91
そうしてアタシたちは交代に休みを取ることになって、ミーティングの次の日、幸子、母、シュウジ、宗ちゃんと温泉へと骨休めに来たワケ。
こじんまりした山間の日本旅館は、とっっても居心地が良くて、空気が気持ちよくて、木窓から見える景色はどこか懐かしくて、何もかも完璧だった。
ぐー……
休憩コーナーの片隅で小さくお腹が鳴って、気持ちのいいお湯と、甘くてさっぱりなソーダで満たされた体だったけど、お腹が減ってきたコトに気がついた。
「お腹減ったねぇ☆」
マッサージチェアで、見たコトないくらい新鮮な、初日の出みたいな優しい光を放つ幸子も、ぐー……とお腹を鳴らしていた。
満月に包まれる猫みたいにも見えた。
「部屋……戻ろっかぁ☆ご飯楽しみだね〜☆」
この秘湯の温泉宿はなんとペット AIdもお泊まりOK!
部屋で待っている楓のために母は先に戻り、アタシと幸子は売店を見たり、卓球したり、マッサージチェアに乗ったり、存分に、はしゃいだ。
「そろそろじゃない〜?☆ご飯……あー楽しみ☆」
「そだね、行こっか」
アタシは解けかけたお下げを結い直し、イスに掛けておいた半纏を羽織った。
いい感じにお腹が空いてる。
古い温泉宿の廊下はキシキシと軋んで、探検をしているようなわくわくがあった。
幸子と連なって、ぼんぼりに薄灯りが灯った廊下を進んでいく。
「なんか……楽しいねっ☆あれ?あれって……」
廊下の、羽目ごろしの窓の向こうに、月明かりが差していた。
その下に、ホログラムモバイルを持った宗ちゃんの姿。
「なんであんな所に……」
まさか仕事してるんじゃないでしょうね……




