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遠い声が、急に腑に落ちる瞬間がある。
「サブローはアタシがいなくても大丈夫なんだから」
それは仁花が、大人になろうとする俺を励ますために言ったのかと思った。
でもそれは、こういう景色を予期していたのかもしれない。
ミカ君の黒い瞳は、空を反射していた。
サングラスを外した目を見せるのは、久しぶりだった。
「えと、案外いいんじゃない?うまく言えないけど」
「それって、目の感想?」
「う、まぁ。綺麗かもよ。楓の目に似てる」
ミカ君の家族の瞳ってことは喜んでいい筈だ。
「もう少し歩いても大丈夫かな」
「うん」
しまは、奥に行くにつれて、緑が濃くなってくる。
それから、風と寒さで枯葉が混ざる。
「足元が心地良いね」
妙に神妙な様子のミカ君は、愛おしむように景色を見ながら、——息をするのを一瞬、止めた。
「これって、咲きそう……じゃない?なんで……」
十一月の初め……季節は冬になるところ。
「帰り花って言うらしい」
「あ……知ってる……——忘れ花でしょ……?」
季節を選ばす咲く花。
環境によって姿を変える、AIdのように……
ミカ君の手に、水素針が握られていた。
「逃げよう、サブロー。みんなのところに」
君の左手がイヤリングに触れた。
この桜も、父が造ったモノかもしれない……
「大丈夫だよ、絶対」
またそう思えることを、仁花は予期していたのかもしれない……
「バーキング・アロー!!!」
だから余計に……
無意識に、水素針を握っていた。
ダイヤモンド……
「フリーズ……」
仁花……
会いたいよ——




