683
「大丈夫だったよん☆」
玄関のドアが開いて、幸子が少し疲れて、キラキラしながら帰ってきた。
「おかえり」
アタシはくるくると真っ白なシチューの入ったお鍋を、シリコンお玉でかき回していた。
森みたいにたくさん入れたブロッコリーと、大きめに切った人参色が、浮かんでは白に吸い込まれていく。
「いー匂い!☆手、洗ってくるね!!」
「はいはい」
「あっシュウジ君おかえりー☆☆☆」
くすぐったいような夕方の風景が、冬の気温に重なっていく。そろそろ暖房いれたほうがいいのかな……
「姉、ただいま」
「おかえり、パン何個食べる?」
「六個!!!」
「はいはい」
最近シュウジの身長が伸びてる気がする。
柱に付けた身長記録ホログラムは、シュウジとアタシの背が、母に近づいていることを意味していた。
気まぐれで測った幸子のしるしは、アタシより少し高いけど、同じ色でふわふわ浮かんでいる。
「最近、スムーズだよね、搭乗」
アタシはスープ皿を並べながら、ほっこりした気持ちで呟いた。
「まぁね〜、でもこういう時こそさ、しっかり見ないとさ」
「見るって何を?」
「自分のコト。ま、ミカは頑張ってると思うけどさ」
「何目線よ……まぁ、ありがと」
毎日同じ時間に寝て、確かに最近のアタシは元気だ。
壁のホログラムが、明日もきっと少しだけ幸子に近づく気がした。




