684.5手記36
「雨沢宗一郎。日本が最初に作ったブレイズレイダーの適合者だ」
みっちゃんが、怒っていそうな気がした。
星ヶ咲家は俺のアパートの上の階に住んでいる、俺の姉、妹、弟……もうひとつの家族だ。
シュウジは時々、俺以上に聡いところがあって、みっちゃんは母にどこか似ている。
智恵子さんは血が繋がっていると錯覚するほどに懐かしくて、もう、失うのが怖かった。
父さんの研究が世界的に認められた時、上の家族は泣いて喜んでくれた。
私立中学に受かったばかりの俺は父と母を見送り、この家族となんら不自由なく、幸せに暮らす予定だった。
高校生になったら、首都で一緒に住もう。父と母と、そう約束して。
それが三年前。
俺は、どこにも動けなくなった。
「上のお姉ちゃん、みっちゃん、シュウジ、おはよー」
前と同じ声を出す……
「お茶碗……は割ったんだっけな」
心配させるな……絶対に。
「うん、おいしいね」
みっちゃんは、やっぱり怒ってる。
「みっちゃん、ご飯少しくれる?」
でもみっちゃんに許されることに気づいている俺は狡いだろうか?
「みっちゃん?おわっ!」
シュウジの重さが、懐かしかった。
智恵子さんに会いたかった自分に気づく。
猫、飼い出したのか……
「宗一郎君、来てくれてありがとう。お母さん、ミカ君、シュウジ君、雨沢宗一郎君だ」
「……三島、サブローさん、ディストレスってこれですよね」
「そうだ、全生物の急所のプログラムを追加したから、 HyLAの円盤で倒せるはずだ……」
また凪のような時間が訪れて、俺の時間は止まるかもしれない。
……それでも緋色の、自分自身の声が俺の背を暖めている。




