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「よいしょっ……っと……」
手に、水が流れる感触が在った。
これまで、水に関する場所が瓦解し、ブルーホールのような深い水溜りがいくつか生まれている。
これは偶然なんだろうか……
「ハイドロレイダーの足元に、沢があったんだ」
通信機からサブローの声と共に、元の地形の地図が浮かび上がる。
美しい細い流れが、砂時計のようにサラサラと吸い込まれていく……——
雨みたいに注いでいた地底湖の水は止まっていて、足元に溜まった水がレイダーのくるぶしを冷やしていた。
「うわっ」
パシャン、パシャン……足元が水を揺らす。
弟は水溜りで遊ぶのが好きだった。
「あっごめんね」
「いいけど」
アタシもそうだった。
今更震えてる足に、少しずつ血が巡る。
ちゃぷちゃぷと歩いて、アタシは暗がりを見つめる。
「どうしたの?」
イヤリングが……
「シュウジ、あれ……」
揺れる。
「ディストレスかもしれない」
「……——ほんとに?」
弟の声は、
「うん」
穏やかだった。
ただ底に在るだけの闇の中に、アタシの足は進んでいた。
「たぶん、マックスとかポメ吉と同じような存在」
光の中でも、地の底でも、価値を持つ光り。
可視光線の外で、煌めいている——……
「ほら」
画面一杯のブラック・オニキスの原石が、ツヤツヤした命を発していた。
ただそこに在るのだ、輝きは……——




