡のお姉さんが、袖の無いシャツのボタンを解いて、胸を開き、ブラジャーを上にずらして、乳房をぽろんと出して、布団で寝ている、僕の上に覆いかぶさり、左胸の乳首を、僕の口に含ませた。僕は唇で、お姉さんの乳首を挟み、口をすぼめて、お姉さんの乳首をちぱちぱ吸った。けど、母乳は出ない。
って、いや、そうじゃなくて!!!
「ぷはっ。な、なな、何やってんのーー!?」
「……間違えた」
お姉さんは慌てて姿勢を正した。床にぺたんと女の子座り。俯き、そそくさと着衣を直す。顔が真っ赤。眼鏡の奥で目が泳ぐ。
……天然か? 誘惑か? 遊ばれたのか? 真意は分からない。お姉さんは持参した買い物袋から、スポーツドリンクを取り、並べ始めた。見ながら僕は、お姉さんの左乳首の感触を思い出した。……しょっぱかった。
いや、だから、そうじゃない。
「どうして来てくれたの?」
疑問を投げる。前回、来てくれたとはいえ。ずっと疎遠のお姉さん。
「……」
無言で返される。僕を見つめて。『察しろ』って事なのか?
(察しろ、ったって、なぁ……)
体を起こす。もやもやと煮え切らない感情に支配されつつ、スポーツドリンク入りのボトルを手に取る。買ってくれたお姉さんに「ありがとう」と伝えて、半分ほど飲む。呑み口に唇は付けなかった。……後が怖いから。
◆
冷房の効いた部屋で水分補給してもすぐに熱が取れる訳じゃない。頭の火照りを抱えたまま布団に身を沈ませる。自由意思で動けない屈辱。はー。大の男が情けない……。
お姉さんは夕方に来て、日が暮れても残ってくれていた。時折うちわで扇いでくれたり、持参した冷や麦を茹でてくれたり。僕が「ごめん食欲なくて」と伝えると、独り寂しげにズルズル啜っていた。……ごめんね。
……。
眠っていたようだ。1時間? 2時間? 気分はいい。体の火照りも取れたらしい。お姉さんを探す。……僕の隣で寝ていた。タオルケットを分け合って、2人並んで眠っていたみたい。猫みたいだな、と苦笑しつつ僕の分のタオルケットを掛けてやる。
女性にしては身長高め。スラリと長い手足に肉付きの良いお胸とお尻。肌は平均よりも色白だと思う。自分で切ってるぽい黒髪はずるずる長くて、後頭部で結んでる。今日は水色のノースリーブシャツに、白のクロップドパンツ。さっき見ちゃったブラジャーはピンクの花柄(ガーベラ?)で、透けてるショーツもたぶん同じ色。掛けっぱなしの眼鏡は黒のブロー。……あ。眼鏡外してあげなきゃ。
寝ているお姉さんの眼鏡に触れる。うっかり顔に触れると起こしてしまう。だから慎重に。そーっと。そーっと……。親指と人差し指でブリッジを摘んで静かに抜き取る。……やる事は至ってシンプルなのに異常にドキドキする。心臓がバクバクして、体のヘンな所に血が集まり始める。やばっ……。早く抜かなきゃ。お姉さんの寝顔。化粧してないように見えるけど、綺麗だな。……なに考えてんだ、僕! お姉さんの鼻息。微か。湿って温かい。お姉さんの寝顔を見ながら、僕は眼鏡を抜こうとしている。ごめんお姉さん、今から抜くね。ごめん…………うっ。
無事に眼鏡を抜き終えた僕は、急に頭が冴えて、過去の出来事を思い出し始めた。
◆
つづく