薄明のハイドロレイダー

終末の休息……——謳え、惑いの響歌

92

「幸子《さちこ》、ちょっと先行ってて」

「ん、オッケィ☆」

　アタシは幸子《さちこ》と分かれて、通路の小さい扉から、中庭に出た。

「うー、寒《さむ》っ！」

　鼻がじん、と痛くなって、手足が急に冷えた。

　そのせいかもしれない。

　思ったより、強めの声が出てしまった。

「あのさ！」

「……みっちゃん」

　みっちゃん、と久しぶりにちゃんと呼ばれた気がする。

　月の下で振り返った宗《そう》ちゃんは、変なゴーグルをしてて、サンタみたいなグレーのつけ髭をしてる。

　何なのよ、それは！

「シュウジとゲーム、してたんじゃないの？」

「してたよ。楽しかったなー。みっちゃんもやればいいのに」

「下手だもん。すいませんね！」

「ま、難しいからね」

　バレていないと思ってるのか、宗《そう》ちゃんはホログラムモバイルを浴衣の袖にスッと仕舞った。

「……何なわけ？そのゴーグル」

　宗《そう》ちゃんはゴーグルを外した。懐かしい兄の瞳。

　黒い、秘密のビー玉みたいな。

「これ、格好いいでしょ？」

「は？」

「ほらさ、ヒーローみたいじゃない？変身！！みたいな」

　そうだ、宗《そう》ちゃんはこんなやつ。こんな風に始まって、シュウジが真似し始める。

　そして一回はアタシに強要し始めるから困る。

「……シュウジには勧めないでよね」

「なんで？好みじゃない？」

「アタシは絶対着けませんからね！」

「あはは、分かった」